「ひねくれた子だった」――浦沢直樹が語る幼少時代、「MONSTER」「20世紀少年」制作秘話:Japan Expoでフランス人熱狂(2/2 ページ)
浦沢作品のアニメ化が難しい理由
アニメーションプロデューサーの丸山正雄氏(72)とともに行われた別の講演では、浦沢氏がアニメとの関わりについて語った。浦沢氏が初めて丸山氏の名前を認識したのは小学生の時に見た「あしたのジョー」。小学生ですでにスタッフの名前を意識してアニメを見ていたというから驚きだ。
2人が初めて一緒に仕事をしたのは「YAWARA!」のアニメ化の時だ。「アニメのプロフェッショナルと一緒にモノをつくれるのは光栄なこと」と、浦沢氏はアニメ制作には積極的に関わっているそうだ。その後も丸山氏は「MASTERキートン」や「MONSTER」といった浦沢氏の作品を手掛けている。
一方、丸山氏は浦沢作品の映像化の難しさを語った。「浦沢氏の作品は途中までを描いたり、カットしたりできないため、現在日本で主流の1シーズン12話または24話の構成ではアニメ化は非常に難しい」というのが理由。「MONSTER」が全74話で一年半かけて制作・放送されたことは「奇跡的だ」と話す。
丸山氏は現在「PLUTO」のアニメ化を目指しているそうで、「私に仕事が出来るうち……2〜3年以内には実現したい」との弁に浦沢氏からは「いやいや、あと20年は頑張ってくださいよ」と丸山氏へのエール(?)が飛び出した。
「すごい作品になる」予感があった「20世紀少年」
フランス人司会者との対談形式で行われた講演では、フランスでも人気のある「MONSTER」と「20世紀少年」の制作秘話を明かした。
「MONSTER」の着想は、アメリカンドラマの「逃亡者」から得た。「逃亡者」は妻殺しの濡れ衣を着せられた医者である主人公が警察から“逃亡”しながら真犯人を追うというストーリー。浦沢氏はこの作品に感動し、「逃亡の物語」の構想を始める。しかし、この物語に合う職業というのが医者しかなく、それでは「逃亡者」と同じになってしまうため一旦は創作を諦めた。そんな折に思い出したのは「フランケンシュタイン」。科学者が自ら作り出してしまった「怪物」によって周囲のものが殺され、科学者はその怪物を追うというストーリーは「MONSTER」と重なる部分が多くある。
このようにして誕生した浦沢直樹の「MONSTER」は、舞台となったドイツや東欧のミステリアスかつロマンチックな雰囲気とあいまってフランスでも多くの人気を獲得。フランスでも大人向けマンガが受け入れられることを証明した作品の1つとなった。
次に「20世紀少年」について話が及ぶと会場の熱気は最高潮に。「『20世紀少年』の構想は、浴槽につかっているときにひらめいた」という日本人らしいエピソードにはフランス人もウケていたようだ。
しかし、その時点では主人公たちは何と戦っていたのか、浦沢氏本人にもまだ分からなかったのだという。「20世紀少年」でプロットを共同制作した長崎尚志氏に浦沢氏がアドバイスを仰ぐと、「それは新興宗教だ」との答えが。この返答には浦沢氏も思わずうなってしまったとか。そこからディスカッションを重ね「20世紀少年」のストーリーの大枠は完成。二人には連載開始前より「これはすごい作品になる」との予感があったそうだ。
最後に浦沢氏より、「物語の完結があやふやなのは、読者も一緒に考えてほしいから。マンガはいい読者がいて初めて成立するものです。みなさんのような読者に出会えて幸せです」との言葉があり、会場はスタンディングオベーションに包まれた。
すべての講演を終えた最終日には、同じくJapan Expoのゲストとして招かれているロックバンド・Hemenwayとのセッションライブが行われ、「20世紀少年」と馴染みの深い楽曲などが演奏された。
3年前にフランス漫画の巨匠・メビウスことジャン・ジロー氏(今年3月逝去、享年73歳)が来日した際に、浦沢氏は一緒に大きなキャンパスに並んでデッサンをするライブ・アートを行っている。メビウス氏について浦沢氏は、「彼は、手塚治虫と並んでもっとも影響を受けたマンガ家のひとりだ」と語り、「いつかメビウス氏に追いつきたいという思いでマンガを描いている」という言葉で講演を締めくくった。
メビウスは、浦沢直樹や大友克洋ら多くの日本人マンガ家に多大な影響を及ぼした。毎年1500タイトルの日本マンガが出版されるフランス。次はフランス人が浦沢直樹など日本人マンガ家から影響を受け、新たな才能が生まれるかもしれない。今後の世界のマンガ界から目が離せない。
著者紹介
坂井拓也 SAKAI Takuya
大学院にて、日本とフランスのマンガ文化の研究を行う傍ら、フランスにおける日本のポップカルチャーについてなどの記事を執筆している。Twitterは@ahYouthfuldays、ブログはJapan.fr。
