もしもゲーマーが不条理世界に迷い込んだら……? 「ゲーマーあるある」満載の脱出ミステリー「百万畳ラビリンス」虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第53回

第53回は、たかみち先生の「百万畳ラビリンス」をご紹介。ゲーム好きなら思わず「あるある!」と納得してしまう、ちょっと変わった脱出モノです。

» 2015年09月04日 16時30分 公開
[虚構新聞・社主UKねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。今月発売の「スーパーマリオメーカー」で変なステージ作る気満々、虚構新聞の社主UKです。

 さて、今回紹介するマンガはそんな「マリオメーカー」と全く関係ないとも言えなくもなくはないSFミステリー、たかみち先生の「百万畳ラビリンス」(上・下巻/少年画報社)です。

 たかみち先生と言えば、「ゆるゆる」(全3巻/少年画報社)、「りとうのうみ」(ワニマガジン社)に見られるように、ストーリーは日常ほのぼの系、そして青い海と青い空を大きく前面に出した「たかみちブルー」と呼ばれる青の使い方が特徴的な作家さんというイメージが強いのですが、久々の新刊「百万畳ラビリンス」はこれまでとは方向性がガラッと変わったSF作品。しかしながらこれまた一気読みしてしまうほどおもしろかったので「取り上げねば!」と思った次第です。


画像画像 「百万畳ラビリンス」(上・下巻/少年画報社) → 試し読みページ


脱出不能の不条理空間 vs 天才デバッガー

 と、言うわけでまずは簡単にストーリーを紹介。

 行けども行けども和室と畳部屋が延々と続く建物を駆ける2人の足音。ゲーム会社でデバッガーのアルバイトをしている大学生・礼香と庸子は、この謎の建物に閉じ込められてしまいます。内観は住んでいた社宅そっくりだけど構造はむちゃくちゃ、そして外は広大な樹海ばかりが広がる不思議な空間――。

 ここは一体どこなのか、そしてなぜこんな異世界に迷い込んだのか……。知りたいことはたくさんありますが、今の2人にとってまず考えるべきはこの建物の正体を把握すること。タンスや電灯がシュールに配置され、下に落としたボールが上から降ってくるこの不条理世界。普通の人なら頭がおかしくなってしまいそうです。

 しかし、この世界を楽しむ人物が一人。それが礼香でした。

 子どもの頃から人並み外れて旺盛な好奇心の持ち主、それが高じて普通の人が考え付かないような方法でゲームの穴(バグ)を見つけるのが大好きになってしまった残念美人の彼女。「脱出よりここに留まってこの世界の支配者になる」ことを庸子に提案してしまうくらい状況を楽しんでいるようにしか見えないのですが、しかし、この空間では彼女の常識にとらわれない発想と行動力こそが幸いしました。


画像 「バグ探しが得意」という稀有な才能が、この世界ではいかんなく発揮されていくことに

 脱出不可能かと思われたこの世界も、礼香と庸子の協力で次第にその姿が明らかになっていきます。建物を鬱蒼(うっそう)と取り囲む樹海の木々は、1本を傷つけると他の木全ても同じように傷がつく「コピペ」仕様であること、外部との通信が遮断されているにもかかわらず、彼女たちがいる建物から少し離れた別の建物がWi-Fiのアクセスポイントとして登録されていること、そして建物の屋上に不自然に置かれたちゃぶ台から見つかった「これを読んだ方は以下にご連絡ください」というメールアドレス付きの書き置き。

 この異世界の仕組みを理解していると思われる書き置きの主とは、そしてこの不条理世界が作られた目的とは――、というところまでが本作の冒頭です。



「ゲーム的発想」で不条理世界から脱出せよ

 物語はこの後、2人が最初にいた「裏世界」から「表世界」「実世界」にまで舞台が広がるとともに、裏世界を徘徊する「ルームシャーク」「密漁者」という敵も出現。彼女たちは無事元の世界に帰ることができるのか……というのが全体のストーリーなわけですが、たぶんこの用語だけ見ても何を言っているのか訳わからんという人が大半だと思うので、ぜひ作品を読んで確かめてみてください。


画像 平和な世界かと思いきや……

 さて、本作の最大の見どころはやはり礼香の残念美人ぶり……ではなく、その斜め上を行く発想力。

 庸子が外壁を落ちそうになりながら伝い歩くのを見て「残機が1減るだけよ♪」と語りかけ、苦手なチャットも相手を「ちょっと賢いCPUキャラと割りき」ることで克服したゲーム脳の彼女ですが、常識が通用しない空間においてはそのゲーム脳こそが、次々と解決への道を切り開いていきました。

 特に社主がうなったのは「ちゃぶ台」の利用法。この建物内の家具は樹海の木々と同じように全てコピペ的に置かれているのですが、ちゃぶ台の上に置いた物は別の部屋のちゃぶ台の上にも同じように反映される仕組みになっているのです(人間は不可)。

 つまりこの仕組みを利用して重い荷物をどこかのちゃぶ台の上に置いておけば、次の移動先で見つけたちゃぶ台にも同じ荷物がちゃんと置いてあるというわけです。ここまで読んで「おお、礼香賢いな……」と思うのですが、しかし本番はここから。

 では、このちゃぶ台を2つ用意して、ちゃぶ台の上にちゃぶ台を置くとどうなるか?

