アニメに登場する架空の祭りを現実に開催し、今年で10回目 石川・湯涌温泉「湯涌ぼんぼり祭り」が継続できた理由とは(2/4 ページ)
初めは地元で“オタク”への不安の声もありましたが、マナーの良さに好感度が一転。今ではファンがサポーターとして協力しているそうです。
「オタクの人がいっぱい来るかもしれない」初めは不安がる人も
「ぼんぼり祭り」のシンボルとも言えるぼんぼりには、地元の湯涌小学校、芝原中学校の子どもたちが絵を描き、行列にも小学生たちが任意で参加しています。神様や神さまと一緒に歩くお稚児さんの役も小学生です。飲食ブースでは地元の人が、地元の食材を使った食事を提供しています。
さらに、350基のぼんぼりが飾られる湯涌稲荷神社の扇階段ではライブイベントが開催され、金沢の市街地からも高校生によるブラスバンドやアカペラグループなどが出演。演目には必ず「花咲くいろは」の曲を1曲以上入れてもらうとのことです。湯涌町に留まらず、周辺地域に住む人も一緒に盛り上げる「湯涌ぼんぼりまつり」ですが、始まった当初はどう受け止められたのでしょう。
「『湯涌ぼんぼりまつり』の開催が決まったのは2011年の4月ごろ、アニメがオンエアされたか、されてないかくらいで、アニメを見たファンの方がいらっしゃる前でした。『オタクの人がいっぱい来るかもしれない』と不安がる人は少なくなく、協力を取り付けるのは大変でした。特に飲食のブースの出店は、なかなか集まりませんでした」(山下さん)
ところが、「花咲くいろは」を見て温泉に来るお客さんが増えると、マナーの良さから「オタク」に対する好感度が一転。
「地元の人とコミュニケーションを取っている姿は好印象で、暗くて挨拶をしない想像の『オタク』ではないということが分かってきました。リピートするお客さんもいて湯涌の人たちと人間関係ができ、オタクに対する色眼鏡の色が抜けて、地域の人もだんだん祭りに協力的になってきました」と山下さんは語ります。
さらに、アニメを見て来たと思われる若い男性のお客さんは街歩きをするので、温泉街ににぎわいが出るというメリットもあったそうです。
「とはいえ、祭りを始めて年を重ねることで協力者が増えていった、という感覚です。祭りの後日に大掃除をすることにしていたのですが、ゴミ1つ落ちていない。他の人が出したゴミまで拾う来場者までいました」(山下さん)
アニメファンの温泉客としての、さらに祭りの参加者としてのマナーの良さが知れ渡っていくうちに、地元の人たちも「湯涌ぼんぼりまつり」に積極的に関わろうという気持ちになったのでしょう。
「来場者の中には、祭りが始まる前にSNSで呼びかけて集まり、湯涌稲荷神社を掃除してくれた人までいました。自分たちが大切にしているものを大切にしてくれると、地元の人は喜んでいました」
あくまで“地元のお祭り”として開催
第1回となる「湯涌ぼんぼり祭り」の来場者は公称5000人。しかし、山下さんは1万人くらいではないかと感じたと言います。
「金沢駅からシャトルバスが出るのですが、朝7時に金沢駅から『祭りに行く人の行列で駅がすごいことになっている。何とかしてほしい』と連絡が来て、北陸鉄道にシャトルバスの時間を早めて(増便して)もらいました」
あまりにも人が多く、携帯電話の回線がパンクしたため、主催者同士が街の中を走って人海戦術で連絡。湯涌の温泉街は小さく、う回路もないので、大勢の人にお祭りを見てもらえるのか、行列は可能なのか、山下さんは不安だったそうですが、なんとか無事終了。その後、来場者数は増え続け、第6回の2016年には1万5000人に達しました。
2020年、2021年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、お祭りは中止となりましたが、今年は3年ぶりの開催で第10回を迎えました。長く続けるために大切にしたのは、「アニメのイベントではなく、あくまで地元のお祭りとして開催すること」だといいます。
「お祭りの行列では、地元のおじさんや子どもが歩くのですが、どうしても見た目が地味になってしまう。製作委員会がアニメに出演した声優さんにも行列に出てもらおうかと声をかけてくれたのですが、地元の人だけでやることにしました」(山下さん)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.