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18歳で自死した高専の学生を描いた実話漫画が波紋 教師のハラスメントが原因か 遺族は「隠蔽がひどい」と批判(2/3 ページ)

遺族に話を聞きました。

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「東京高専の隠蔽がひどい」遺族の正行さんが批判

生前の陽向さん(写真提供:正行さん)

 「陽向は学内では人を楽しくさせ、親身に人の話も聞いてあげていたそうです。初めての場所や場面でも自分の役割を理解して、行動していました。(同じような立場の人をサポートする)ピア活動にも興味があり、自死した翌年には学内で精神的に困っている学生を支援する活動に参加することになっていました」(正行さん)

 そんな陽向さんの自死に追い込んだのは「Xのずる賢いやり方」だ、と正行さんは主張します。深夜に受けることもあった会計監査について、背景をこう話しました。

 「Xの学内他団体への対応はまったく正反対な温厚なもので、私情にもとづく極めて不適切な指導をしていたそうです。現に、少なくとも2016年以降、会計監査では人を対象にした聞き取り監査は実施されていませんでした」

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 「監査委員には陽向よりも上級生が指名され、監査委員がXに指示を仰ぎながら監査を進めていたことが確認されています。背後にXが存在することは友人とのLINEでのやり取りで陽向にも伝えられており、陽向もそのことを認識していました。Xは陽向と直接やり取りせずに、学生を使いながら陽向を追い込んでいったのです」

 X先生による陰湿なまでの陽向さんへの言動は問題視されてしかるべきでしょう。しかし、X先生のみならず、その後の東京高専の対応にも問題が横たわっていた、と正行さんは指摘しています。

 「学校側はX先生が学生会に謝罪したことで問題は解決したと思っていたそうですが、実際はそうではありませんでした。謝罪の後、学生主事はXに『学生会長(陽向さん)とは距離を取るように』『言葉遣いに気をつけるように』と注意をしただけで、根本的な和解をさせていないのです」

 「(陽向を追い詰めるに至った会計審査についても)陽向が会長に就任する以前の4年間にわたり、多額の使途不明金が見つかっており、東京高専の会計管理が杜撰(ずさん)だったことが明らかになっています」

 陽向さんが自死した後も東京高専の体質は改善しておらず、正行さんは東京高専について「隠蔽(いんぺい)がひどい」と批判しています。陽向さんが提出した「ハラスメント申立書」の存在を認めていたにも関わらず、文科省にクレームを入れるまで提出しなかったり、申立書を正式に受理していないため、学校長には報告していないと主張してきたり、自死事件の前日と当日の状況を省いて基礎調査書を提出してきたりしたというのです。

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東京高専のみならず、高専機構にも問題ありか

生前の陽向さん(写真提供:正行さん)

 高専機構が設置した第三者委員会は、当初2022年3月末をめどに報告書をまとめる予定としていましたが、いまだに報告書を提出していません。高専機構や第三者委員会はどのような闇を抱えているのでしょうか。

 「2022年のゴールデンウイーク明け、第三者委員会の委員のなかに『中立性に疑念がある人物がいたことが分かった』と連絡を受けました。東京高専の現学校長と前学校長と、以前職場が同じで面識がある大学教授が第三者委員会のメンバーとなっていたのです。この大学教授は高専機構が第三者委員会の委員選定の際、追加で1名推薦してきた人物でした」(正行さん)

 この点について、ねとらぼ編集部が高専機構に問い合わせたところ、「第三者調査委員会の委員の1人が東京高専の関係者と委員就任以前に同一機関で勤務していた経歴が明らかになったことから、委員を辞任いただいたことは事実です」と認めました。

 正行さんはこのような経緯を踏まえ、「学生、教員に対するヒアリングの結果がその人物を介して、東京高専に漏えいされた恐れがあります。その大学教授を推薦した経緯・見解について、高専機構に文書での回答を要求して回答が来たましたが、はぐらかす内容で経緯について曖昧な内容の説明となっていました」と非難しています。

 「中立性に疑念がある大学教授が第三者委員会にいたことが判明したにもかかわらず、高専機構は自らその事実を公表することは考えていなかったといいます。第三者委員会の設置者として、あまりにも当事者意識も責任感もありません。現在、どのような経緯でその大学教授を推薦することになったのか、どのような確認をしたのかについて説明をし、きちんと公表するように要求しているところです」(正行さん)

