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「ONE PIECE FILM RED」が賛否両論を呼ぶ理由 ウタが実現した「新時代」とは? 深い物語をネタバレありで考察(2/3 ページ)

「オマツリ男爵」にも近い、悲しく恐ろしい物語だった。

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 いわば、ウタは理想郷のような夢の世界がずっと続けばいいと願い、そこに逃げて救われることをただただ望んでいた。もっと言えば、摂取すると数時間後に死んでしまう「ネズキノコ」を食べることも、彼女は自殺だとは思っていないのだろう。自分の肉体が死んでも、その夢の世界が続くのであれば、それは「死」ではないのだと……。ウタのこうした認識の「ズレ」や、仮想世界(バーチャル)のような世界に逃げ込もうとした行為も、側から見れば「死」そのものであるというのも、本作の悲劇性を増している。

画像は第2弾予告より

ウタは果たして「死んだ」のか?

 物語の結末では、ウタが死んだかどうかは明確には描かれていない。だが、ウタはシャンクスから差し出された薬を拒否しているし、「四十億巻」には「死にゆくウタ」という記述もある。ウタという肉体を持つ人間が死んだこと、そしてウタが当初意図した「永遠の新時代を創る」計画が失敗したことは間違いないように思える。

 だが、エンドロールではウタの歌を聞いている人々の姿を映し出していく。つまり、これは「ウタが死んでも、彼女の歌は遺り(残り)続ける」ことが示されているのだ。

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 ウタは人々から救世主であるかのように慕われるプレッシャーと、自身が大量虐殺者であるという罪を背負ったがために、歪んだ形での新時代を創り、そこに人々を押し込もうとしていた。だが、そうしなくても、彼女の歌はこれからも人々を救い幸せにしていく……という結末は悲しくはあるが、それ以上に優しさを感じるものだ。

 そう考えれば、ウタの死を明確にしなかったことにも納得がいく。彼女(の歌)はある意味で、生き続けていると言えるのだから。

画像は第2弾予告より

最後のセリフのモヤモヤ

 だが、ウタの死を曖昧にするという結末そのものにも賛否両論はあるだろう。個人的にさらにモヤっとしたのは、エンドロール後の最後のルフィのセリフ「海賊王に、俺はなる!」というおなじみの意気込みだった。

 ルフィがウタの死を知ったかどうかは定かではないが、いつもと変わらずにそう高らかに宣言するルフィが、もはやサイコに思えてしまったのは筆者だけではないだろう。ルフィが揺らぐことなく人生の目的を持ち続けるのはいいのだが、例えばその夢を否定してきたウタの心情を想いながら「ウタ、それでも俺は海賊王になるよ……」などと神妙な面持ちのまま言うなどして、変化を見せてほしかった。

 もっとも、ルフィは原作からして歪(いびつ)な部分を抱えているキャラクターであるし、原作の「正史」に戻さなければならない「縛り」のある劇場版としては、まっとうな着地とも言えるのだが……。ルフィが「アーロンパーク編」を連想させる「当たり前だろ!」と言って戦うシーンが感動的だっただけに、もう少し別の描き方があっても良かったとは思うのだ。

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 また、過去のシャンクスの行動も納得し難い。子どものウタに、本当の親のように思っていた自分に憎しみを向けさせ、しかもほぼ壊滅した街にゴードンと共に残して、歌姫になれ、という選択を強いるシャンクスの行動はあまりに無責任だ。海賊の旅にこれ以上子どもを同行させたくなかったという親心は理解できる。だが、それをきちんと伝えなかったことが悲劇の引き金となっており、作中ではコミュニケーションを怠った反省は見られない。

 ウタに大量虐殺者という事実を知らせたくなかったとしても、ウタも一緒に連れて行けばよかったのではないか? せめてもう少しだけでも「シャンクスはこうするしかなかった」という描写の積み重ねがあればよかったのだが……。

 こうして振り返ると、あらためて恐ろしくも悲しい物語であるし、はっきり歪だと思えるところもあるが、それでも筆者は「ONE PIECE FILM RED」が好きだ。つらい人生を歩み、過度に責任感や罪悪感も持ったために、歪んだ価値観による幸せを他者に押し付けてしまうウタの心理は、現実の世界でも他人事ではないと思うからだ。そのために、『ワンピース』という大人気作で、善人と思われたゲストキャラクターの闇落ちや、海賊という概念の否定という、賛否両論を呼ぶことを厭わないような、ある種の挑戦をしたことを称賛したい。

 そして、ウタの言うような「ずっと平和で幸せな世界」は現実にはあり得ないかもしれないが、それでも現実に帰った人々が、それに近い「新時代」を目指すことはできるのではないか、とも思える。そして「最終章」を迎えた「ワンピース」本編の物語が、幸せな結末になることを願っている。

ヒナタカ

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