ニュース
» 2015年02月02日 10時15分 公開

刑務所アイドル「Paix2(ペペ)」に聞いた「私たちが刑務所で活動を続ける理由」

獄中ではAKBよりも圧倒的に知名度があるらしい。

[青山ゆずこ,ねとらぼ]

 刑務所や少年院など、全国にある矯正施設の受刑者たちから絶大な支持を得ている、女性歌手ユニット「Paix2(ペペ)」。


画像 右:井勝めぐみさん 左:北尾真奈美さん

 矯正施設では歌手や芸人さんなどがゲストとして招かれる、「慰問」と呼ばれるイベントがある。だが、彼女たちは慰問と言う表現は決して使わず、「プリズンコンサート」と表現する。「加害者が居ると言うことはその対極には被害者の方々が居る事を忘れてはいけない」と言う2人は、2000年のデビュー以来およそ15年間で359回(平成27年1月時点)もの慰問(プリズンコンサート)をこなし、全国の刑務所から引っ張りだこの“刑務所アイドル”。もはや施設内ではAKB48よりも知名度があるようで、塀の中の受刑者たちをメロメロに魅了してやまない存在なのだ。

 矯正施設に縁遠い私たち一般人にとって、「刑務所の慰問」と言われてもなかなか想像するのは難しい。「なんかいかつい人たちが暴れそう」「ヤジや煽りがすごいんじゃ……」などイメージも偏りがちだが、ぶっちゃけ実際のコンサートはどんな雰囲気なのだろうか。

井勝めぐみさん(以下、めぐみさん) 「私語は一切禁止で、曲を披露している最中の手拍子も禁止。すっごく厳しいんですよ。歌い切った後の拍手は許されているんですが、一緒に歌うのも基本的にNG出し、口ずさんでもダメ。振付をノリノリでするのもNGなので、もちろん途中退席も禁止です。し〜〜〜〜〜〜んと静まりかえる中、何百人もの人たちがギッチリと並んで固まったまま、私たちを凝視してくれてる光景はすごく迫力がありますよ(笑)」


画像 これが実際の矯正施設でのコンサートの光景だ……!(鹿児島刑務所)

画像 受刑者たちは一切微動だにせず前だけを見つめる。独特の空気感がある

 正直、その独特な雰囲気に圧倒されたり、不安にかられたことはないのだろうか?

北尾真奈美さん(以下、真奈美さん) 「最初はやっぱり皆さん迫力ある顔の方も多くて、ステージに上がった途端に手がブルブルと震えだしたこともありました。基本的に受刑者の皆さんは言葉を発しちゃダメだから、MCで何か問いかけても何にも返ってこないんですよね。歌っているときも静まりかえってるし……。それが施設のルールだっていうことは慣れていけば分かるんですけど、活動を始めた当時は『私たちの歌そんなに盛り上がらないの……?』『MCが受け入れてもらえないほど未熟なのかな』って落ち込んでしまったり(笑)」

 誰も動かない、声を出さない……、静まり返った会場ではメンタルも相当鍛えられそう。当初は「何度も心が折れそうになった」という2人だが、活動歴15年・359回も全国の矯正施設をまわっている2人だからこその“受刑者イジリ”の技があるという。

めぐみさん 「意外にも『刑務所だからこれを言っちゃいけない』っていうガチガチのルールはないんですよ。過激すぎたりしなければ大丈夫。でも活動を開始したばかりの頃は私たちも余裕がなくて、本当に手探り状態でしたけどね。いろいろ経験しながら体を張って覚えていったというか……」

真奈美さん 「MCでは“刑務所ならではの専門用語”を入れると案外ウケが良いんです。例えば、施設内の作業の報酬として出される作業報奨金や、収監されるときに預ける手持ちの金品のことを“領置金(りょうちきん)”というのがあるんですが、『出所したら作業報奨金か領地金でCD買って下さいね〜!』って言っちゃう。すると受刑者の人たちは『なんでそんな言葉知ってるんだ?』って私たちに興味を持ってくれるんですよ。地方のコンサートでその地域の方言を使うアイドルと同じで、『自分たちのことを知ってくれているんだ』『ただ歌を歌いにきたアイドルとは違う』って思ってくれる。より身近に感じてくれるんだと思います」


画像 ちょっと天然な一面もある真奈美さん

めぐみさん 「相方(真奈美さん)は見た目が明るくてちょっと天然系かなって見られるところもあり、キャラとして許されちゃうところがあるんですけど、隣で聞いてるとたまにヒヤヒヤしますよ。オリジナル曲の中で『元気出せよ』という曲があるんですが、拳をふりあげる振付けをしてもらうときに『隣の人にぶつからないように気を付けてくださいね〜。殴り合ったらまた取り調べ室に連れていかれちゃいますよ〜!』って笑顔で言い放ったり。その瞬間、さ――っと血の気が引いちゃいました(笑)」

