レビュー

「映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記」レビュー 2年続けて「最後で台無し」の恐怖(2/3 ページ)

「過去作への目配せ」もずさんだった

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 「戦国大合戦」のラストでの死は、それだけで泣かせるようなものではなく、「戦争の時代の残酷さ」と「逃れられない運命」を示しつつも、その後に今と昔の時代をつなぐ光景を示すというアンサーがあった。他の「クレヨンしんちゃん」映画や原作マンガでも親しいキャラクターの死を描くことはあったが、それぞれちゃんと意義を感じさせるものだった。

 対して、「恐竜日記」ではそうした必然性が見つけにくく、単に「悲しさで泣かせる」というギミックとしての側面が前面に来てしまっている。これでは、夏休みのいい思い出にとこの映画を見に来た子ども(と大人)がふびんにさえ思える。

恐竜をバカにしているようなつまらないギャグ

 加えて、恐竜というせっかくの題材もまったく生かしきれていない。「実はロボット」という設定もあってか、5歳の幼稚園児を含むしんのすけたちがあっさりと倒してしまうし、ネネちゃんに至っては「チョロい」と口にする始末で、恐竜と対峙する緊張感やハラハラは積極的に捨てている。恐竜それぞれの個性もほとんど無視しており、かろうじてパキケファロサウルスの頭からモニターの光が出てくるくらいである。

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 さらには、「アンキロサウルス」が登場したかとおもいきや、体が小さくて「3キロサウルス」と呼ばれたりする。こうしたダジャレを3回も繰り出し、「モーニング娘。」の楽曲で恐竜たちと踊るくだりは大人向けのギャグだとしても浮いてしまっている。もはや恐竜への愛情がないどころか、バカにしているようにすら思えたのだ。

 加えて、「クレヨンしんちゃん」映画の大きな魅力であるはずの「アクション」が物足りないものショックだった。キャラクターが1人ずつ「段取り」的にあっさりと恐竜を倒していくのは「作業感」があってテンポが悪く、アニメーションとしても躍動感がなく面白みに欠ける。かろうじてひねりが感じられたのは、みさえの「お尻のデカさ」をロボットらしく「分析」した上で倒す様くらいだろう。

 また、この街で恐竜が歩き回る事態に自衛隊や警察はどうしているのかと疑問に思っていると、そちらはまさかの「さすまた」を手に攻撃しようとしてすぐに逃げるだけ、という光景には目を疑った。もはや最低限のシチュエーションの説得力すら放棄している。作り手は「爆発!温泉わくわく大決戦」における戦車の出撃シーンを100回見て反省してほしい。

ヤケクソを超えて意味不明な悪役の行動

 悪役の行動もひどい。いや、そもそもの問題提起は悪くはなかったのだ。「次々に来る要望に応えようとして大切なことを見失う」というバブル・オドロキーの過ちは、誰にでも起こり得るものだ。また、インフルエンサーに過度な信頼や期待を抱いたり、不祥事が発覚した際に世間が手のひらを返す様子は、SNS時代において非常に共感できるテーマでもある。

バブル・オドロキーは自業自得とはいえ「嘘で塗り固められた功績」を示す悲しい悪役のはずなのだが……/画像は「映画クレヨンしんちゃん オラたちの恐竜日記」予告2より

 ただ、その後のバブルの行動は支離滅裂だ。「恐竜がロボットであるとバレる前に本物の恐竜のナナを手に入れようとする」のであればまだ筋は通っていたのが、序盤で全てが世間にバレた上で世界征服的な行動に打って出るため、ヤケクソにしか思えない。おまけに劇中でもそういった指摘がされるので、初めこそあった悪役としての魅力も完全に消滅してしまった。最後に記者から質問されてバブルが何も答えなかったのは、作り手も彼に興味がなくなったからではないかとすら思えてくる。

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 もはや、「恐竜は本物ではなく実はロボットでした」という事実が、この「恐竜日記」という作品の「『クレヨンしんちゃん』映画のガワだけを取り繕ったニセモノ」「これまでの名作の感動ポイントの上澄みだけをすくっただけな出来」を、メタフィクション的に示しているようですらある。

 そもそも、「本物の恐竜と見紛うほどのロボットを作った」こともすごいことなのではないか。バブルはそのことを堂々と主張すればいいはずだし、SNSでもそうした声が出ていいはずだ。これもまた、この「クレヨンしんちゃん」映画のニセモノのような作品を作った作り手の自信のなさを示している……というのはもちろん考えすぎだろうが、そう思わないとやってられないほど、悪役の扱いが浅はかで意味不明だった。

なぜここまで空虚で不快な作品になったのか

 なぜこのような作品が生まれてしまうのか。本作では「クレヨンしんちゃん」映画および子ども向け映画に求められる最低限のモラルが守れておらず、メインスタッフやプロデューサーの責任は重い。

 最後に、近年の「クレヨンしんちゃん」映画の中で屈指の傑作とされる「花の天カス学園」の高橋渉監督の言葉を引用しよう。(※高橋渉の高は、はしごだかが正式表記)

「僕らももちろん「オトナ帝国の逆襲」は名作だと思いますし、原恵一さんの思想と作家性が爆発して生まれたような作品ですから、それを追いかけても芯のないものになると思っていました」

 今回はどうだろうか。まさに過去の名作の「泣かせ」っぽいところを追いかけて……いや「とりあえず出した」な目配せに始終するばかりか、作品内の問題提起に対しても不誠実な、友達かつ子どものナナを死なせるという最悪の結末を用意する、芯がないどころか空虚で不快な作品となってしまったのだ。

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なまじ興行成績がいいからこその恐怖

 ちなみに、前作「しん次元」は「クレヨンしんちゃん」映画史上No.1の興行収入を達成し、今回の「恐竜日記」も公開から10日間で興行収入が13億円を突破する好成績となっている。前作はシリーズ初の3DCG作品だったこと、今作は恐竜というモチーフがキャッチーだったことに加えて夏休み興行が定番となり、今までのようにゴールデンウィーク公開の「名探偵コナン」とバッティングしなくなったったことなどが大きな要因だろう。

 なまじ興行成績がいいため、作り手が前作や今回のような路線を良しとし、「最後に台無し」な作劇を今後も繰り返してしまいかねないことに恐怖を覚える。2年連続で「クレヨンしんちゃん」映画でこんな気持ちになってしまうことがただただ、悲しい。こういうことを続けてはいけないのだ。作り手には真面目に批判を受け止めて変わってほしい。そう願うばかりだ。

ヒナタカ

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