わたしは暴れん坊ガキでした――松本零士トークショー全掲載:ニコニコ超会議(4/5 ページ)
向谷 なるほど。漢字で“漫画”と書くと面倒くさいと思っている人はちょっと気を入れ替えないといけないですね。それで先生、ここに資料があるんですけど、9つの鉄道会社でラッピングトレインやミステリートレインをやられているじゃないですか。先生もお忙しいと思うんですけど、こういった鉄道ものに関して、こういうことに参加される、こういうのは松本先生の中では、鉄道に関して前向きになられる理由があるんですか?
松本 わたしは漫画家ですけどデザインも好きでしてね。建物や列車や物体のデザインをいっぱいやっとりますんで、こういうのを描くのが好きなんです。自分ならこういう配色にする、というのがあるわけです。それを描いてしまうわけです。
向谷 それがたまたま鉄道車両だったりすると、これはまた盛り上がっちゃう……。
松本 そう。ですから楽しいですよ。ほんとは宇宙船の色までやらしてくれると……。:向谷 考えてみたら世界中でロケットを飛ばしてますけど、外側に絵を描いたロケットは飛んでないですよね。
松本 ないですね。将来は何らかの絵を描くことになると思うんだけど。
向谷 そりゃでも、松本先生の絵を描いたロケットが飛んだら、世界中継されると思いますよ。
松本 面白いから早くやらしてくれんかな−と(笑)。
向谷 今度「はやぶさ」の2号とかやってますしね。打ち上げの時は盛り上がるでしょうね。
松本 宇宙時計のデザインはやったんです。2つ作りました。宇宙飛行士が身につけてくれて。そしてデザインした人間は好みの番号がもらえるんです。ですから999と1999ともらいました。わたしのしてる時計なんですが、アメ横で買ったんです。当時手巻き時計が衰えて、放出したんですね。で、手巻き時計が二束三文でたたき売られていて。何千円で買ったんです。オメガ社の社長にスイスで会ったとき、「なんであんたがそんな時計をしてる。何個持ってる」というんで、「4個持ってる」と言ったんです。アメ横と、神田の古道具屋と、そんなところで350円と千円と買えるわけです。なので4個持ってた。そしたら「うちのバックヤードには1個しかない。2つくれ、と。その代わり何でも持って行っていいから」と言われて、デザインの依頼を受けたんです。
向谷 アメ横で買わなかったらなかった話なんですね!
松本 だからアメ横で買って。二束三文ですから買ったときは。
向谷 あらあらあらあら……。今日松本零士さんとお話をしていて思い出すことが、タムシの薬と、1円玉伸ばした件とアメ横の話が相当印象に残っちゃったんですけど(笑)。
松本 時計大好きで。ですからあの、メーターをいっぱい描きたくなって、丸いメーターから何から、漫画の中にいっぱい描いたのは、自分が時計マニアだったから。そしてクロノグラフというのは、周りにぎざぎざがあるでしょ。メーターの刻みに。それを描かなきゃいけません。
向谷 細かくリアルに。
松本 それから将来はブラウン管じゃなくて液晶になるというのも知ってましたから。
向谷 それは何年くらい前に?
松本 もういまから半世紀くらい前には分かったんです。来年でわたしは画業60周年。15の時から始めてますけれども。その想像通りにだいたい物事が進む。ですからヤマトにしても999にしても、ゲージを液晶パネルにしてある。皆さんもうじきこうした液晶になるよと。次は立体的になります。そのまま立体的になる。メガネはいりません。すでにそれは完成しております。皆さんが、もうしばらくすると、家のテレビは全部立体になります。立体テレビを家で見るようになる。偏光板がこう、前に付いてるんです。ただそれだけのことです。ですから大きさも全然変わりません。そういうわけです。想像したとおりになってる。だからその装置を映画館に付けて、全天周プラネタリウム、全天周です。足下に包み込むように。そういう世界ができるんです。
向谷 それはもう、そんなに遠くない?