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 報告書はいつごろ提出される予定なのでしょうか。ねとらぼ編集部が問い合わせたところ、高専機構は「調査報告書は第三者調査委員会が作成するため、作成時期に関するご質問にはお答えできかねます」とコメント。それに対して、正行さんは「報告書がいつ提出されるのかは検討がつきません。第三者委員会の設置者として、高専機構がこれまでのいい加減な対応を改めて、今後、責任感・緊張感を持って対応していただけるのか不安しかありません」と不満をあらわにしました。

“高専生の自殺”は平均的に高校生の3倍、大学生の2倍

陽向さんの遺影(写真提供:正行さん)

 正行さんは一方で、高専生の自殺率は高さにも目を向けるべきだと訴えています。高専で自死する学生は平均的に高校生の3倍、大学生の2倍だとされているからです。なぜ高専で自死する学生は多いのでしょうか。厳しい進級基準などによる進級、卒業へのプレッシャー、教師の生徒指導などの経験不足、5年間同じクラスで学ぶ場合が多い学級編制などが原因ではないかと指摘されています(※)。

※そのほか、中学校を卒業した後の早い段階で留年する可能性が高く、メンタルに大きな負担がかかるという懸念や、「体育」の授業が学校・学年によっては選択制や半期のみで、身体運動が少なくメンタルに影響を与えているのではないかという推測も存在します。

 このような大きな課題を抱えているにもかかわらず、“高専生の自殺”は社会問題として、あまり認知されていないと言わざるを得ません。正行さんは「私は2018年から東京高専の後援会で理事をしていました。後援会の幹部は知っていたようですが、私は学生の自死について話を聞いたことはありませんでした」と振り返りつも、「高専生の自死については、2021年に参議院の文教科学委員会でも質疑として取り上げられており、当時、萩生田元文科大臣も答弁しています」と、社会問題として向き合うことの重要性を強調します。

 「レポート、試験のプレッシャー、進学、就活の不調、人間関係など、高専生が追い詰められる要素は多々あると思います。ただ個人的には、自死に至るのはフォローする役割の人間が身近にいない、あるいは身近過ぎて頼れないことが大きいのではないかと考えています」(正行さん)

 もし陽向さんと同じように追い詰められている子どもがいた場合、何かかけてあげたい言葉はあるのでしょうか。そう聞くと、正行さんはこう語りました。

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 「『頑張って乗り越えよう』とは言えません。亡くなる前の陽向にも(安直に)励ますような言葉をかけてしまっていたと思います。今もつらい思いをしている高専生はいるでしょう。ただ『私はあなたの味方だよ』と声をかけ、あなたが苦しんでいること、不安に思っていることを一緒に考えていこうと伝えたいです。1人でも味方がいることが自殺を思い止まるゲートの1つになると思います」

 さらに、正行さんは今後同じような悲劇を繰り返さないためにも、陽向さんの自死事件について、教員が学生を追い込み、死に至らしめた過程で、「何が起こっていたのか、どうすべきだったのか、どうあるべきだったのか」を東京高専や高専機構が隠蔽せずに検証することが重要だ、とあらためて主張しました。

 「陽向を追い込んだ教員は、まだ東京高専で教鞭をとっています。遺族としては言葉にできないほどの憤り、悲しみ、絶望感を抱きながら、これまで過ごしてきました。遺書にも書かれていた陽向の思いはこれ以上、学生を苦しめて命を危うくさせることのないように学校に望むものでした。陽向は命を落としてしまいましたが、東京高専、高専機構、文科省にはその思いにどうか真っ直ぐに向き合って真摯に対応してもらいたいです」

 ねとらぼ編集部では正行さんの指摘について高専機構に問い合わせましたが、「現在『東京工業高等専門学校の自死事案に係る第三者調査委員会』における調査が継続しており、事実関係に関するご質問にはお答えできかねます」とのコメントでした。

作品提供:榎屋克優さん、協力・写真提供:野村正行さん

【2023年12月11日11時55分追記】一般社団法人インターネットメディア協会(JIMA)による「自殺報道についての考え方」にもとづき、一部記述を変更しました

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