アニメーションは「世界の秘密をのぞき見る」仕事――宮崎監督が語った、引退、ジブリのこれから、作品への思い(3/3 ページ)

» 2013年09月06日 19時38分 公開
[山田胡瓜,ねとらぼ]
前のページへ 1|2|3       

「風立ちぬ」について(作品のラストについても)

――零戦の設計者を描いたということについて

宮崎 映画を見ていただければ分かると思っている。日本が軍国主義に向かっていく時代が作品のモチーフで、家族やスタッフからも疑問が出た。それに答える形で作った。

画像 何度も笑顔を見せる宮崎監督

――ラストシーンは当初「生きて」ではなく「来て」だったと聞くが、変えた理由は

宮崎 風立ちぬの最後は、本当に煩悶(はんもん)した。絵コンテをあげないとどうにもならず、ペンディング事項もありつつ形にしたという、追い詰められたのが実態。だめだなと思いながら絵コンテを描いて、セリフは後から変えられるので、仕切り直しをした。

 最後の草原はどこなんだろうと考え、僕は煉獄(れんごく)であると仮説を立てた。菜穂子はベアトリーチェ。ならば、「迷わずにこちらに来て」と言うのではないか、と考え始めたら頭がこんがらがって、やめました。やめたらすっきりした。神曲なんか一生懸命読むからいけないんですね。

――声のキャスティングについて

宮崎 毎日テレビを見ている人には気がつかないことがある。僕は東京と埼玉を往復する日々で、今の映画やテレビをほとんど見ていない。その自分の記憶の中によみがえってくるのは、モノクロ時代の日本の映画。暗い電球の下で生きるのに苦労している男女ばかりが出てくる。それと今のタレントの喋り方を比べると、失礼だが愕然とする。なんという存在感のなさだろうと。

 庵野も、スティーブン・アルパートさんも、存在感だけ。乱暴だったと思うが、そのほうが映画にピッタリだと。でも、ほかの方が駄目だったとは思わない。菜穂子をやってもらった方(女優の瀧本美織さん)は、みるみるうちに本当に菜穂子になってしまい、愕然とした。

――作品内で「力を尽くして生きろ」「持ち時間は10年だ」という言葉がある。自身の「10年」はいつだったか

宮崎 僕の尊敬している堀田善衛さんという作家が、最晩年に「空の空なればこそ」などで旧約聖書の伝道の書について触れている。その中に「汝の手に堪うることは力を尽くしてなせ」という言葉が出てくる。

 10年というのは、自分が言い出したことではない。自分の絵の先生に「絵を描く仕事は、38歳ぐらいに限界が来て、死ぬ人が多いから気をつけろ」と言われた。それで、だいたい10年ぐらいかとぼんやりと思った。

 監督になる前に、アニメーションというのは世界の秘密をのぞき見ることだと思った。風や、人の動きや、いろんな表情、体の筋肉の動きなどに、世界の秘密が隠されていると思える仕事。それが分かったときに、自分の選んだ仕事が、奥深く、やるに値する仕事だと思えた。その後、演出をやったりしてややこしくなるが、その一生懸命やっていた10年というのが、なんとなく思い当たる。

宮崎監督に「残った」のはハウル

――最も思い入れのある作品は。宮崎作品に共通してあるメッセージは

宮崎 うーん。一番自分の中にトゲのように残っているのはハウルの動く城。ゲームの世界なんです。それをドラマにしようとして本当に格闘した。スタートが間違ってたのかも。

 基本的に、子供たちに「この世は生きるに値する」と伝えなければいけないと思ってやってきた。それは今も変わらない。

――風の谷のナウシカ」の続編はあるのか

宮崎 ありません。



前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2404/18/news134.jpg 21歳の無名アイドル、ビジュアル拡散で「あの頃の橋本環奈すぎる」とSNS騒然 「実物の方が可愛い」「見つかっちゃったなー」の声も
  2. /nl/articles/2404/18/news025.jpg 生後5日の赤ちゃん、7歳のお姉ちゃんから初めてミルクをもらうと…… 姉も驚きの反応がかわいい
  3. /nl/articles/2404/18/news057.jpg 9カ月の赤ちゃん、バスで外国人の女の子赤ちゃんと隣り合い…… 人生初のガールズトークに「これは通じあってますね!」「ベビ同士の会話、とろけます」
  4. /nl/articles/2404/17/news037.jpg 【今日の計算】「8+9÷3−5」を計算せよ
  5. /nl/articles/2404/17/news034.jpg 「妹が入学式に着るワンピース作ってみた!」 こだわり満載のクラシカルな一着に「すごすぎて意味わからない」「涙が出ました」
  6. /nl/articles/2404/18/news155.jpg 大谷翔平選手、ハワイに約26億円の別荘を購入 真美子夫人とデコピンとで過ごすかもしれないオフシーズンの拠点に「もうすぐ我が家となる場所」
  7. /nl/articles/2404/17/news179.jpg 「ケンタッキー」新アプリに不満殺到 「酷すぎる」「改悪」の声…… 運営元「大変ご迷惑をおかけした」と謝罪
  8. /nl/articles/2404/16/news192.jpg 「ゆるキャン△」のイメージビジュアルそのまま? 工事の看板イラストが登場キャラにしか見えない 工事担当者「狙いました」
  9. /nl/articles/2404/17/news129.jpg 「ハーゲンダッツ硬すぎ!」と力を入れたら……! “目を疑う事態”になった1枚がパワー過ぎて約8万いいね
  10. /nl/articles/2404/16/news175.jpg 「そうはならんやろ」をそのまま再現!? 「ガンダムSEED FREEDOM」のズゴックを完全再現したガンプラがすごすぎる
先週の総合アクセスTOP10
  1. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  2. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  3. 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  4. 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  5. “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  9. 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
  10. 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」