関連記事
- パリでゾンビが増殖中!! 「アイアムアヒーロー」「テルマエ・ロマエ」に沸くJapan Expo
ヨーロッパ中からオタクが集まるJapan Expoは現地のマンガ出版社にとって格好のプロモーションの場。創意工夫にあふれた展示をご覧いただこう。 - 14ユーロ(1400円)のプリクラに行列 マンガ・アニメだけじゃない「Japan Expo」
今年で13回目のJapan Expo。展開内容はマンガ・アニメに限らず、野球のバッティング体験コーナーあり、折り紙ありと、多岐に渡る。 - いよいよオープン! 写真で見せます「館長 庵野秀明 特撮博物館」
会場限定で見られる短編映画「巨神兵 東京に現わる」も見逃すな。 - 「セーラームーン」20周年プロジェクト始動 今だから明かせる誕生秘話、打ち切りの危機
20周年トークイベントに、セーラームーン役の三石琴乃さん、タキシード仮面役の古谷徹さん、原作者武内直子さんの担当編集者が登場。当時の裏話を明かした。 - コナン、モンハン、薄桜鬼……世界コスプレサミット日本代表選考会の熱戦を目撃せよ!
今年で10周年を迎える「世界コスプレサミット」の日本代表選考会が開かれた。名探偵コナン、モンハン、薄桜鬼……気合い入りまくりなパフォーマンスが続々登場。優勝者の涙に秘められた思いとは!? - 浦沢直樹さんや大友克洋さんがチャリティーオークション 泉谷しげるさん主催
泉谷しげるさんが、浦沢直樹さんや大友克洋さんら人気漫画家と協力し、チャリティーオークションを開催している。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
-
高校生の時に出会った2人→つらい闘病生活を経て、10年後…… 山あり谷ありを乗り越えた“現在の姿”が話題
-
ディズニーシーのお菓子が「異様に美味しい」→実は……“驚愕の事実”に9.6万いいね 「納得した」「これはガチ」
-
「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
-
プロが教える「PCをオフにする時はシャットダウンとスリープ、どっちがいいの?」 理想の選択肢は意外にも…… 「有益な情報ありがとう」「感動しました
-
「防音室を買ったVTuberの末路」 本格的な防音室を導入したら居住空間がとんでもないことになった新人VTuberにその後を聞いた
-
間寛平、33年間乗り続ける“希少な国産愛車”を披露 大の車好きで「スカイラインGT-R R34」も所有
-
「もしかしてネタバレ?」 “timeleszオーディション”候補者がテレビ局を退社 ディズニーの“船長”としても話題
-
走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
-
グルーミングが出来ない生まれたての子猫、とんでもない体勢になり…… 想像以上のへたくそっぷりに「どこにも届いてないww」「反則級」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
- 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
- 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
- ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
- 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
- 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
- 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
- フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
- 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
- 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
- ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
- 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
- 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた