Appleも困惑した謎アプリ「斉藤さん」 「第2反抗期」世代にウケて大ヒットの軌跡(2/2 ページ)
斉藤さんは「ウケる」と自信があった。過去にリリースした通話アプリ「Live Link 3G」がApp Storeの総合ランキングで1位になるなど、手応えを感じていたからだ。それからこんな直感も――「しゃべるって筋肉使うじゃないですか。ここを使うと気持ちいいなと思って」と、ほっぺたをさすりながら笑う。
そもそも「Live Link 3G」を作った頃から「次は絶対音声のソーシャルサービスが来る」と思っていた。「小学校の頃、アマチュア無線の免許を取ったんです。知らない人と交信して話して『また空で会いましょう』って別れるその切ない感じが面白くて。時代は繰り返すと思う」。
酔っ払って書いた仕様書は開発者の手に渡り、アプリは2日間で完成した。ちなみにこのとき、斉藤さんがウケると思っていたのは南雲社長だけだったそう。「『これ大丈夫でしょうか?』と社員から聞かれるから、大丈夫って言うしかないじゃないですか。だから大丈夫って返事して(笑)」。
App Storeの審査には少々手間取った。Appleの審査チームが斉藤さんがどんなアプリか理解できず「ビデオに撮って説明してくれ」と突き返されたのだ。そのため南雲社長らは英語で芝居し、斉藤さんを説明する映像を送ったという。「こんなこと初めてでしたよ」。
なぜか「第2反抗期」世代に刺さった
iPhone版のリリース直後は斬新なコンセプトがネットユーザーにウケて話題になった。「静岡の斉藤ですって出てくれたりした。全国の斉藤さんは気になってダウンロードしてくれたんでしょう。最初はアーリーアダプターと斉藤さんに刺さってた」。だが対応OSが当時の最新バージョンに限られていたこともあり、ダウンロード数は思うように伸びなかった。
App Storeのランキングはいきなり圏外。「ギャグにしてはさみしいので(このアプリは)なかったことに……」とまで思っていた。だが1カ月経った頃から急に勢いづき始める。1日ダウンロード数は10〜20件ほどだったのが5000〜6000件に。同社が調べてみると、口コミで高校生や大学生に広まっていることが分かってきたという。
記者も実際に斉藤さんを使って高校生につながったことが何度もある。ある男子学生は友人の半分がスマートフォンを持っており、休み時間に斉藤さんを使って誰かと通話するのが学校で流行っていると話していた。南雲社長自身も高校生につながり、恋愛相談を受けたことがあるそうだ。
斉藤さんは「第2反抗期の複雑な世代」に刺さっている――と、南雲社長は見ている。大人になる1歩手前の彼らにとって、知らない人と通話する斉藤さんは「ちょっと怖いけどやってみたい」と心を刺激される存在であり、「管理された大人の社会」とは別の「自分たちの空間」として居心地が良いのかもしれない。
ユーザーの男女比は正確なデータがとれていないが「男性7割、女性3割くらい」という。アクティブに使っているのもメインは男性。斉藤さんで遊ぶ様子をライブ配信しているユーザーも多いようで、ニコニコ生放送には動画がいくつもある。
ヒットの鍵はドン・キホーテにあり!?
斉藤さん含め、同社が開発し、ヒットしているアプリの多くは「大衆向け」を意識してきた。アプリには「大手が開発した保守的でかっちりしたもの」や「スタートアップが作るシリコンバレーっぽいギークなもの」など色々なタイプがあるが、目指しているのは「ドン・キホーテに来るような人向け」。「そういう所が穴なんです。僕も年に数回シリコンバレーに行って色んな情報をキャッチするけど、吐き出すものは違う。(街で例えるなら)青山じゃない」
今後は斉藤さんの海外展開を進めていく。今年2月には韓国向けに「朴一族」というタイトルでリリースしたばかり。英語版「スミスさん」、中国語版「王さん」も企画している。「海外で日本のギャグが通じるかどうかはやってみないと分からない。深く考えず勢いでやってみたい。力んで海外進出とかやると失敗するんで、軽いノリでいきたいと思う」と、肩の力を抜いて構えている。
収益面では、斉藤さんに広告を掲載しているほか、アプリで培ったVoIPの技術を業務用に応用していく。「僕達はVoIPの実証実験として最大の場をもってるわけです。100万人で実験できているので、業務用に応用するのも簡単です」。実際には電話オペレーターにスマートフォンアプリからつなぐ――といった事例をすでに展開しており、ほかにも同社に依頼がいくつか届いている。
「『こんな出会い系みたいなアプリあっていいのか』なんて“おっさん”から言われることもあるんですけど、そう言われたら『大人めーっ』って(思うことにしている)」と南雲社長。メインユーザーである「第2反抗期」特有の大人に抗う「反体制」な気持ちをちょっぴり味わい、だからこそ「(ビジネス面でも)ちゃんとしてやろう」と燃えている。
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