松本 時間の問題です。
向谷 すると松本先生は、将来こうなるということはだいたい予測して絵を描かれていて……。
松本 そんなことばっかりが好きで。ここに絵があるんですけどね。高校生の時に描いた絵で、切り抜いてあるんです。このときすでに連載も持っておりまして、絵を描いて切り抜いてある。あこがれの女性を漫画化して、悦に入って。もう1枚は本郷3丁目の下宿で、セル板に絵を描いて、撮影台で撮影したものです。アニメーションを作りたいという夢があって。自分1人で作るつもりでいたんです。それは無理ですけど。高校生の時に描いた絵の女性は、他の人と結婚してしまいましたが。これはしょうがないですね。
向谷 これは実際に、お知り合いの女性なんですか?
松本 こういうタイプの女性に憧れていたんです。
向谷 ホログラムみたいな立体感がありますね。
松本 そうですね。これはあの、海水浴なんかに。同級生ですから。一緒に並んで撮ってる写真なんかもいっぱいあるんです。で、彼女も水着でしょ。ヌードとほとんど同じでしょ。こういうものはね、そういう記憶が残ってて。自分の……。
向谷 あーこれは貴重だ。あまり世の中には出されていないものですか?
松本 そうですね。いまでも部屋に転がっていて。引っかけてありますけどね。そういうわけで、すべてが自分の体験とか、あこがれとか、そういうものに則って作品を描くんですね。それからこれ、ちっちゃい絵。虫形の天使が羽根の上を飛んでるわけです。こういうものも、自分としては将来、アニメーションにしたいというので。夢がある。
向谷 これはもう、何十年も前のことでしょ?
松本 もう60年以上ですね。10代です。でも頭の中は10代もいまも、ほとんど変わってない。
向谷 それはすごいですね。10代と60年経っても変わらないというのは。
松本 どんどんどんどん頭の中の想像力の方がふくらんでいって、5、60年前の10万倍になってるわけです。頭の中が。わたしはほんとはいまごろ火星に住んでる予定だったんですよ。ただ残念ながら地球上は1万1000メートル、コンコルドに乗って飛んだ1万1000メートルが最高記録。しかしそこから墜落実験をやらせてもらいましたからね。機長さんが漫画が好きな人で、わたし操縦席にいた。「それでは」と言って急降下を始めたんですね。したら赤ランプが全部ついちゃったんです。こうしたらおしまいだろうと機長さんが言うんですね。むちゃくちゃですよ、お客さんが乗ってるのに。大西洋上でこんなことができた時代があったんです。
向谷 えーっ、それお客さんで乗っていたんですか?
松本 ええ。パリからダカールを経由して、大西洋を横断してリオデジャネイロまで飛ぶコースの途中です。いまこういうことをやったら御用ですよ。新聞沙汰になるどころじゃすみませんよね。昨日も滑走路を間違えただけであの騒ぎなんだから。墜落実験をやったなんて言ったらむちゃくちゃです。
向谷 ほんとにやったんですか?
松本 ほんとにやったわけ。突っ込んで赤ランプがついた。こうなったらおしまいだという。引き起こしてそれで飛んだわけです。
向谷 ほかのお客さんはどうだったんですかね?
松本 ちばてつやさんも一緒に飛んでましてね。席へ帰って「いま揺れたろう」と言ったら「うん。気流が悪いんだね」と。1万1000メートルじゃ、気流も何もないですよね。小さい声で「あれは俺がやったんだ」と言ったら、それからですよ。トイレに立つときも手をつかんで離さない。「絶対行かせん」と。そういう、おおらかな時代だった。いまはテロやいろんな問題があるので、そういうことは絶対に許してもらえない。
向谷 それはダメだと思いますよ(笑)
松本 そりゃダメです。わたしだって嫌です(笑)。
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