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観客が演劇の中に入り込む? 日本でも増え始めた「没入型演劇=イマーシブシアター」にハマった話

「没入型演劇」「体験型演劇」とも訳されるイマーシブシアターの魅力とは。

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 「イマーシブシアター」と呼ばれるエンターテインメントをご存じでしょうか。

 日本語では「没入型演劇」「体験型演劇」などと訳され、2017年に東京ワンピースタワーで公演された「時の箱が開く時」や、2018年にユニバーサル・スタジオ・ジャパンで上演された「ホテル・アルバート」などの有名どころを中心に、ここ数年で大小含めて少しずつ増えてきた新しいエンターテインメントの一つです。

 ただ、増えてきたと言ってもまだ公演自体少なく、特に日本では「没入型の演劇であること」という以外はあまり定まっていないように感じます。この記事ではそんなイマーシブシアターの魅力をもっと知ってもらうため、これまで参加してきたいくつかの公演を振り返りながら、その面白さを紹介してみます。

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「時の箱が開く時」の公演の様子
「HOTEL ALBERT」のイメージ画像

ライター:大原絵理香

川崎生まれ、東京とニュージャージー育ち。会社員とフリーランスをいったりきたりしながら生きている。PR、広報。あと、ライターと編集。CHOCOLATE Inc.所属。最近は、PR EDGE(ex-AdGang)の編集長も。
Twitter:@ericaohara

見る人によって変わる、唯一無二の演劇体験

 私が実際にいくつかのイマーシブシアターに足を運んだうえで、共通していると感じたのは以下の2点です。

  • フロアをまたぐような立体空間において、同時多発的に様々なストーリーが進んでいくこと
  • ドレスコードがあったり、観客がしゃべることが禁じられていたりして、その世界観が徹底されていること

 通常の演劇との最大の違いは、舞台上で行われる演劇を座って見るのではなく、複数の部屋やフロアにまたがる形で物語が進んでいくこと。物語に応じて演者も場所を移動するだけでなく、観客もフロア内を自由に歩き回りながら物語を追っていくことになります。

 そのため、例えば一緒に行った友人と違う部屋に入ることで別のストーリーを見ることになったり、ときには強制的に一人にさせられることで、全観客のなかで自分だけが衝撃的なシーンを目撃することになったり。複数人で参加したり、繰り返し参加したりすることで分かることもあるため、一度参加したくらいではストーリー全体を見るのは難しく、いわゆるトゥルーエンドにたどり着くことはできないかもしれません。

 しかし、この独特で、唯一無二の体験こそがイマーシブシアターの最大の魅力。公演後、一緒に行った友人たちや、同じ回の参加者たちと(公演後に有志でSNSを立ち上げたりして)、それぞれが見たシーンをつなぎ合わせていくことで、ようやくストーリーの全体像と、エンディングの意味を知ることができるのです。

 私が調べた限り、恐らく日本で最初の公演は2017年のダンスカンパニー・DAZZLEによる「Touch the Dark」とされていますが、世界を見ると2000年代にロンドンから始まり、ニューヨークのオフ・ブロードウェイでは「Sleep No More」と呼ばれ現在も(記事公開時点で10月のチケットが販売中)ロングラン上演が続いています。

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 日本でイマーシブシアターが広がってきたのは、筆者の体感では2018~2019年くらいから。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの特集で、「没入型体験」「新劇場型」といった言葉とともに新しい演劇・エンターテインメントとして紹介されたり、その時・その場所でしか味わえない「トキ消費」の文脈で紹介されたりと、メディアでも多く目にするようになってきました。

 本来であればこの流れに乗り、まさにこれからより多くのイマーシブシアターが生まれてきそうなタイミング……だったのですが、折悪しくCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)という向かい風を正面から浴びる形に。特に緊急事態宣言発令後は、イマーシブシアターというワード自体すっかり聞かなくなってしまっていました。

ニューノーマル下のエンタメとして実は優秀?

 しかし前述の通り、多くのイマーシブシアターにはドレスコードがあり、観客はもちろん、役者側が仮面や、例えばゴシックなデザインのマスクをつけていても違和感がないという利点があります。また会話が禁止されていることや、その特性上、一度に多くの観客を収容できない(通常の演劇ほど)ことも、ニューノーマル下のエンターテインメントとして実は優秀です。

 実際に、そういった点に注目したイマーシブシアターが新たにお台場にオープンしたり、今夏の予定も決まってきていたりと、最近になってようやく再び盛り上がりを感じられるようになってきました。ここからはそんな「これからのイマーシブシアター」を牽引していってくれるであろう団体と、彼らの作品を紹介していこうと思います。

USJ「ホテル・アルバート2」(現在は終了)

USJ「ホテル・アルバート2」

 日本でイマーシブシアターを広めた立役者として、やはりUSJの「ホテル・アルバート」シリーズを外して語ることはできないと思います。

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 ホテルのオーナー・アルバートの死後、アルバートの養女で不死身のキャサリンにあやかるべく、そのホテルを購入したカトリーヌ。「ホテル・アルバート2」では、彼女が開催する、不老不死を望む人たちのためのパーティーへ参加するところからストーリーが始まります。

「ホテル・アルバート2」のイメージ画像

 2018年にハロウィーン限定のアトラクションとして登場し、翌2019年には「2」となって上演された「ホテル・アルバート」。R-15で「完全没入型ホラーメイズ」と銘打たれており、確かにいくつかの事件を目の前で目撃することにはなるのですが、怖いというよりは、ゴシックな雰囲気の中でミステリーを楽しむという側面が強いと感じました。

