ニコニコ動画が変えた新しい演劇の見方――劇団キャラメルボックス、舞台を生放送する理由(2/2 ページ)

» 2014年05月09日 13時54分 公開
[藤井千桃子,ねとらぼ]
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ニコ生の“ゆるさ”が変えた価値観

 実際にニコ生を始めてみて気付いたのは、過去に行ってきたライブ配信では感じられなかった「良い意味での適当さ」だ。「生放送というものは、脚本や構成をきちんと考えた上で配信しなければならない」と思い込んでいた加藤さんの価値観を、ニコ生の“ゆるさ”が変えた。以前のように1分1秒の演出にこだわるようなことはせず、より内容そのものの面白さに注力するようになった。

 公衆電話ボックスの中にiPadを持ちこみ、外に電話を掛けながら、その様子を配信したこともある。今どきテレホンカードを使って配信を続ける姿は、視聴者に大いにウケた。きっちり内容を作り込むことよりも、まずは自分が楽しむこと。それこそが何より視聴者を楽しませることであり、ニコ動らしさだった。

ニコ動の“先”にある場所

 これまでは、劇団の役者や周囲の来場客も含めた全員が、劇場という1つの空間を共有することでしか、作品の“生”を実感できなかった。しかし今日では、自宅にいながら、あるいはモバイル端末で視聴することにより、一人一人が「異なる空間」で「異なる“生”」を実感できるようになった。

 劇場には集まりきれないほど多数の人々が、作品を視聴しながらコメントを交わし、感想をぶつけ、自分なりの演劇の楽しみ方を発見する。そこで共有されているのは、「空間」ではない「時」だ。ニコ生を通じたネットビューイングは今、演劇の新たな視聴形態を提示している。

 そして、そうした楽しみ方を知った視聴者が次に足を向ける場所はきっと劇場であるはずだと、加藤さんは信じている。「PCの画面で見ても面白いという自信はあるので、次こそは劇場へ行くぞと思ってもらえるような生放送をしたいと思っています」

もっと身近な劇団になるために

役者たちの稽古風景

 今後挑戦したいことは、過去の公演も含めた映像コンテンツすべてをニコ動上で有料配信すること。Huluで多くの映画や海外ドラマが配信されているように、演劇でも同じような環境を作りたい。

 もう1つの挑戦は24時間生放送し続けること。「実際にそんなことしたら防犯カメラのようになってしまうから難しいのだけれど(笑)」。舞台と同じくらい面白いことが、劇団の日常で起こっている。その風景をどんどん公開して、いずれは劇団の1日を丸ごと放送したい。「もっと身近な劇団になりたいなと思っているんです」

「楽しさ」を創る側へ

次回公演「鍵泥棒のメソッド」

 「演劇なんてみんな見ないと思うんですよ。ネット見てるだけで楽しいから」

 加藤さんの言う通り、ネットを見ているだけであっという間に時間が過ぎてしまうこともある。けれど、ニコ動にさまざまなクリエイターが集まっているように、ネット上にあふれている楽しいこと、面白いことの後ろにはそれを作っている人がいるということも忘れてはいけない。「僕らはテレビを見て自分たちで作りたいと思っちゃったタイプなんですよ。だから演劇なんてやっちゃってる」――加藤さんは作り手側に回る楽しさも説く。

 ニコ生の登場によって、私たちは新しい“生”の時間や空間を共有できるようになった。しかし、その“生”のすべてを画面から感じ取ることはできない。少しでも画面の向こうから感じたものがあるなら、次は劇場へ足を運んでみてもいいし、あるいは自分自身で何かを“創ってみた”りするのもいいだろう。受け取るだけでなく行動を起こすことで、あなたの体験する演劇の世界は広がっていく。

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