「不謹慎かもしれないが、無関心よりまし」――「無職FES」が目指す働けない人の居場所作り:バーの店長にホームレス!?(2/2 ページ)
無職FESは働けない人の居場所
タナカさんが「ホームレスBAR」を主催する無職FESの岩井祐樹さんと出会ったのも、BIG ISUUEがきっかけだった。BIG ISSUEで面倒を見てくれている人が2人の共通の知人で、タナカさんに「店長をやってくれないか」と声をかけた。
岩井さんは昨年の2月から無職FESという団体を運営している。無職FESは、職に就いていない、就けないがために社会に居場所がないと思っている人に「ここにくれば居場所がある。仲間が見つかるかもしれない」と感じてもらえる場を作るために不定期でイベントを開催している。ふさぎ込みがちな求職中の期間をなるべく楽しく過ごすためのイベント「無職FES」や、2月10日の「ニートの日」に街を練り歩く「ニート祭り」などを開催してきた。
岩井さんが無職FESを立ち上げるに至った経緯は、学生時代にまでさかのぼる。岩井さんは学生のころ、ボランティア活動を通じて、家も仕事もないホームレスの人と知り合った。「こんないい歳したおっさんが苦しい生活をしているのか」――当時、就職活動期で自分の将来を模索していた岩井さんは、この人の状況を面白いと感じたそうだ。これが岩井さんと“無職”との出会いだった。
無職に対する興味が無職FESという団体結成に結びついたきっかけは、岩井さん自身が無職になったこと。岩井さんは演劇を生業にするために上京して3〜4年活動してきたが、立ち行かなくなり会社員に。しかし会社と合わず、うまくいかなくなって1年でクビになった。「演劇をやりたくて出てきたのに、今では何もやりたいことがなくなってしまった。それに自分には、稼げるだけのスキルもない」。無職であるがゆえの生きづらさを身をもって知ったときに、無職FESは生まれた。
無職に対するイメージをよくしたい
岩井さんの回りには、さまざまな事情で無職になった人がいる。要領が悪かったり、会社組織というものとの相性が合わなくて辞めた人、重度の障害を抱えている人も。5月に開催する「見えないBAR」というイベントは、発達障害、精神病、孤独など、ぱっと見では気づかれない病に苦しんでいる人をテーマにして行なわれる。
これだけ重いテーマでありながら、“BAR”や“FES”という名前を掲げて活動をしていると、けしからんと批判してくる人もいる。そんなとき岩井さんは、運営に協力してくれるメンバーの言葉を思い出す。「不謹慎かもしれないが無関心よりはましだろう」。岩井さん自身に傑出した才能やスキルがあるわけではない。しかし、Webサイトを制作できる人、名刺をデザインできる人、イベント運営を手伝ってくれる人など、身の回りの人に、実務面でも精神面でも支えられながら活動を続けている。
岩井さんは今、契約社員として働いている。無職FES自体は収益化を図っておらず、自分の貯金を擦り減らしてやってきた。イベントの準備は毎回大変だし、大変な思いをしているのに毎回赤字だしと、お金について自尊心を削がれることもあるが、今は世の中の役に立っているという実感だけを見返りにやっている。
3年後には、世田谷区の区議会議員選挙に出ようと思っている。議員インターンシップの経験から政治家の影響力を知り、自分が住みたいと思うような社会に変えていくために政治家になろうと考えたという。当選した暁には、無職の人のパワーと時間を結集した取り組みを企画するつもりだ。
無職FESに参加した人が「会社員をやめようと思っていたけど、会社に残ることにした」と報告をくれたこともある。ホームレスBARでは、売り上げの中からタナカさんに7900円を払えた。時給としては1500円、タナカさんの生活費としては約1週間分になる。「自分がお金をもらうより嬉しかった」と岩井さん。「働く」ということに自分自身がつまづいた岩井さんの思いが、少しずつではあるが結実しつつある。
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