 当時日本ではまだ珍しかったイマーシブシアターがそれなりの規模で開催されたというだけでなく、その世界観や登場人物に魅了される人も多く、特に女性の間で人気が高かったシリーズです。加えて、一部の選ばれた参加者しか体験できない特殊ルートが存在したり、誓約書への同意が必要なためネタバレがほとんど出なかったりしたためリピート人気も高く、早い段階からチケット完売が相次いでいました。

DAZZLE「Venus of TOKYO」

 日本初の常設イマーシブシアターとして、お台場のヴィーナスフォートにオープンした「Venus of TOKYO」。特別に招待された者しか立ち入ることができない、秘密クラブで行われるオークションに、黄金の林檎がその手に握られていたという伝説のある「ミロのヴィーナスの失われた左手」が出品されるらしい――というウワサから始まるミステリーです。

 ダンスカンパニー・DAZZLEらしく、ダンスがメインになっており、スピード感があり、時には目の前でダンスが繰り広げられ、その迫力に圧倒されます。

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開演直後に目の前でダンスパフォーマンスが行われる
奴隷の少女を物のように扱う富豪

 感情を失っており、命令通りに動くことしかできない「奴隷の少女」や、金やモノをどれだけ持っても満足できず、女性をモチーフにした美術品で心を満たす「富豪」など、総勢10人の登場人物とともにストーリーが展開。とにかく舞台となる部屋が多いので、さまざまな場所を回りながら(中にはかなり見つけにくい部屋も)、できるだけ多くのシーンを見ておかないと、ストーリーの全体像を把握するのは困難です。私も一度だけで全てを理解するのは難しいと感じました。

 しかし、ストーリーのキーとなるオークションに参加するための紙幣(1万VOID)が来場ごとにもらえ、それを貯めることで実際にアイテムを競り落とすこともできるようなので、もともとリピート参加を前提にしているのかもしれません。

 また、一度でできるだけ多くの情報を手に入れたいのであれば、特別な体験ができる「プレミアムチケット」も存在。これをを使用することでよりストーリーの真髄に近づけるようなので、予算に都合がつけばこちらで入るのもおすすめです。

泊まれる演劇「MIDNIGHT MOTEL」

 実は、私が本当の意味での没入感を味わえたのがこの「泊まれる演劇」のシリーズでした。その中でも、今回は最新作である「MIDNIGHT MOTEL」を紹介します。

 最果ての地に佇む一棟のモーテル。旅人で賑わうロビー。幾多の出会いを生んできた客室。幾多の物語が育まれたモーテルだが、とある悲しい事件を境に少しずつ客足は遠のき、ついに閉館の日を迎える。怪しいネオン灯に照らされたロビーや、古びたレコードが鳴り響くアンティーク調の客室。モーテルを訪れたあなたは、奇妙な噂を耳にする――。(公式サイトより)

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 ホテルの中を歩き回り、さまざまな情報を集めながらストーリーを紐解いていく「泊まれる演劇」のイマーシブシアター。登場人物の部屋に行くだけでなく、ときには自分の部屋に登場人物が直接来訪してきたりすることもあります。

スキャンダル女優から頼まれて服を手渡してあげる

 前述の通り、多くのイマーシブシアターでは観客がしゃべることは禁じられているのですが、この「泊まれる演劇」ではその縛りはありません。登場人物たちと自由にコミュニケーションを取ることができ、質問をしたり、アイテムを手渡したりすることができます。

 特に感動したのが、終演後のロビーや各登場人物の部屋で「さっきは○○しちゃってごめんね!」「あのときのあなた、○○していたよね!」など、劇中に行った自分の行動に対し、完全にパーソナライズドされたオリジナルのセリフが飛び出したこと。他にも、登場人物に好きな曲を聞かれ、答えるとその場でサビを弾いてもらえたり、登場人物の部屋を勝手に物色していたら「勝手に入ってきて部屋をあさりはじめたからびっくりしちゃったよ~(笑)」といじられたり……。

 恐らく、設定や世界観がしっかりと作り込まれており、役者さんたちにもそれが共有されていて、かつ彼らのアドリブ力が強いからなせるものだと思うのですが、これによる没入感はすさまじく、何度か「これはリアルなのか、それとも演劇というフィクションなのか」、本気で分からなくなるほどでした。

即興で好きな曲を弾いてくれたことで私の推しとなった、声を失ってしまった元ミュージシャンのハイジ

謎を解くのも、演劇として楽しむのも自由

 いくつか説明してきましたが、没入し、体験することが本当に魅力的なエンターテインメントなので、イマーシブシアターの魅力を言葉で伝えるのはなかなか難しかったかもしれません。が、もしこれを読んで興味を持っていただける方がいたなら、今回ご紹介した「Venus of TOKYO」や「泊まれる演劇」はまだこれからでも参加できるので(※)、ぜひ一度遊びに行っていただけたらと思います。

※「Venus of TOKYO」は2022年3月末ごろまで毎日公演、「泊まれる演劇」は11月に大阪のHOTEL SHE, で公演予定

 ちなみに、イマーシブシアター参加者を見ていると、リアル脱出ゲームファンやボードゲーム好き――特に人狼やマーダーミステリーなど――が多いイメージがありますが、謎解きが苦手な人でも“演劇”として十分に楽しめますし、できるだけ多くのシーンを見て全体のストーリーを追ったり、あるいは推しの登場人物や役者ができたらその人の行動だけを全て追ったり、特別な体験やアイテムを手に入れるために行動したりと、一口にイマーシブシアターといっても本当にさまざまな楽しみ方があります。

 まだまだコロナ禍で厳しい状況ではありますが、こうした魅力が少しでも多くの人に伝わり、新たなイマーシブシアターの成熟につながっていくことを、一人のファンとして願わずにはいられません。

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