アニメーションは「世界の秘密をのぞき見る」仕事――宮崎監督が語った、引退、ジブリのこれから、作品への思い(3/3 ページ)
「風立ちぬ」について(作品のラストについても)
――零戦の設計者を描いたということについて
宮崎 映画を見ていただければ分かると思っている。日本が軍国主義に向かっていく時代が作品のモチーフで、家族やスタッフからも疑問が出た。それに答える形で作った。
――ラストシーンは当初「生きて」ではなく「来て」だったと聞くが、変えた理由は
宮崎 風立ちぬの最後は、本当に煩悶(はんもん)した。絵コンテをあげないとどうにもならず、ペンディング事項もありつつ形にしたという、追い詰められたのが実態。だめだなと思いながら絵コンテを描いて、セリフは後から変えられるので、仕切り直しをした。
最後の草原はどこなんだろうと考え、僕は煉獄(れんごく)であると仮説を立てた。菜穂子はベアトリーチェ。ならば、「迷わずにこちらに来て」と言うのではないか、と考え始めたら頭がこんがらがって、やめました。やめたらすっきりした。神曲なんか一生懸命読むからいけないんですね。
――声のキャスティングについて
宮崎 毎日テレビを見ている人には気がつかないことがある。僕は東京と埼玉を往復する日々で、今の映画やテレビをほとんど見ていない。その自分の記憶の中によみがえってくるのは、モノクロ時代の日本の映画。暗い電球の下で生きるのに苦労している男女ばかりが出てくる。それと今のタレントの喋り方を比べると、失礼だが愕然とする。なんという存在感のなさだろうと。
庵野も、スティーブン・アルパートさんも、存在感だけ。乱暴だったと思うが、そのほうが映画にピッタリだと。でも、ほかの方が駄目だったとは思わない。菜穂子をやってもらった方(女優の瀧本美織さん)は、みるみるうちに本当に菜穂子になってしまい、愕然とした。
――作品内で「力を尽くして生きろ」「持ち時間は10年だ」という言葉がある。自身の「10年」はいつだったか
宮崎 僕の尊敬している堀田善衛さんという作家が、最晩年に「空の空なればこそ」などで旧約聖書の伝道の書について触れている。その中に「汝の手に堪うることは力を尽くしてなせ」という言葉が出てくる。
10年というのは、自分が言い出したことではない。自分の絵の先生に「絵を描く仕事は、38歳ぐらいに限界が来て、死ぬ人が多いから気をつけろ」と言われた。それで、だいたい10年ぐらいかとぼんやりと思った。
監督になる前に、アニメーションというのは世界の秘密をのぞき見ることだと思った。風や、人の動きや、いろんな表情、体の筋肉の動きなどに、世界の秘密が隠されていると思える仕事。それが分かったときに、自分の選んだ仕事が、奥深く、やるに値する仕事だと思えた。その後、演出をやったりしてややこしくなるが、その一生懸命やっていた10年というのが、なんとなく思い当たる。
宮崎監督に「残った」のはハウル
――最も思い入れのある作品は。宮崎作品に共通してあるメッセージは
宮崎 うーん。一番自分の中にトゲのように残っているのはハウルの動く城。ゲームの世界なんです。それをドラマにしようとして本当に格闘した。スタートが間違ってたのかも。
基本的に、子供たちに「この世は生きるに値する」と伝えなければいけないと思ってやってきた。それは今も変わらない。
――風の谷のナウシカ」の続編はあるのか
宮崎 ありません。
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