 これ、どうなると思いますか?

 ちゃぶ台が上方に無限コピーされて天井を突き破ってしまうんです。ちゃぶ台の上に乗せた物体は両方とも同じように反映されるので一番下にあるちゃぶ台から上は鏡写しのように同じちゃぶ台が無限に連なっていくという仕掛け。


画像 ルールの裏をかくのもゲーマーのスキル。このあとものすごいことになります

 彼女たちのいる空間すら貫く、この無限ちゃぶ台タワーの破壊力が敵と戦う武器として見いだされるのですが、無限ちゃぶ台に限らず、礼香が得意とするこの想定外の発想は作中随所に登場していて、感心を超えてもはや溜息すら出るほど。しかも特に頭を悩ませる様子もなく、ナチュラルにやってのけるところからも天性を感じさせます(余談ですが、礼香のように想定外の行動ばかり取るプレイスタイルのためバグに遭遇しやすい「バグ体質」のゲームプレイヤーは実際にもいるそうです)。



常識にとらわれず、そこからはみ出る発想を

 ただし礼香のような才能の持ち主が常識でガチガチに固まったこの社会で生活するのは大変なことでしょう。いわく「与えられた選択肢が最善とは限らないもの/ちゃんと自分で判断したいの」とのことですが、「着衣入浴」「敷布団の下で寝る」など、彼女の行動は傍から見れば奇行以外の何物でもありません。異世界に迷い込んだ原因が「お前の日頃の奇行の積み重ねのせいじゃないか」と庸子にツッコまれるのもさもありなん。

 けれど社主は彼女がするような埒外(らちがい)の発想をこよなく愛しています。常識というのは多くの人にとって生きやすい社会を成り立たせる一方、そこからはみ出る少数の発想を異端として排除する傾向も持ちます。「虚構」という常識と非常識の境目を求められる社主にとって、彼女のような存在はある種あこがれの的でもあるのです。良くも悪くもそういう性分として生まれ育った礼香にとって、真に生きやすい世界とはどのようなものなのか。本作を読み解く一つの視点としてこんなことを考えるのもまた一興でしょう。

 ちょうど本作を読み終えた直後に「マリオメーカー」の動画を見ていた社主は「礼香ならどんなステージ作るだろう」と考えずにはいられませんでした。それはきっと誰も思いつかない奇妙でおもしろいステージに違いありません。いや、ひょっとすると「ステージ」という概念すら彼女にとっては必要ないのかも……。

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。


(c)たかみち/少年画報社


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/14/news019.jpg ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  2. /nl/articles/2412/10/news133.jpg 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  3. /nl/articles/2412/12/news089.jpg フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. /nl/articles/2412/14/news081.jpg 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  5. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  6. /nl/articles/2412/15/news002.jpg 毛糸でフリルをたくさん編んでいくと…… ため息がもれるほどかわいい“まるで天使”なアイテムに「一目惚れしてしまいました」「うちの子に作りたい!」
  7. /nl/articles/2412/14/news038.jpg 「釣れすぎ注意」 消波ブロック際に“カツオを巻いた仕掛け”を落としたら…… 驚きの結果に「これはオモロい!!」「こんなにとは」
  8. /nl/articles/2412/14/news063.jpg 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  9. /nl/articles/2412/14/news002.jpg 【今日の難読漢字】「男衾」←何と読む?
  10. /nl/articles/2412/15/news024.jpg おじいちゃん「昔はモテた」→孫は信じていなかったが…… “今では想像できない”当時の姿が140万再生「映画スターのよう」【米】
先週の総合アクセスTOP10
  1. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  2. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  3. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  4. 高校生のときに付き合い始めた2人→10年後…… 現在の姿に「めっちゃキュンってした」「まるで映画の世界」と1000万表示突破
  5. 大谷翔平の妻・真美子さん、ZARA「8000円ニット」を着用? 「似合ってる」「シンプルで華やか」
  6. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」 投稿者に感想を聞いた
  7. 高校生時代に父と撮った写真を、29年後に再現したら……再生数1000万回超えの反響 さらに2年後の現在は、投稿者に話を聞いた
  8. 散歩中、急にテンションが下がった柴犬→足元を見てみると…… 「そんなことあります?」まさかの原因が860万表示「かわいそうだけどかわいい」
  9. コメダのテイクアウトで油断して“すさまじい量”になってしまった写真があるある 受け取ったその後はどうなったのか聞いた
  10. 「やめてくれ」 会社で使った“伝言メモ”にクレーム→“思わず二度見”の実物が200万表示 「頭に入ってこない」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」