 でもこんな“イジリ”ができるのは、長年の実績がある「ペペ」だからこそ。

めぐみ 「気を付けているのは『上から目線の説教じみた話にならないようにする』こと。やっぱりそれぞれの事情で収容されているわけですから、“慰問”っていう言葉もちょっと違うのかなって思うんですよね。だから私たちはプリズンコンサート、または(メッセージコンサート)という言葉を使うんです。それでもコンサートの間だけは同じ目線に立って、一体感を重視する。受刑者の方々も動作や言葉では感情を表せないけど、目やにじみ出る雰囲気で『今楽しんでるよ』っていうのが伝わる瞬間があるんです。それを察したり感じられるようになったのも、15年間ずっとやってきたという経験があるからです。少々のブラックジョークを言える雰囲気を作るためにも、積み重ねた時間と関係性という根っこの部分がしっかりできていないとダメなんだと思います」

 相手の表情や視線から相手の心を察する力、独特の雰囲気の中でも会場を盛り上げるテクニックなど、プリズンコンサートをこなす中で次第に身に付いて行ったさまざまな力。それが「ペペ」の魅力となって、今彼女たちのもとには、元受刑者たちからのお礼の手紙やメールがひっきりなしに届くという。


画像 手紙やメールのほか、全国のイベントにも駆けつける元受刑者のファンは多い

めぐみさん 「元受刑者の方の中には、『2人の歌に出会えたおかげで社会復帰ができました。心の応援歌として辛いときに何度も思い出して励まされた』とわざわざ手紙を送って下さる方も大勢います。施設以外のイベントでも、会場まで駆けつけてくれる方もいたり……。それはすごくうれしいし、私たちにとっても原動力になる。最初はすすめられて始めた矯正施設での活動ですが、『何か一貫して続けられることを見つけよう』って覚悟を決めて、今日までこうして続けることができて本当に良かった」


画像 今ではフェイスブックなどで多くのメッセージが寄せられることも多い

真奈美さん 「施設でのコンサートって基本的にボランティアなんですよね。活動を開始してから数年の間は会場までの移動費(ガソリン代)はもちろん、収入にはほとんどつながらないので2人とも貯金を崩したり生活を切り詰めて生活していたんです。同じ音楽業界の人たちには理解されないことも多かったですが、徐々にプリズンコンサートの活動が使命感に変わっていった。『これだけは絶対続けたい!』と強く思うようになったんです。2014年の9月から保護司(保護観察官と協力して犯罪や非行をした人の立ち直りを助ける民間のボランティア。非常勤の国家公務員で法務大臣から委嘱を受ける)に任命していただいたので、保護司としての活動をより広く知ってもらったり、私たちのプリズンコンサートの活動を通しても、何かを考えるきっかけになってもらえればうれしいです」

 全国の矯正施設で精力的に活動を続ける「ペペ」には、将来かなえたい夢がある。それは紅白出場。しかも「刑務所のグラウンドから生中継で歌を届けたい」という。

めぐみさん 「人生には裏と表があります。大晦日に家族団らんであったかい時間を過ごしている人がいる一方で、閉ざされた塀の中で生きている人たちもいる。幸せの対極にある世界を目の当たりにすることで、今自由に暮らせている私たちがいかに幸せか、恵まれているのかという“当たり前の幸せ”に気が付くこともできると思うんです。それが犯罪抑止にも繋がるかもしれない。だからあえて刑務所のグランドという対極の場所から歌を届けたいんです。もちろん『こんなものを見せるな!』っていうクレームも多いかも知れません。でも反応があるだけで、それはすごくありがたいこと。だから私たちはこれからも自分たちの信念を貫いて活動を続けたいと思います。独特なコンサートのおかげで、心もかなり鍛えられましたからかなり折れにくいですよ(笑)」

