和菓子屋で、バイトの子に難題“はさみ菊”を切らせてみたら……「将来有望」と大反響 その後どうなった?現在を聞いた(1/3 ページ)
果たして修行を続けているのでしょうか?
作るのに高度な技術が必要とされる和菓子「はさみ菊」をバイトの子に切らせてみたら……驚きの結果になった和菓子屋店主のエピソードが、2024年6月にX(Twitter)で話題に。ねとらぼの記事でも紹介し、大きな反響を呼びました(関連記事)。
あれから半年以上がたちましたが、ネットで「将来有望」といった声も寄せられたバイトの子は現在どうしているのか。ねとらぼ編集部は、投稿主で和菓子屋店主の黒田 和比古さん(@kurokazu_45)に話を聞きました。
アルバイトの子に難題“はさみ菊”を切らせてみたら……
注目を集めたのは、黒田さんが二代目店主を務める神奈川県の和菓子屋「和菓子處 吉祥庵」(寒川町・倉見駅前)での出来事です。2023年末から雇っているアルバイトのMさんは当時、オカメインコを模した和菓子の冠羽部分を切る作業を担当。徐々に上手くなってきたため、ある日黒田さんは「練習にもなる」と思い、試しに“はさみ菊”を切らせてみることにしました。
はさみ菊は、専用のハサミを用いて、生地を美しい菊の花の形に切って作る上生菓子。花びらを1つずつ切って仕上げる繊細な職人技が求められる高難度な和菓子です。まず1個目では1段目を黒田さんが切り、続きから重ねるように切る指導を行いました。すると……初めてにもかかわらず、はさみ菊を切ることができてしまったのです。そしてさらに練習を重ねていったというMさん。
プロが衝撃を受けるほどの“出来栄え”
練習を含めて4個目に作ったはさみ菊に、黒田さんは「正直、私の専門学校時代に初めて切ったはさみ菊より上手かったので、あまりにびっくりした」と衝撃を受け、そのMさんの作品の写真をポスト。素人目には、すでに店頭に出せそうなほど美しく精巧な仕上がりです。ポストには「初めての菊切りでこのクオリティ!? 素晴らしい!」「バイトでこの腕前は凄い」「めちゃくちゃ綺麗ですね!!」「将来有望な職人になりそう」などの賛辞がたくさん寄せられました。上記のMさんの作品写真は現在、約286万件表示を記録。
“バイトの子”はどうなった? 現在について店主・黒田さんに聞いた
はさみ菊を切る以前から、黒田さんが和菓子教室の講師をした際に「私も行きたかった」と興味を示すほどの熱意を見せていたMさん。そんなMさんのために、希望に応じて仕事後に練り切りを何個か作らせてあげていたという黒田さん。
和菓子への情熱を感じるMさんの現在について、ねとらぼ編集部がMさん本人と店主の黒田さんにお話を聞きました。
――投稿や記事には大きな反響がありました。反響への感想や印象的なコメントがあれば教えてください
アルバイトのMさん(以下、Mさん):反響としては、知り合いの方のSNSにおすすめの投稿として表示されていたことに驚きました。祖父の墓前のお供えとしてはさみ菊を練習していましたが、お店のSNSに沢山の方から応援コメントをいただけたのが、大変うれしく、励みになりました。
黒田さん:お店でも常連のお客様からは「タイムラインに流れてきたよ」とか、「いつの間にかバイト入れたんだ?」って言われましたね。
――以前、美しいはさみ菊を見せていただきましたが、現在も腕を磨かれているのでしょうか? お気に入りのモチーフや現在の目標についてお聞かせください
Mさん:現在ははさみ菊の練習を全くしていませんが、餡玉切りや包餡、ゴムベラの使い方を練習しています。それらができるようになることで、お手伝いできる仕事の幅を広げていきたいと思っています。お気に入りの作品としては、中央を凹ませて側面を下段切りにした物です。
――店主の黒田さんはMさんに大きな成長を感じているとうかがいました。そのように感じたエピソードがあればお聞かせください
黒田さん:やはりなんと言っても時間の短縮でしょう。今まで仮に20時までかかった仕事量が今は18時に終わるなど、手際の良さが増しました。もとより慣れないことを頼むと、集中して全く耳も聞かなくなるタイプでしたから、今では仕事中の余裕もかなり増えてきたんじゃないでしょうか?
――和菓子の作り手として感じる“和菓子の魅力”とは何でしょうか?
黒田さん:はさみ菊のお話ですから、上生菓子、特に練り切りに関して言えば、技術に裏打ちされた表現の自由度だと思います。今回話題になったはさみ菊だって、職人が技能検定や品評会の為に練習するもので、本来の修行なら最後の方に習得する技術です。しかし、たまたまオカメインコを模した和菓子の冠羽部分をずっと切ってもらっていたら、その技術が備わってしまい、あん玉切り、包餡とかの基本を全てぶっ飛ばして、はさみ菊が出来るようになってしまった!(笑) これも練り切りの持つ、自由な表現の一部だったのかな? と今になって思います。完全に後付けですね(笑)。
当店の場合、SNSでお客様とよりつながることができたので、私が楽しんでることを共有してフォロワーさんたちも楽しんでくれている印象があります。個人店で采配が自由な故、やりたい放題やって、「どこに需要あるんだ?」みたいな品を作っても意外と「それ欲しい!」と仰って頂けることもあります。
和菓子教室をやると「練り切りは大人のねんどあそび」と話すことがあるのですが、こういう側面からして作り手とお客様が一緒になって楽しめるのが、上生菓子の魅力ではないでしょうか?
(了)
「和菓子處 吉祥庵」は以前にも、ぷくーっと膨らんだ見た目がリアルであいらしい上生菓子の「ふぐ」がかわいすぎると話題に(関連記事)。ほかにも鳥さんがモチーフの和菓子“インコちゃんシリーズ”も人気を集めています。お店や商品の詳しい情報はX(@kurokazu_45)とInstagram(@kurokazu0714)で発信しています。
なお、お菓子は基本的に店頭販売のみ。ネットから購入可能になるのは年に数回ほどで、SNSにてお知らせを出したときのみとのことなので、気になるお菓子がある場合はフォローしてチェックするとよさそうです。
画像提供:黒田 和比古(@kurokazu_45)さん
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