「自分で動く不思議な豆」を入手→実は無許可で輸入してはいけないやつだった 知らず買ってしまった人に詳細を聞いた(1/2 ページ)
その正体はガの幼虫が寄生した「メキシコトビマメ」。植物防疫所に連絡し、無事引き取ってもらえたそうです。
見た目は普通の豆だけど、自力でカラカラと動き回る……!? 不思議で不気味な“やばい豆”をうっかり手に入れてしまった人のツイートが話題を呼んでいます。この「メキシコトビマメ(英名:メキシカン・ジャンピング・ビーン)」なる豆がどうやばいかというと、実は病害虫が付着しているため、輸入する際に栽培地検査などが必要な種子だったのです。
問題の豆はTwitterユーザーの理科教師とらふずく(@raptorial_owlet)さんが、国内の雑貨店で購入したもの。投稿された動画には、豆が手で触れなくとも、テーブルの上で勝手に動き回る様子が収められています。いったいなぜ……?
その答えは、中に寄生している「ジャンピング・ビーン・モス」というガの幼虫。直射日光など身の危険から逃れるため、幼虫がくねくねと動いているのが、かの現象の正体と言われています(※)。
※参考:「Factsheet - Cydia deshaisiana - IDTools.org」/「Garden Q&A: Mexican beans will grow here but won't jump」
その特性から、メキシコトビマメは海外で「温めると動き出す豆のおもちゃ」として流通しており、今回はそれが何らかの経路で輸入雑貨店に持ち込まれたもよう。とらふずくさんはメキシコトビマメそのものは知っていましたが、購入したあとでその背景についても知ることとなりました。
危険な豆を抱えて困惑したとらふずくさんでしたが、すぐ自治体の植物防疫所に連絡し、豆を無事に引き取ってもらえたとのこと。なお、くだんの店でメキシコトビマメを購入したのはとらふすくさん1人だけで、ひとまずほかに拡散された心配はないようです。
動画は「生き物がおもちゃとして売られているのか……」「知識としては知っていたが、動く様子は初めて見た」などと話題に。「豆を買ったのが適切に対処できる人で本当に良かった」と、安心する声もみられます。
「輸入可能かどうかは常に気を使わないといけない」
編集部はとらふずくさんを取材し、当時の状況について詳細を聞きました。
――メキシコトビマメのことはお店で見る前に知っていたのでしょうか?
とらふずくさん:存在は知っていました。最初に読んだのは、確か開高健さんのエッセイだったと思います。子供向けの科学雑誌でも扱っていたように思いますが、なにぶん子どものころに読んだものですし、正確な記憶はないです。
――どういう状況で販売されていたのでしょうか。
とらふずくさん:海外のグッズを専門に扱っているお店で、おもちゃとしてケース入りで販売されていました。おそらく、現地で売られている形式そのままかと思います。私が購入したものも含め、3個ほど店頭に出ていました。
――自治体の植物防疫所に連絡した際にどのような指示を受けたか、あらためて教えてください。
とらふずくさん:近日中に引き取りに来る旨、それまで拡散を防止して密閉した空間内においておく旨を指示されました。
おそらく、植物防疫所は種子そのものよりも、中の昆虫のほうが危惧されているはずです。いただいたリプライの中には「昔もらってそのままにしているけれどどうしよう」という声もありましたが、それだとすでに中の虫は死んでいるか、もしくは羽化して環境中に放逐されている状態かと思われます。
後者であるなら、食草がない、気温が低いなどの条件で繁殖できていないことを祈るばかりです。いずれにせよ、処分に困ったら自治体の植物防疫に連絡して相談するのがよいかと考えられます。
――国内への持ち込みが禁止されている生物の流入について、考えをお聞きしたいです。
とらふずくさん:持ち込み禁止の植物が持ち込まれるのは、もちろんダメだと思います。実は先刻ちょうど植物防疫所の職員さんがいらっしゃって、いきさつをうかがったところ、メキシコトビマメは店主が現地で購入してそのまま持って帰ってきたものとのことでした。個人で輸入する場合、その物品が輸入可能かどうかは常に気を使わないといけないと思います。
もちろん、帰国時に植物など持っているかどうかを申告するカードがあるかと思いますが、自分自身の経験上、それはそもそも生体なのか、植物なのか、もしくは持ち込みが可能なものかどうかというのは、かなり個人の判断に委ねられている感があります。個人のお土産の場合、持ち込む人物の知識にかなり頼る形になりますが、そこで判断できなければ(もしくは正直に申告しなければ)持ち込めてしまうのかもしれません。
話が多少飛びますが、昨今生物多様性が重要視されているなかで、生態系の保全は非常に大切な視点であると思われます。この概念自体はおそらく多くの人が持っているかと思いますが、一方で他の地域に生の作物を持ち込まない、生きた昆虫を持ち込まないといった防疫の考え方(作物や生態系に重大な影響のあるおそれのある生物を移入してはいけないという考え方)と、生態系の保全とはおそらく知識としてつながらない人も多いのではないでしょうか。
もしくは、草木1本や果物1個なら問題ないと思っている人もいらっしゃるかもしれません。病気や昆虫は、たとえ1株、数個体でもまん延するときはまん延しますから、多少はいいのではないか、という考え方はもちろんダメです。
一方で、知らないで持ち込んでしまったケースを考えると、もっと一般的に「持ち込んでしまうかもしれない」という考え方が浸透するとよいなと思います。海外でお土産を購入する場合でも、直前に「これは持ち込めるのかどうか」を考えるワンクッションがあると、知らずに持ち込んでしまうケースもかなり減るのではないかと思います。
なお、農林水産省の植物防疫所は、種子を輸入する場合には「輸出国の植物防疫機関によって検査を受け、病害虫が付着していないことを証明する『検査証明書(植物検疫証明書又はphytosanitary certificateともいいます)』の交付を受けた上で種子を輸入してください」などと呼びかけています。
動画提供:理科教師とらふずく(@raptorial_owlet)さん
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