奇才か、それとも―― 飯野賢治さんの作品をあらためて振り返る日々是遊戯

体を張って90年代のゲーム業界をリードした、偉大なクリエイターでした。

» 2013年02月22日 19時38分 公開
[池谷勇人,ITmedia]

 「Dの食卓」などで知られる、ゲームクリエイターの飯野賢治さんが2月20日、42歳の若さでこの世を去りました。ネットではこれを受け、多くの著名人が追悼のメッセージを投稿。あらためて飯野さんという人物の存在の大きさを実感させられました。

画像 Togetterには飯野さんをの死を惜しむまとめが多数作られました

 飯野さんは代表作「Dの食卓」で一躍有名になり、その後も「エネミー・ゼロ」「リアルサウンド 〜風のリグレット〜」と次々と話題作を開発。1999年の「Dの食卓2」を最後に家庭用ゲーム開発からは遠ざかっていましたが、ここ数年はiPhoneアプリや、Wiiウェア「きみとぼくと立体」などでふたたび飯野さんの名前を目にするようになっていました。

 いずれもクセの強い作風でユーザーの評価は分かれましたが、当時進化のまっただ中にあったゲーム業界にとって、常に一歩先を行こうとする飯野さんの作品は、ゲームの未来を明るく照らすサーチライトのような存在でした。残念ながらほとんどの作品が現在のハードでは遊べない状態ですが、ここでは追悼の意を込め、飯野さんの作品をまとめて振り返ります。

Dの食卓(1995年/3DO、プレイステーション、セガサターン)

画像

 主人公ローラ・ハリスとなって3Dの館を探索するアドベンチャーゲームで、“飯野賢治”の名を世に知らしめた代表作。当時まだ珍しかった3DCGをいち早く採用したことや、映画のような演出やストーリーテリングに当時は驚かされました。

 セーブ・ロードができず、なおかつ2時間以内にクリアできないとバッドエンドになってしまうという「遊ばせ方」も印象的でした。現在遊ぶには中古などを利用するしかなく、ゲームアーカイブスで復刻してほしい作品の1つです。


エネミー・ゼロ(1996年/セガサターン)

画像

 宇宙船という閉鎖空間の中で、姿の見えない敵(エネミー)と戦うアクションアドベンチャーゲーム。視覚ではなく“音”で敵の位置を察知するシステムが特徴ですが、あまりにも怖すぎた/難しすぎたため筆者は当時クリアできませんでした。

 当初はプレイステーションで発売される予定でしたが、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)とモメた挙げ句、セガサターンへとハード変更。その発表をSCE主催の「プレイステーションエキスポ」内で行ったというエピソードはあまりにも有名です。

 これも現在は中古で遊ぶしかなく、しかもハードがセガサターンのみ……。


リアルサウンド 〜風のリグレット〜(1997年/セガサターン、ドリームキャスト)

画像

 ゲーム画面がなく、ラジオドラマのような形式でストーリーが展開していく「インタラクティブサウンドドラマ」。続編も発表されておりシリーズ化される予定でしたが、結局1作目の「風のリグレット」しか発売されませんでした。

 のちにドリームキャストにも移植されましたが、ドリームキャスト版ではシーンに合わせた一枚絵が表示されるようになってしまったのがちょっと残念でした。これも今のところ復刻・配信などは行われていません。

 なお飯野さんの訃報を受け、脚本を担当した坂元裕二さんが「風のリグレット」の脚本を無料公開しています


Dの食卓2(1999年/ドリームキャスト)

画像

 タイトルは「Dの食卓」ですが、主人公が同じローラというだけでゲーム内容はまったくの別もの。今回は雪山が舞台で、銃による戦いが加わりアクションシューティング寄りの内容になっています。体力回復の方法が「ウサギなどの野生動物を仕留めて食べる」という点が印象的でした。

 一見よくあるサバイバルホラーに見えますが、メッセージ性の強いストーリー、特に終盤の展開は一見の価値があります。

 これも今のところ復刻・配信は行われていません。


きみとぼくと立体(2009年/Wiiウェア)

画像

 「Dの食卓2」以降家庭用ゲーム開発から遠ざかっていた飯野さんですが、2009年にブログで突然「GET BACK」を宣言。しばらくしてリリースされたのが本作でした。

 ぐらぐらと揺れる不安定なキューブの上に、「ニンゲ」と呼ばれる生き物たちを乗せていくゲームで、オモチャなどでよくある「バランスゲーム」のデジタル版といった感じ。これまでの飯野さん作品とは違ったポップさがあり、10年間の変化がなんとなくうかがえます。現行の家庭用ハードで遊べる唯一の飯野さん作品なので、Wiiを持っている人はぜひ遊んでみてください。


 ここでは省略しますが、ほかにも「moon」の西健一さんと組んで開発した「newtonica」(2008年)や、飯野賢治の名前を伏せてリリースしたにもかかわらず10万ダウンロードを達成した「one-dot enemies」(2009年)などのiPhoneアプリ(のちにTwitterで告白)をリリースしています。

 最近はiPhoneアプリに軸足を置いていたとは言え、あらためて振り返ってみると、現行ハードで遊べる作品の少なさに衝撃を受けました。好き嫌いはあれど、いずれも90年代のゲームを語るにあたって欠かせない作品群。ぜひゲームアーカイブスなどでの復刻を切に願います。

 飯野さんを称して「奇才」「異端児」などとしばしば言われますが、パフォーマンス的な発言はさておき、飯野さんが作ろうとしていたものこそ、ゲームの正常進化だったのではと今では思っています。ゲームが昔の殻を破り、次のステージへ進もうとしていた90年代。そんな中、誰よりも強く殻を叩き続け、誰よりも早く外の世界へ飛び出そうとした偉大なクリエイターでした。飯野賢治さんのご冥福を心よりお祈りします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/13/news176.jpg 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  2. /nl/articles/2411/14/news014.jpg ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. /nl/articles/2411/14/news042.jpg 夫「250円のシャインマスカット買った!」 → 妻が気づいた“まさかの真実”に顔面蒼白 「あるあるすぎる」「マジ分かる」
  4. /nl/articles/2411/14/news090.jpg ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  5. /nl/articles/2411/14/news167.jpg 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. /nl/articles/2411/14/news187.jpg 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. /nl/articles/2411/13/news162.jpg 「情報操作されてる」「ぜーんぶ嘘!!」 175R・SHOGO、元妻・今井絵理子ら巡る週刊誌報道を一蹴 “子ども捨てた”の指摘に「皆さん騙されてます」
  9. /nl/articles/2411/14/news035.jpg 160万円のレンズ購入→一瞬で元取れた! グラビアアイドル兼カメラマンの芸術的な写真に反響「高いレンズってすごいんだな……」「いい買い物」
  10. /nl/articles/2411/12/news194.jpg 「予約しました」 サッポロ一番の袋に見せかけた“笑っちゃいそうなグッズ”が話題 「サッポロ一番味噌ラーメン好きがバレちゃう」
先週の総合アクセスTOP10
  1. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  2. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  3. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  4. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
  5. イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
  6. 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
  7. 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
  8. 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
  9. 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
  10. 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた