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『ちいかわ』が“幸福論を問う作品”であるという決定打 なぜ「オフィスグリコちゃんのカエル」でTwitterがどよめいたのかあのキャラに花束を(2/4 ページ)

ファンシーだけど、リアルでだいぶ辛いって『ちいかわ』読者はもう知っている。

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討伐対象(以下・でかつよ)

 それまで『ちいかわ』ファンの間でうっすらと出ていた仮説が立証され、Twitterがどよめいた回がありました。

 ちいかわ層の子たちは、討伐対象(名前がないので以下「でかつよ」とします)のモンスターに変化するのではないか、という説です。

 以前ちいかわがシール貼りの仕事をしていたとき、となりの子(ファンによる通称・オフィスグリコちゃん)と意気投合したことがありました。その子とちいかわは、カエル型の貯金箱にお金を入れてお菓子をケースから取って食べる、オフィスグリコ的な食べ物をちいかわと交換したり、同じパジャマを着ている話で盛り上がったりと、次第に仲良くなっていきます。

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ちいかわにとっての貴重なお友達でした

 ある日、巨大でものすごく強いでかつよにちいかわ・ハチワレ・うさぎの3人は出会います。あまりに強すぎて、全く歯が立たない。そのでかつよはちいかわを見て、近くにいたカエルを指さします。さすがにそれだけでは、なんのことか全く分かりません。ここ、非常にレアなでかつよとちいかわのコミュニケーションのシーンです。

 ファンは察しました。「もしかして通称オフィスグリコちゃんがあの怪物になったのでは?」

 オフィスグリコちゃん、突然仕事に来なくなりました。いや待て、まだ確証はない。カエル……いやでも仕事はまだまだいろいろあるしたまたま来なかっただけかもしれない。

このカエルがとても重要なヒントに

 その後かなりたってから、ちいかわたちが出会ったのと同じでかつよが出てきました。討伐しようと勇んできたちいさい生き物たち。しかしちょっと払っただけで吹き飛ばされてしまい、泣きながら逃げていきます。

チクリ、なんです。力の差は歴然すぎる

 そのでかつよは寝る前に、過去を思い出します。シール貼りの厳しい日々。うまくいかない討伐などの労働。辛かった思い出が次々湧いてくる。その一方で強くなった自分のことを思い浮かべ、ニヤリとする。笑顔になって、大きくて強い自分の今の姿を喜んで、エンド。

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Twitterでファンが騒然となった、問題の回。回想シーンにちいかわがちらっと出ています

 ちいかわと同じパジャマ。ほぼ確定です。ちいかわとシールを貼っていた子が、でかつよになってしまった。こんなことってあるのかと、ファンは分かってはいたものの、大混乱。『ちいかわ』がただのメルヘンじゃなく、幸福論を問う作品だという決定打を、ついに出してきました。

 ここだけ見ると「闇堕ち」とか、「まどか☆マギカ」の「魔女化」にも見えますが、そうではないです。なにより、この子は幸福そうです。

 オフィスグリコちゃんは労働のつらく孤独な生活から脱却し、大きくて強い身体を選びました。だからそれに対して「かわいそう」というのは間違い。今はとても強くなれて、幸せでいっぱいになっています。

 小さくかわいい存在でいることが幸せである、というのが漫画で描き続けられてきたし、でかつよは倒されるべき悪として表現されてきたので、どうしても幸福を小さい方に求めてしまいたくなります。でも「これも幸福の形なのだ」という表現を具体的に入れたことで、敵と見なされる側の価値観の違いを表現しました。ちいかわ層と討伐対象、どちらがより幸福か、という比較はできません。とはいえ、もしちいかわやハチワレやうさぎがでかつよキメラになったら……とは考えたくないのも事実です。一度なりかけたこともありましたが、その回はほとんどホラーでした。

 またそれとは別に、ちいかわたち3人が妖精のような姿になったことがあります(でかつよ系とどう違うのかは不明)。ちいかわにとってその姿は、とても自由でかわいくて楽しいものでした。もしかしたらこれが、ちいかわの理想、願望だったのかもしれません。このまま妖精でい続けるか、もとの労働の日々に戻るか、自身の幸せのあり方が問われます。

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 ちいかわが元に戻る決意をしたのは、友人たちとの日々の思い出があったからでした。このシーン、ぜひ先程のオフィスグリコちゃんの回想シーンと比較してみてください。

作者ナガノのなりたいもの

 そもそも『ちいかわ』という作品は、もともとは作者のナガノがなりたいものを描いた作品。なんか小さくてかわいらしいものになりたい、という願望がちいかわというキャラクターを生みました。願望そのものの原型はありつつ、人格を持って一人歩きしているのが現在だと思います。

ここが最初の地点。今見ると随分成長したものです(1巻冒頭より)

 と同時に、ナガノはでかくて強い存在になりたいという描写もしています。どちらになりたいかを、個々が選択しているのが『ちいかわ』世界という仮定がここで生まれてきます。

力を持ってねじ伏せているのが、小さくてかわいいやつなのがミソ(同じく1巻冒頭より)

 オフィスグリコちゃんは、小さくて苦しい生活よりも、大きくて強い自由を選びました。ちいかわは小さくて弱くて日々が労働でしんどくても、ハチワレやうさぎとの友情に幸福がある今の姿を選んで暮らしています。

 人間と動物が接する時にどちらが幸福かなんて分けることができないように、ちいかわもでかつよも、どちらにも幸福はあります。でも、その幸福の価値観は大きく異るため、どうしてもぶつかりあうこともあり、共存は非常に難しいようです。ちいかわ層がでかつよ層に襲われるのを恐れるように、でかつよ層だってちいかわ層に討伐されたくはないはず。なぜ襲うのかというと……先ほどの様子を見るに、力があると感じることが幸せだから、でしょうか。

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