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いよいよ放送開始、アニメ「5億年ボタン」菅原そうた監督インタビュー 今も語られ続ける伝説的漫画は“原作者本人”の手でどう生まれ変わったか(2/3 ページ)

トレパネーション、スワンプマン、哲学的ゾンビ、水槽の脳……出てくる単語にゾクゾクさせられます。

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アニメで哲学的思想に切り込む挑戦

―― 内容はどのような構成ですか?

菅原:1話から4話までは「5億年ボタン」の話、そのあとは毎回一話完結の「世にも奇妙な物語」みたいな感じですね。

―― 菅原そうたさんの作品はトニオちゃんも「gdgd妖精s」も、哲学思想が根底にありますよね。

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菅原:今回はめちゃめちゃそっち寄りの内容ですね。3話目は特にそっちに玉を投げたので、「宗教じゃん!」と思われかねない内容だと思います。ただぼくは、仏教哲学とか仏教思想に興味があってそういうのも描くんですけど、ぼく自身は仏教哲学を観測するのが好きなマニアで、ガチのお坊さん的なことは全くやっていないです。プロ野球選手に憧れた人が野球漫画をネタとして読んでいるような感じですね。

5億年何もない場所で、何をする?

 

―― この20年間、5億年ボタンを押すか押さないかがインターネット上で連綿と議題に上がり続けるくらいですから、人間の本能に刺さる部分があるのかもしれません。

菅原:「5億年ボタンを押す」派の人たちの意見の根拠として、「スワンプマン」という思考実験があげられます。ある男に雷が落ちて死んでしまい、その瞬間ドロから“全く同じ身体で同じ記憶を持っているように見える男”が生まれる、それは本人なのかどうか、という思考実験です。5億年ボタンの場合は、押して向こうで5億年過ごす方は、別人格として向こうで生きている泥人間。終わった瞬間泥人間にあたる存在は死んで自分は戻ってくるのだから、別人じゃんっていう考え方です。それなら押す派の意見も分かる気がしますよね。

―― 知っている人でもあらためて今回のアニメを見たら思考するのが楽しくなりそうですね。

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菅原:「5億年ボタン」の話が一段落してからは、どんどん思考実験の話をやりたいなと思っています。だから思考実験に興味がある人は、途中からでも見てくれたらいいかもしれないです。

―― 特に今はバーチャルが話題の時期なので、思考実験的な話は出ている気がします。スワンプマンとかテセウスの船(※)とか。

※ある物体を構成するパーツを少しずつ置き換えていき、やがて全て置き換わったとしたらそれは元の物体と同じといえるのかという問題

菅原:例えば会社が、どこまで分解されてどこまで再結成されたらその会社なんだろうとか。VTuberも身体と心と運営があったら、どこまでテセウスの船なのかとか。

 

つまらなかった時代から世界から楽しい世界へ

―― 今回VSingerの幸コさんと理芽さんを起用したのも、びっくりしました。

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菅原:KAMITSUBAKI STUDIOさんですね。今一番とがったかっこいいジャンルだなと思っています。理芽さんとかは80年代SFのかっこよさの匂いもしますよね。マニアにはたまらないセンスのよさです。

VSinger(バーチャルシンガー)の理芽。SF的世界観のMVはかなり個性的

 

―― 起用に立ち会ってみて、「gdgd妖精s」のときには全くない文化だったVTuber文化をどう感じておられますか?

菅原:ぼく、19歳から20歳のころ、世界がつまらなかったんです。「gdgd妖精s」前夜もCGクリエイターとしてはなかなか出口がなくて、どうやって生きていこうか迷っていました。でも今のVTuber文化は、CGをやってきた面々が食っていけそうになってきて、すごくいい時代になったと思っています。みんな途方に暮れずに済みそうな、望んでいた未来に向かっている、って。

―― 19歳のとき世界がつまらなかったというのはなぜですか?

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菅原:PCもネットもなかったからです。3Dが作りやすくなって、インターネットも出てきて、世界が楽しくなりました。ぼくはトニオちゃんを作り始めてから、世界が面白くなりました。2000年前後でポケベル、PHS、ケータイと大きく動いて一気に変わりましたよ。

 

生と死に直面して変わってきた世界の見え方

トレパネーションをした女子高生……「5億年ボタン」は出てくる単語がどれもこれも普通じゃない

―― スネ子の解説に「頭蓋骨に穴を開けるトレパネーションを行ったことがある」とあるんですがこれどういうことですか?

