comicoの世界観を広げるキーとは? 稲積社長が語る「comicoワールド」への道程(1/2 ページ)
完全オリジナル、フルカラー、縦スクロールといったユニークな特徴の無料コミックアプリで1000万ダウンロードを達成した「comico」。comicoは今、どんな課題を感じているのだろうか。comicoを運営するNHN PlayArtの代表取締役社長の稲積憲氏にeBook USER編集長の西尾が再び聞いた。
2013年10月にNHN PlayArtがリリースした無料のマンガアプリ「comico」。時を同じくしてリリースされた無料のマンガアプリが多数存在する中、comicoは2015年6月にアプリのダウンロード数1000万を突破。この領域で強烈な存在感を放っている。
完全無料、毎日更新、フルカラー、縦スクロールで読み進めるスタイル――既存の出版ではほとんど見られなかったユニークな要素をたくさん持つcomicoが登場したとき、期待と不安が入り交じった声が多く見られた。しかし今や、1つの大きなムーブメントになったといってよいだろう。
eBook USERでは約1年前、NHN PlayArt代表取締役社長の稲積憲氏にインタビューを行い、当時注目が高まりつつあったcomicoの取り組みについてじっくりとお話を伺った(『コミックはエンターテインメント――comicoはマンガをこう変える』参照)。
あれから1年、ユーザーだけでなく、作家、業界からも注目を集めるようになったcomicoは今どういったフェーズにあるのか。稲積氏に再び話を伺う機会を得て、comicoのこれまでとこれからを聞いた。
1000万ダウンロード突破、comicoに去来するものは
―― 前回インタビューさせていただいてから約1年。この間comicoは1000万ダウンロードという大台を超えてきました。すばらしい数字ですね。
稲積 1年前に取り上げて頂いてからさまざまな形で応援してくださる人が増え、本当にありがたく思っています。当初、「こういう風に成長できればいいな」と考えていたものが、ある意味想定した形、理想に近い形で実現できていると思っています。
―― 予定通りのペースだと。
稲積 「予定通り」という感覚はあまりなくて、「想定よりもいい形」だなと。
comicoの場合、出版社さんのように有力なIPがあるわけでもなく、完全オリジナルのコンテンツを従来とは異なる形態で提供するところから始めました。そこにニーズは存在し、大きくしたいとも思っていましたが、本当に多くの作家さんに参加頂き、たくさんのユーザーさんに見て頂けるようになったことは想定以上によかったと思っています。
―― この1年を振り返ると、どんなことが大変でしたか?
稲積 一番難しいところは、ヒットコンテンツをいかに増やしていくか、ですね。幸い、『ReLIFE』という総合的にバランスやレベルの高い作品に恵まれました。この1年は、投稿作品の上位のものを定期的に公式作品化していくことに取り組んできましたが、それでもまだ今トップは依然として『ReLIFE』です。作品の数は増えましたが、本当にいい作品、愛される作品、突き抜けた作品を生み出すのは時間が掛かるものだと改めて感じています。
―― 『ReLIFE』とは異なる魅力を持った作品も多数生まれてきていると思いますが、comicoで人気になる作品に傾向などはありますか。
稲積 やはりティーンの方、もしくは20代前半の方が親近感を覚えるようなコンテンツが比較的人気になる傾向があるように見受けられます。ジャンルでいうと、日常ものだったり、学園ものが人気がありますね。
―― 既存の紙媒体で人気のジャンルとは違うものが出てきている印象ですか?
稲積 そうですね。少し違うテイストの作品が多いと思っています。これはスマートフォンで漫画を読もうとする読者層が関係しているのかもしれません。週刊のコミック誌などですと、購入が最初にくるわけですが、comicoは無料なので本当に気軽に見られる。コアな漫画のファンだけでなく、少しライトな層にもご利用頂いているからだと思っています。
comicoが今課題だと考えているのは?
