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「野次馬がスマホを向けるとケガ人が死に得る」誤った投稿拡散 医者「生死には影響ない」と否定(1/2 ページ)

医者に取材したところ、誤りとみられることが明らかになりました。

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 ケガ人にまわりの人が「うわ、すごい血が出てるよ」「足無くなってるよ」などと言ったらショックで命を落とすことがあり、こぞってスマホでケガ人を撮影する場合も同じことが起こり得る――。SNS上で真偽不明な情報が出回っています。ねとらぼ編集部が該当投稿について医者に取材したところ、誤りとみられることが明らかになりました。

画像はTwitterより

 該当投稿の主張は以下の2点です。

1.救護をしているケガ人にまわりの人が「うわ、すごい血が出てるよ」「足無くなってるよ」などと言った瞬間、ショックが起きて死ぬことがある

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2.まわりの人がこぞってスマホを向けて動画や画像を撮影していても、同じようにショックが起きて死ぬ可能性がある

 投稿者は前者については大学の講義で習い、後者については主治医から聞いたとしています。該当投稿は約4万1000リツイート、約12万7000いいねを集めるなど、大きく拡散(11月11日18時00分現在)。

 返信のなかには、

3.パニックになると、心拍数が跳ね上がるから出血量が増える

4.ドラマで登場人物がケガ人に「深呼吸だ」など優しい言葉をかけている。ケガ人には同じように接するのが良いのではないか

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 など、真偽不明ながら主張を裏付けるかのような投稿も見られ、該当投稿は疑われず“事実”として知れ渡っています。

画像はTwitterより
画像はTwitterより

 これらの主張は本当なのか。ねとらぼ編集部では、医療法人社団藤和会あんどう内科クリニックの安藤大樹院長と、新見正則医院の新見正則院長に取材しました。

1.「血が出てる」などの言葉がショックで死ぬ → 誤り

 まず前提として、ケガ人にまわりの人が「うわ、すごい血が出てるよ」「足無くなってるよ」などと言ったら、ショックで命を落とすことはあるのか。安藤院長と新見院長はともに誤りだと指摘しました。

 安藤院長は「聴覚に関わる『蝸牛』という臓器は、虚血状態(血液の流れが悪いこと)に強く、亡くなる寸前まで機能が保たれます。脳死の判定でその反応があるかないかを判定項目の1つにしていることからも分かります。実際、臨終の現場では、たとえ意識がない状態でも、家族の声掛けで少し血圧が上がったり、脈拍が増えたりすることをよく経験します」と前置きしつつも、こう話します。

 「声掛けの内容にまで反応できているかというと、おそらく難しいと思われます。言葉の内容を理解する大脳の大部分が、血流低下でほぼ機能していないためです。さきほどの例では、身内の方など、本能的に安心できる声だったり、聴き覚えのある声だから反応していると思われます。言葉として理解できず、かつまったく聴き覚えのない声で言われても、多少心電図の波形に変化が出る可能性はありますが、その人の生死に影響が出る可能性はほぼないと言って良いでしょう」(安藤院長)

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 医療関係者はケガ人に「大丈夫だよ」などの言葉をかけることはないのか。安藤院長は「根拠がないのに『大丈夫』ということは、残念な結果になった場合にその言葉を信じたご家族の気持ちを蔑ろにしてしまうことがありますし、場合によっては訴訟対象になるかもしれません。外来などで旧知の患者さん、突然の事故、小さなお子さんなど、蘇生する側の感情が高まって『頑張れ!』と声を掛けることはありますが、基本的には努めて冷静に対応するようにしています」と話しています。

 また、ケガ人にネガティブな言葉をかけることの影響について、新見院長も同様の立場で、「生死への影響はありません」とコメント。医療関係者にこのような話を聞いたことがあるかと尋ねても、「聞いたことがありません」と語りました。