菅原:スネ子は哲学が好きなので、現実ってなんなんだろうとこの世界の真実が知りたくなって、トレパネーションの手術を行うんですよ。

―― えぇ……!? あっ、『ホムンクルス』(※)ですね。

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※山本英夫の漫画。頭蓋骨に穴を開けるトレパネーション手術で第六感を得る話

菅原:そうです、『ホムンクルス』の山本英夫さん本人に「これ使っていいですか?」っていったら「いいよー」って言ってくださいました。エンディング映像を作ってくれているビームマンPさんという方も『ホムンクルス』大好きみたいで、それを聞いて大喜びで映像を作ってくださってます。

―― だいぶヤバいところに踏み込んでませんか……?

菅原:今回ブレーキのリミッターはゼロです(笑)。サウナに入って「ととのう」回があって、音楽は「サ道」のとくさしけんごくんが曲作ったりしています。たまごまごさんはサウナは行かれてますか?

―― ぼくは心臓が弱いのでちょっと無理できないんですよ。

菅原:そういうのありますよね、ぼくもサウナに行ったあとに、いきなり立てなくなっちゃって病院に行ったら「骨髄が漏れている」って言われちゃって。それで、低髄液圧症候群を発症して慢性硬膜下血腫も合併して手術して完治しました。

―― そんな大手術されてたんですか!?

菅原:2018年の「おにゃんこポン」「gdメン」「でびどる!」をやっているときに起きました。立っても座っても3分後には耐え難い頭痛がしちゃって、持たないのでずっと寝っぱなしでしたね。MRIに行ったら「放置してたら死んでた」って言われて、手術して穴を埋めました。

低髄液症候群で入院し、ベッドで寝たきりの中、どうしてもアニメを作らなければならず作業を続けていた菅原そうた監督。壮絶……

―― そんな大病を経験したら、作品にも影響しそうな気がします。

菅原:今はすっかり治りましたが、治る可能性が30%とかだったみたいです。同じ病室の方は治らなかったらしくて。でも数年もするとありがたみ忘れちゃいますね。生きてて当たり前になっちゃってる。

―― それもまた人間の不思議なところですね。

菅原:ここ3年人生の転換期で、世界観がグルングルン回っています。子どもが生まれたり、父ちゃんが死んだり、死にかけたり。果たして何がいいことなのか分からなくなっちゃった。「社会で成功するために頑張りなさい」って言われていた学校の話自体、子どもが生まれたら無価値に思えてしまったんです。何のために承認されなきゃいけないんだろうって。ぼくは今まで、服買ったりライブ行ったりとかいろいろカルチャーを経験して卒業した上で、もう40代になると全部に飽きてつまんなくなっちゃっていたんです。

―― なぜ飽きてしまったんですか?

菅原:そう感じた理由の一つが、全部のものに自分なりの記号をつけて俯瞰的に考えるようになっていたからなんです。けれど、子どもは世界に何も記号も付けていない。砂があったら触っているだけで面白がるし、ダンゴムシを見つけたらそれで延々と一日過ごしていける。自分も公園のダンゴムシに興味が持てる世界観に変わっちゃった。そもそも、砂が、ダンゴムシが、自然が、世界が、記号なしでめちゃめちゃ面白いじゃんと! てぇてぇと! 全ての親が何かしら感じてきていることだと思うんですけど、あらためてびっくりしています。

―― お子さんが生まれて、自身の作風が変わったと感じる部分はありますか?

菅原:2008年くらいのころは若者気分だったので、「ネットミラクルショッピング」というアニメでおじさんを気持ち悪くいじったりバカにしたりした差別ネタを入れていました。そもそも全員等しく生きてていいのに、なんで人のことを見下すようなネタを入れちゃったのか、と思うようになったので、なるべく全肯定でいきたいなと思うようになりましたね。だめな人を見て笑うことは、上下のある世界観に自分も加担することになる。

―― 視点がガラッと変わったんですね。

菅原:……本当は、傷つけるタイプのお笑い自体はぼく大好きなんですよね(笑)。でもそれをやっちゃいけない理由が分かるようになりました。一方で今は愛があった上で、自分も同じくらいおちょくられてもいい。見下されてもいいと思っています。笑われることもおいしいので自分も笑われたいとも思います。そもそも上も下も本当はないと思うので、変で面白い笑える気持ち悪いおじさんとして40代を生きます。

 

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