アニメに登場する架空の祭りを現実に開催し、今年で10回目 石川・湯涌温泉「湯涌ぼんぼり祭り」が継続できた理由とは(3/4 ページ)
初めは地元で“オタク”への不安の声もありましたが、マナーの良さに好感度が一転。今ではファンがサポーターとして協力しているそうです。
見に来た人に喜んでもらえるかどうか不安だった山下さん。しかし、意外にも地元の方だけの行列は好評でした。
「アニメが好きで祭りに来た方も『そこがよかった』とおっしゃっていました。『声優さんが(行列に)出るとイベント寄りになってしまう。そうしないほうが地元の祭だということが目立つ』と」
来場者に楽しんでもらうのはもちろんだけれども、湯涌町で脈々と続いていくお祭り、湯涌稲荷神社の神様のお祭りとしての開催という点を重視する。イベント化により、お祭りの軸の部分がズレないよう運営しているとのこと。イベント化すると短期的には盛り上がるけど、一過性で終わってしまうと考えているそうです。
地元の人による祭りゆえの苦労、ファンがサポーターに
「祭りには誰が出るのか、神さまの役をするのは誰なのか、どんな演出をするのか」など、開催にあたり考えなければならないことは多く、お祭りが始まった当初、山下さんは旅館での仕事を終えて22時に南砺市のピーエーワークスに行き、打ち合わせをしていました。
山下さん以外も、みんな温泉旅館などの仕事もしつつ、多忙な中でお祭りの運営に携わるというハードな状況。しかし、「湯涌ぼんぼりまつり」の第3回以降、心強い助っ人が現れます。
「何回も来てくれて人間関係ができたファンの方に声をかけ、『湯涌サポーターズ』としてボランティアで祭りに協力してもらうことができています。10月の湯涌ぼんぼりまつりだけでなく、7月の『氷室開き』にも来てくれるようになりました」(山下さん)
今後、どう続けていくか
「湯涌ぼんぼりまつり」が第10回を迎えたことについて、山下さんはこう語ります。「『何とか第10回を終えることができたな』というのが正直なところ。10回は続けたいと思っていましたが、続くかどうかは疑問でした」
2020年、2021年の中止を経て、お祭りは3年ぶりに開催。山下さんは、来場者と地元の人を守るために入場制限を行いながらの開催は大変だったと話します。
「車で来た人は金沢大学に車を置いて、金沢大学発のシャトルバスに乗って来ていました。しかし、入場制限により金沢駅からのバス1系統だけとなってしまい、車では来られなくなってしまいました」。また、入場者数を減らすと出店する飲食のブースが集まりにくくなってしまうという問題も。来場者数が減ることで、来場者にサービスが提供しづらくなってしまったのです。
費用面での課題もありました。今年は入場制限を設けたため、ライブ配信を実施。これまでも「のぞみ札」のお焚き上げなど、大勢で近づけない場面など一部は中継していたのですが、お祭り全般の中継になると費用が百数十万円必要で、無料公開するためにはお金を集めなければいけませんでした。
さらに、「湯涌ぼんぼりまつり」では名前入りのぼんぼりで個人協賛を募り、それに加えて金沢市の企業からの法人協賛とグッズの売上げで開催費用をまかなっていました。「アニメで金もうけはしない」という考えのもと、温泉宿でアニメに関連したサービスは行っていませんでしたが、お祭りの開催費用のためのグッズを製作しています。
「来場者数が減ると、売り上げも減ってしまいます。ネットショップでもグッズは販売していますが、お祭りでの売上と比べると大きな差がある。お祭りでないと、財布のひもは緩くならないんです」(山下さん)
感染拡大防止のための中止や入場制限に加え、2018年(第8回)、2019年(第9回)は台風の影響で順延・規模縮小しています。気象条件や感染症などが開催のハードルとなることもありますが、この先、どのように「湯涌ぼんぼりまつり」を続けていくか、山下さんは次のように語ってくれました。
「あくまで若い祭りなので開催されない期間があると忘れられてしまうと思います。だから、何らかの形で続けたい。しかし、水害からの復興を掲げて始まった祭りなので、台風などリスクがある中では開催すべきでないと思っています。コロナ禍の2020年2021年もやろうと思ったらやれたかもしれない。でも、もんもんとしたものを感じながらではなく、晴れ晴れとした中で開催したい。コロナ禍などがあっても、どういった形であれば開催できるかを考えています」
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