2.こぞってスマホを向けるとショックで死ぬ → 誤り

 群衆がこぞってスマホでケガ人を撮影していたら、ショックが起きて死ぬ可能性があるのか。この点についても、安藤院長と新見院長はとともに誤りだと訴えました。

 安藤院長は「心肺蘇生を途中で止めなければいけないような行為――例えば患者さんと救護者の間に割って入る、フラッシュで集中力を切らせる、救護者にコメントを求めるなど――いわゆる『迷惑YouTuber』のような行動があれば、1分1秒を争う蘇生行為では患者さんのその後の経過に多少影響を与えるかもしれません」としながらも、こう指摘しています。

 「『スマホを向ける』ことで『ショックで死ぬ』は、明らかに間違いです。たまたま多数のスマホで撮影されていた患者さんが不幸な転機をたどってしまい、その事実が間違った解釈で広がっていった、と考えるのが自然だと思います」(安藤院長)

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 同じく新見院長も「スマホを向けなくても死ぬ人は死にます。いずれ死ぬ人がたまたま群衆にスマホを向けられているなかで死んだら、スマホが生死に影響があると思われてしまいます。言葉で『片足がない』と言わなかったり、スマホを向けなかったりしたから生きられたという証明ができません。何か言ったりスマホで撮影したりしたら生死に影響があるかというと関係ないでしょう」と語っています。

3.心拍数が跳ね上がって出血量が増える → 誤り

 該当投稿のメカニズムとして指摘されている「パニックになると心拍数が跳ね上がり、出血が増える」という主張についても、安藤院長と新見院長はともに誤りであると指摘しています。

 安藤院長は「出血の最初は血圧も心拍数も上がり、何とか大切な臓器の血流を保とうとします。しばらく脈拍は保たれますが、心臓が血液を1回で送り出せる力(脈圧)が徐々に落ちていきます。さらに脈圧が下がると、心拍数を限界まで上げるとともに、出来るだけ血圧を保つために全身の血管が収縮します。そのため、一時的に出血量は減ります。それでも追い付かないと、徐々に心臓の働きが追い付かなくなり血圧も脈拍も低下、心臓の限界を超えると死を迎えます」とコメント。

 新見院長も同じく「心拍数が上がっても出血量は増えません。出血量については血圧が重要であり、血圧が高くなると出血量は増えますが、心拍数が上がっても出血量には関係ありません」と述べています。

4.ケガ人には「深呼吸だ」などと呼びかけるべき → ほぼ正確

 一方で、映画やドラマで見かける「深呼吸だ」や「(余計なことは)しゃべるな」といった呼びかけには意味があるのか。安藤院長らの見解からは、ほぼ正確であると考えられます。

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 安藤院長は「深呼吸だ」の呼びかけについて、「深呼吸をすると、高まっている神経を穏やかにして、筋肉の緊張や過度な心臓の動きなど、無駄な血流消費を抑えてくれる可能性があります。なにより、漠然と『落ち着け』と言われるより具体的なので、脳の血流が落ちて冷静な判断ができない方にとっては有効です。大出血で死が目前に迫っている状態であればあまり意味がないかもしれませんが、出血でパニックに陥っている人に対しては、適切な声掛けだと考えます」と述べています。

 安藤院長は最期の言葉を残そうとするケガ人への「(余計なことは)しゃべるな」と語りかける場面について、「一般的に、話すときには胸の筋肉や横隔膜などの大きな筋肉を動かすため、かなりのエネルギーが必要になります。特に横隔膜の動きは直接的に心臓を圧迫することがあるので、理論的には心臓の血液を送り出すことに悪影響を与える可能性も否定できません」とコメント。

 「生死に対してどれほどの影響があるかはその人の状態によりますが、『しゃべるな』というアドバイスは、『まったく意味がない』とも言えません。むしろ、言葉が発せられるということは、まだ脳の血流が僅かでも保たれている可能性がありますし、救急の現場で重要視される『気道の確保(空気の通り道がある)』ができている状態なので、言葉を発するなどの心臓への負担を極力減らす努力をし、蘇生に全力を傾ける状況であると言えます」(安藤院長)


 なお、実際にケガ人に遭ったときの応急手当などについては、総務省消防庁が公開する「一般市民向け 応急手当WEB講習」などをご覧ください。

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