青山ゆずこ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2311/29/news051.jpg 900万再生のワンコに「電車で笑ってしまった」「つられてめちゃくちゃ笑っちゃうw」 “突然魔王になった犬”に腹を抱える人続出
  2. /nl/articles/2311/29/news033.jpg 秋田犬が娘の宿題を見守ると……「驚くほど美脚すぎる!」と900万再生 「立ち方凄い」「人にしか見えない」
  3. /nl/articles/2208/06/news075.jpg 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  4. /nl/articles/2311/28/news159.jpg サントリーのウイスキー値上げ額詳細が公開されSNSでも嘆きの声 「もう買えない……」「今ですら厳しいのに」
  5. /nl/articles/2311/29/news146.jpg “ベスト級に美しい芸能人”、出会った上沼恵美子が大絶賛 あまりの完璧超人ぶりにほれぼれ「人間として魅力を備えてて」「頭がいい育ちがいい」
  6. /nl/articles/2311/29/news022.jpg 留守番中の子猫を見守りカメラで確認したら…… 何度も「ママぁー!!!」と泣く姿に「切ない」「一目散に帰らなければ」
  7. /nl/articles/2311/29/news116.jpg 32歳になった河北麻友子、“家族そろった記念ショット”を出産後初公開 幼子抱えて大笑いの夫婦に「最高だねえって言いたくなる」
  8. /nl/articles/2311/28/news170.jpg DAIGO、コンビニで“大物スター”とまさかの遭遇 2日連続の出会いに「すごい奇跡」「これは運命」
  9. /nl/articles/2311/29/news043.jpg マックで「プレーンなバーガーください」と頼んだら……? 出てきた“予想外の一品”に驚き「知らなかった」
  10. /nl/articles/2311/29/news028.jpg 寂しくて「えーんえーん」と泣くワンコ、後ろにいる飼い主に気付くと…… 激変する表情のギャップがたまらない
先週の総合アクセスTOP10
  1. 大好物のエビを見せたらイカが豹変! 姿を変えて興奮する姿に「怖い」「ポケモンかと思った」
  2. 「3カ月で1億円」の加藤紗里、オーナー務める銀座クラブの開店をお祝い “大蛇タトゥー”&金髪での着物姿に「極妻感が否めない」
  3. 愛犬と外出中「飼いきれなくなったのがいて、それと同じ犬なんだ。タダで持ってきなよ」と言われ…… 飼育放棄された超大型犬の保護に「涙止まりません」
  4. ミキ亜生、駅で出会った“謎のおばさん”に恐怖「めっちゃ見てくる」 意外な正体にツッコミ殺到「おばさん呼びすんな」「マダム感ww」
  5. 永野芽郁、初マイバイクで憧れ続けたハーレーをゲット 「みんな見ろ私を!」とテンション全開で聖地ツーリング
  6. 道路脇のパイプ穴をのぞいたら大量の…… 思わず笑ってしまう驚きの出会いに「集合住宅ですね」の声
  7. 柴犬が先生に抱っこしてほしくて見せた“奥の手”に爆笑&もん絶! キュンキュンするアピールに「あざとすぎて笑っちゃった」
  8. 病名不明で入院の渡邊渚アナ、1カ月ぶりの“生存報告”で「私の26年はいくらになる?」 入院直後の直筆日記は荒い字で「手の力も入らない」
  9. 小泉純一郎元首相、進次郎&滝クリの第2子“孫抱っこ”でデレデレ笑顔 幸せじいじ姿に「顔が優しすぎ」「お孫さんにメロメロ」
  10. デヴィ夫人、16歳愛孫・キランさんが仏社交界デビュー 母抜かした凛々しい高身長姿に「大人っぽくなりました」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 病名不明で入院の渡邊渚、3カ月ぶりSNS更新で「表情に違和感」「そこまで酷い状況とは」 ベッド上で「人生をやり直すこともできません」
  2. 動かないイモムシを助けて1年後のある日、窓の外がありえない光景に 感動サプライズが「アゲハ蝶の恩返し」と話題
  3. 「スカートはないわ」「常識無視の番組でびっくり」 山下リオ、登山中の服装批判巡って反論「私が叩かれているようですが」
  4. 「千鳥」大悟、大物美人俳優にバッグハグされた表情に注目集まる 「マジ照れのお顔ですね」「でれでれやん」
  5. 渋谷駅「どん兵衛」専門店が閉店 店内で見つかった書き置きに「店側の本音が漏れている」とTwitter民なごむ
  6. 神田愛花アナ、拡散された女子中学生時代ショットにスタジオ騒然「ヤバい」→“アネゴ感”でSNSもざわつく
  7. 「生きててよかった」 熊谷真実、美麗な初“袋とじ”グラビアで63歳の色気全開 真っ赤なドレス着こなす姿に「すごいプロポーション」
  8. 尻尾がちぎれた小さな子猫をサーキット場で保護→1年後“ムキムキ最強生物”に 驚異の成長ビフォーアフターに注目集まる
  9. 双子モデル・吉川ちえ、美容整形後のひたいが“コブダイ”状態へ 多額の費用要した修正手術で後悔も「傷がこんなに残りました…」
  10. 「犬ぐらい大きくなれよ」と願い育てた保護子猫が「まさか本当に犬ぐらいになるとは」 驚異の成長ビフォーアフターが192万表示!