初音ミクが演じたメディアアートと演劇の新境地 「THE END」初演(1/2 ページ)
ルイ・ヴィトンが衣装デザインを担当したことでも注目された同作。「初音ミクがいなければ出来なかった新時代オペラ」の中身に迫る。
電子音による「生音」が楽器を凌駕し、3Dのプロジェクションマッピングが舞台に無限の可能性を与え、「初音ミク」などのボーカル生成ソフトウェアによって人間が演じることなく感動を呼び起こす――デジタル時代の新たなリアリティーを与えるオペラ「THE END」の初演が、先駆的なメディアアートとパフォーマンスを送り続け世界の拠点ともなっている山口市の山口情報芸術センター(YCAM)で開催された。
小京都として知られている小じんまりとした街である山口。それでも短期間でのアナウンスでありながら、チケットは瞬時に完売した。この歴史的瞬間を目撃するために全国からクリエイティブやアート関係者が集まり、ほかのミクパフォーマンスにはない静かな空気感が漂っていた。
人が歌わないオペラ/オーケストラが演奏しないオペラ
「THE END」は、音楽家の渋谷慶一郎氏、演出家で劇作家の岡田利規氏、映像作家のYKBX氏による、人が演じない新たな演劇制作のプロジェクトから生まれた作品である。当初、渋谷氏がピアノや電子音楽を演奏する独り舞台的なものを想定していたが、ボーカル生成ソフトウェアとしての初音ミクの表現力の高さに着目。プログラムでありながら人格を与えられた「初音ミク」という存在を主演に据えた。人が演じない、そしてすべてが電子音響によるオペラであり、芸術史に新たな1ページを記す作品だ。
初音ミクに死の恐怖を突きつける
物語は、デジタルな存在である初音ミクが劣化したコピーと出会うところから始まる。無機質な部屋の中で動物のようなキャラクターと住む孤独なミクは、劣化コピーから死の存在を告げられ自問する。本来死ぬことがないとされてきた電子的存在であるミクの思考の戸惑いと意識の芽生えを通じて仮託するもの。それは、現代という社会そのものや東日本大震災の経験、創り手の私的経験において突きつけられる死の存在、いつかは迎える終わりの存在……文明が行き着くなか日常で喪失する「終わり」のリアリティーへの問いかけなのだと見ることができた。
死とは何か? コピーやキャラクター、そして自問を通じ、混乱を深める中、デジタルであるからこそ不死であるはずの初音ミクに、様々な死、終わりの可能性が提示されていく。最後、どこまでも続く壮大な終わらないアリア(独唱)で結末を迎える「THE END」。ミクは死んだのか、ミクは別の存在として終わってしまったのか――。その結末を人々のそれぞれの頭の中に残しながら、重厚な浮遊感を残して終わる。力づくで感動を肉体と脳内に押し込めて来るような作品であった。
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