「ジャニー氏による性加害」BBCのドキュメンタリーが静かに波紋　元ジャニーズJr.が出演し告白（1/2 ページ）

※この記事には性被害に関する記述があります。読まれる際は注意してください

　ジャニーズ事務所の創業者・ジャニー喜多川氏による性加害を取材した、英BBCのドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル（Predator: The Secret Scandal of J-Pop）」が、日本国内でも静かに波紋を広げています。

　同番組は、ジャーナリストのモビーン・アザー氏が日本に訪れ、ジャニー氏による未成年の少年たちへの性加害とその背景について、関係者たちへ取材するというもの。ジャニー氏から性被害を受けたという元ジャニーズJr.の男性たちや、1999年11月～12月に問題について報じた『週刊文春』の記者（当時）たちなどに取材し、最後にはついにジャニーズ事務所に乗り込んでいきます。

　アザー氏の取材に対し、元ジャニーズJr.の男性たちが明かした被害はさまざまですが、例えばハヤシ氏（仮名）は15歳のころ、「合宿所」と呼ばれるジャニー氏の自宅マンションを訪れた際、ジャニー氏に風呂に呼ばれたと回顧。全身を洗われた後、オーラルセックスをされたと被害を明かしています。

　番組内でも触れられているとおり、ジャニー氏による性加害は1999年の『週刊文春』の報道を巡り、東京高裁により事実認定されています（参考：みどり共同法律事務所「裁判所が認定したジャニー喜多川による少年への『淫行行為』」）。にもかかわらず、なぜジャニー氏は社会的あるいは法的な制裁を受けなかったのか。同番組では、ジャニーズ事務所との関係性から性被害について報じにくいメディアが置かれる状況や、性交同意年齢や性犯罪に関する刑法といった、日本社会の問題点にも触れられています（参考：BBCニュース「日本の『性交同意年齢』、16歳に引き上げ　法制審が性犯罪要件見直し」）。

　また、アザー氏が性被害者の心理として「グルーミング」という概念に触れる場面もありました。グルーミングとは「搾取される側がその相手とまるで特別な関係にあるかのように思ってしまう環境を、搾取する側が作り出す」（アザー氏）ことを意味します。例えば、元ジャニーズJr.のリュウ氏は16歳のころ、「合宿所」の寝室でマッサージをされ、下のほうに手が伸びてきたと性被害を振り返りつつも、ジャニー氏を否定せず、むしろ愛を口にしました。取材後、アザー氏はその心理についてグルーミングではないか、と指摘しています。

　番組内で特に印象的だったのは、元ジャニーズJr.の男性らが性被害とその背景について、ジャニー氏やジャニーズ事務所のみならず、日本社会にも問題があるのではないかと言及している点です。例えば、ジュンヤ氏はジャニー氏の背景については「周知の事実」であるものの、ジャニー氏がもたらす利益を受け入れたのが日本社会であり、ジャニーズ事務所を「トップ企業にのし上げたのは日本そのもの」だと語っています。また、ハヤシ氏がジャニー氏による性加害が放置される現状を踏まえ、日本社会について「優秀な国」だと思っているが、「全然違う」ではないか、と率直な思いを語る場面もありました。

　ジャニーズ事務所はBBCによる再三の取材要求には応じなかったものの、コメントを求められ、「弊社では、2019年の弊社代表の死去に伴う経営陣の変更を受けて、時代や新しい環境に即して、経営陣、従業員による聖域なきコンプライアンス順守の徹底、また偏りのない中立的な専門家の協力を得てのガバナンス体制の強化等、全社一丸となり社会から信頼いただける透明性の高い組織体制及び制度整備を一歩ずつ進めております」などのコメントを文書で提出したとのこと。

　なお、同番組は日本ではBBCワールドニュースで3月18日と3月19日に放送予定。番組内容の大部分は、BBCニュースの記事「加害が明るみに……それでも崇拝され　日本ポップス界の『捕食者』」で確認できます。