世界陸連が“トランス選手の女子競技禁止”を発表 会長「公平性を維持」 国際スポーツ医学連盟は「五輪憲章の原則に反する」
当事者からさまざまな意見が出ています。
世界陸連(ワールドアスレティックス)は現地時間の3月23日、国際大会においてトランスジェンダー女性が女子競技へ参加することを禁止すると発表。2023年3月31日から適用されることになる当該決定に対し、トランスジェンダーであることを公表するアスリートらが賛否を表明しています。
世界陸連は、「思春期を男性として過ごしたトランスジェンダー選手」は、世界ランキング対象の女性競技に参加できないと発表。また、DSD(性分化疾患)と分類される選手についての規定も強化され、従来は400~1600メートルの競技において1年の間1リットルあたり5ナノモル以下のテストステロン数値を維持するよう求められていましたが、今後は全ての競技が対象となった他、最低2年間2.5ナノモル以下に維持しなければならないと決定。
DSDに分類される選手に関しては10年以上に渡る研究と証拠に基づく措置であると述べ、この変更により陸上女子800メートルで2大会連続金メダル獲得のキャスター・セメンヤ選手など、ハイレベルな選手のうち最大13人に影響を与える可能性があることも明かしています。
一方、現在国際大会に出場しているトランスジェンダーの選手はいないとのこと。そしてトランスジェンダー選手のインクルージョンについてはワーキングチームを設置し12カ月間さらに検討するとしました。
セバスチャン・コー会長は、「異なる集団の間で相反するニーズや権利がある場合、決定は常に困難です。しかし私たちは、その他の考慮されるべき事柄よりも女性アスリートの公平性を維持しなければならないという見解を持ち続けています」と説明。本件に関して、新たに多くの証拠が集まれば今回の立場を見直すこともあるとしました。
今回の世界陸連の決定に対して、1976年モントリオール五輪の十種競技で男子選手として金メダルを獲得し、現役引退後2015年にトランスジェンダーであることを公表したケイトリン・ジェンナーは、「私にとって、公平さは包括よりも重要なこと。セバスチャン・コー会長の言葉は的確です」とツイートし、決定を肯定しています。
一方、決定を強く批判したのは全米選手権でアメリカにおける初のトランスジェンダー選手としてチーム入りしたトライアスリートのクリス・モジエ。女子競技においてのインクルーシブを促進する活動を続けてきたモジエは、世界陸連の決定について「女性スポーツの完全性を守るものではなく女性の身体における取り締まりを強化することになるだけ」とツイート。
今回の決定に従うためには医療的な介入を必要とするが、一方でそれは人権侵害でもあるとし、「本当に影響を受けるのは、スポーツの夢を追うことができず、スポーツ団体や議員から“同世代のスポーツの喜びを体験する人たちと同じ機会を与えられる資格はない”とメッセージを浴びせられる世界中の青少年アスリートたちだろう」などと述べています。
また、このモジエの一連ツイートを、米総合格闘技イベント「Combate Global」でトランスジェンダー選手として初めて参戦し、女性選手に勝利して議論を呼んだアラナ・マクラフリンがリツイートしています。
2022年6月には国際水泳連盟(FINA)も今回の世界陸連と同様の決定を発表しています。また同年、国際自転車競技連合(UCI)はトランスジェンダー選手が女子競技に参加する場合テストステロン値を既定の数値に維持する期間を1年から2年へ引き伸ばすとしており、2020年にはワールドラグビーが安全と公平性への懸念からトランスジェンダー選手の女性ラグビー国際大会への参加を推奨しないと発表。なおこの際、トランスジェンダーの男性選手については男子ラグビーへの参加を許可されています。
一方で、国際スポーツ医学連盟(FIMS)は、トランスジェンダーや性分化疾患(DSD)の選手の出場を制限することは、五輪憲章の原則に反するとしている他、国際オリンピック委員会(IOC)も「選手が性自認や生物学的な性の多様性によって構造的に大会から排除されることがないように、公平性をもって作られなければならない」とし、「排除がないこと」「優位性に関する推定を行わないこと」「定期的な見直し」といった10個の原則を掲げています。
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