―― comicoアプリ1000万ダウンロードはすごい数字ですが、とはいえこれがゴールではないですよね。この領域で先頭を行くcomicoが今、どんなことを課題としてとらえているのかをお聞きしたいです。
稲積 大きくは3つ、「IPの育成」「マネタイズ」「サービスの多様化」です。
まず、IPの育成ですが、それぞれのIPをわれわれがエージェント的な役割を担って、世の中に打ち出していくことが重要になってきます。書籍化やアニメ化される作品も複数出てきて、実写化やゲーム化なども視野に入ってきたわけですが、こうしたアプリの外側での活躍の機会をもう少し増やしていきたいですね。
―― ゲームは御社の元々の強みもありますしね。
稲積 そうですね。まさにわれわれが得意としているところでもありますから。ただ、ゲームにフイットするものとそうでない作品がありますので、強引に推し進めるのではなく、作品ごとに見極めながら取り組んでいきたいと考えています。
―― 『ReLIFE』を筆頭に紙のコミックスとして出版されるものも増えてきました。ここにはどんな手応えをお感じですか。
稲積 最初にコミックスを出すときは、出版社さんから「アプリでは無料で公開されているのに本当に売れるの?」という懐疑的な声を頂くことがありました。しかし、スマートフォンで無料で公開していても、媒体や形式を変えてご提供することで買ってくださるお客さまがたくさんいらっしゃることが、まずは業界の方、特に書店さんにもお分かり頂けたのではないかと思います。ですので、comicoは出版社さんや書店さんとともに業界を活性化していくひとつの存在と思って頂けるとありがたいですね。
同じくアニメについても、comicoの中でたくさんのタイトルが人気ランキングの形で紹介されていますので、ある程度ファンの確保だったり支持層の想定がしやすい状況の中で乗れるんじゃないかと思っています。
―― comicoの登場時に業界が抱いていたであろう意識はかなり変わったというところでしょうか。
稲積 まだまだです。恐らく当時のcomicoは何のイメージもされていなかったと思うんですよ。スマートフォン上のサービスであるcomicoが、紙の方でも積極的にやってきているんだなというのを少しずつ感じて頂けているのならありがたいですね。
―― 2月にはローソンとのコラボキャンペーンも展開されていましたよね。チャネル別に取り組みの温度差があるのかなと思いましたが。
稲積 そうではないですね。ローソンさんとやらせて頂いたのは、どちらかというと書籍販売というよりはcomico自体のプロモーションを意図したものです。日常の中でcomicoを浸透させたいという目的で、新規のユーザーや過去にアプリをダウンロードしつつも、しばらく使っていなかった方に興味を持って頂くことを意図しました。
―― 市場を見回すと、IPを外に出して露出を増やそうとする動きもみられます。comicoはまだそうした動きは見られませんが、この辺りにはどんな見解をお持ちですか。
稲積 漫画というコンテンツ自体が強い引きのあるものだというのが恐らくベースにあると思います。だからこそ媒体側もそれを求めるのでしょう。提供側からすると、どちらかというとプロモーションだと思いますので、comicoの場合も作品およびcomicoのプロモーションになるのなら、外のメディアに載っていても問題ないと思います。
―― わたしはてっきり、自社のプラットフォームにコアなユーザーが集まる仕組みを作るのが重要で、対外的な取り組みはさほど優先度が高くないのかなと思いましたが、そこはケースバイケースであると。では、作品を作るエコシステムという視点で考えたとき、投稿機能はどうでしょう。他のサービスでも投稿を受け付ける仕組みが作られつつありますが、そこでcomicoはどう違いを出せるのでしょう。
稲積 これは、comicoうんぬんではなく、スマートフォン向けのマンガサービスらしいものだなと思います。従来の紙出版ですと、ページ数にも制約があるからこそ出版社が選別していたわけですが、スペースの制約がないからそういう形にできると思いますし、そういう意味では各社さんがやられているのも当然という感じもします。
われわれとしては、やはり大きなトラフィックがあり、これまでノベルを含め200人以上の方々にcomicoを通じてプロの作家としてデビューして頂いていますので、他のプラットフォームよりもデビューしやすい点や、多くの人に見てもらいやすいところを差別化のポイントとして挙げられるのではと考えています。
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