ようこそ地獄へ 鈴丸れいじはなぜ地獄の日常を描くのか

» 2015年09月25日 18時50分 公開
[西尾泰三ねとらぼ]
『地獄恋 DEATH LIFE』書影 地獄恋 DEATH LIFE

 犯した罪の分だけ地獄で責め苦(拷問)を受ける贖罪(しょくざい)ライフを描いた鈴丸れいじさんの『地獄恋 LOVE in the HELL』(全3巻・双葉社)。

 連載終了後しばらくして、Kindleストアなどで1巻を99円(2巻3巻は250円)にしたところ、2014年上半期のKindle本ランキングで「進撃の巨人」「僕だけがいない街」「天地明察」に次ぐ4位になり、完結済みの作品としては異例の動きを見せました。

 その後鈴丸さんは『地獄恋II LOVE in the HELL』をKindle連載で執筆。その単行本が『地獄恋 DEATH LIFE』として9月28日に発売。

 さらに、その続きが11月から漫画アクション【無料連載版】で連載されるという珍しい動きを見せています。そんな鈴丸さんにお話を聞く機会に恵まれました。

地獄へようこそ 地獄恋 DEATH LIFEより ©鈴丸れいじ/双葉社

知ると100倍楽しい「地獄恋」

「こんなときもありました」と鈴丸さん 「こんなときもありました」と鈴丸さん。全然違うイケメンでした 『地獄恋 LOVE in the HELL』3巻あとがきマンガより ©鈴丸れいじ/双葉社

―― 前作の「地獄恋 LOVE in the HELL」はWEBコミックハイ!(現WEBコミックアクション)での連載終了後、2013年末から2014年はじめにかけて電子書店で実施されたキャンペーンで大きく動きましたよね。

鈴丸 当時は人気が出なくて打ち切りだったんですけどね(笑)。連載が始まるときも、コミックハイの編集長にギリギリのところで拾ってもらいましたし。

 電子書籍で(数字が)跳ねたのは、このマンガの読み口が「消費される」コンテンツとしてマッチしたのかなと。こうして連載が終わった後も再度注目される可能性も含め、電子(書籍)のメリットは感じましたね。

―― あれは打ち切りでしたか……。

鈴丸 既存のものとは違った切り口にしたくて、世界観や設定を細かいところまで考え、その中でキャラを立てていく構成はそれなりにうまくいっていると思っていましたが、3巻でおしまいと告げられて。さみしさというより、数字を出せなかったのが悔しかったですね。漫画家って個人事業主なので、結果は全部自分で受け入れなければならない。連載が終わったのも何かが足りなかったんだろうし、自分自身の責任だろうなと。

―― かなり自分の中に抱え込まれた様子です。

鈴丸 ……僕、私生活がむちゃくちゃで。自分の中のバランスが悪いときが結構あって。地獄恋を描いてるときもそうでした。

―― そもそも地獄恋はどんな経緯で生まれたんですか?

鈴丸 僕は講談社からデビューしたんですけど、そこでの連載が終わってから、ちょこちょこ描いていたエログロものを、とある編集プロダクションの編集長が気に入ってくださって、そこが手掛けていた実話誌でそうしたものを描くようになったんです。

 当時は自分が描きたいものを描いていたのだと思うんですが、今見ると訳が分からない。何十人もの関取に押しつぶされて溶けちゃう男の話とか。アングラやサブカルの文脈で受け入れられる部分もあるし、描いてるときはいいんですけど、出版されて世に出ると「何か違うな」っていつも感じてて。それでも、仕事が自分にとって蜘蛛の糸のような感じでしたけど。

 そうした違和感がないものを1本きちんと描いて、出版社に持ち込んだんです。それは純然たるホラーマンガだったんですが、それに助言をいただいたりして生まれたのが地獄恋でした。

―― 何が“違った”んでしょうね。

鈴丸 誰からも認められてなかったことに起因するんじゃないかなと。僕がいつも思うのは、マンガを考えるのは自分だけど、マンガを作ってるのは自分だけじゃない。担当者がいて、出版社がいてモノになる。みんなで作り上げたものが一定の評価を受けることで自分の中の承認欲求のようなものが満たされていくというか。

―― 作品やキャラに自身が投影されている部分が多そうですね。

鈴丸 多かれ少なかれそういうものだと思いますが、僕は明らかにそうですね。前作に登場するりんたろうにしても、どうしても自分の過去の経験などが入ってきて若干クズっぽい主人公が出来上がったり(笑)。

「地獄の日常」「面白みがあって泥臭い感じのスプラッター表現」を描きたい

―― 地獄恋では何を一番描きたいと思っていますか?

鈴丸 日常、ですね。いわゆる仏教的な六道の最下層である地獄という世界。そこで普段の生活が構築されているとしたら、それはどんなものなのか。地獄での日常を描きたいなと。

―― 日常ですか。てっきりエロやグロなのかと。

「内臓を描きたいというか、部位をはっきり描きたい、というのはあります。腹を開けたらちゃんとある、みたいな」(鈴丸れいじ) 地獄恋 DEATH LIFEより ©鈴丸れいじ/双葉社

鈴丸 “面白みがあって泥臭い感じのスプラッター表現”は描きたいと思っています。エロは、ホラーには欠かせないから自然に出てくるものというか。

 僕は70年代から90年代のホラーやスプラッター映画を見て育った人間ですが、あのころの、(スプラッター表現を)見せたくてしょうがない! みたいなのが伝わってくる職人気質のある表現が好き。今は、そういう表現がスタイリッシュになって、さらっと読めるから、目にとまりにくいなと思っていて。

―― そのころの作品で影響を受けたものはありますか?

鈴丸 例えば『ヘル・レイザー』。当時は映画館で1日中見ていたこともありました。セノバイト(魔道士)が着てるボンテージはどれもすごくかっこよくて。

いつかピンヘッドみたいなのも登場する? 地獄恋 DEATH LIFEより ©鈴丸れいじ/双葉社

―― そういわれると確かに地獄恋にもその影響が見て取れますよね。

 2015年3月からKindle連載で連載された『地獄恋II LOVE in the HELL』が今回紙のコミックスになるのも興味深いのですが、タイトルが『地獄恋 DEATH LIFE』に変更されているのは、先ほどの「日常を描きたい」という思いの表れなんですね。

鈴丸 そうですね。前作でやらなければならなかったのに抜け落ちてしまっていたものは本作でふんだんに入れています。

―― 前作で抜け落ちていたものとは?

鈴丸 1つはキャラのバリエーション。1作目はりんたろうとこより、たまに桃音、という感じでしたが、今回は最初からキャラをバンバン出してます。

 そうすることでそれぞれのキャラクターに関する広がりが出て、読者もキャラの取捨選択ができる。ヘル・レイザーでもセノバイトが何人もいてそれぞれ味わい深いのですが、あの感覚。見た目の面白さとそれぞれのエピソードをしっかり描きたいですね。

 もう1つはテーマ。前作のそれはりんたろうに対する救済。こよりは母性の象徴で、その母性に触れながらりんたろうが自分の罪に気付いてそれを浄化していく。対して本作はここでは控えますが、それとは違うテーマで描いています。

 担当編集のK澤さんと打ち合わせでよく言っているのは、「死んだ後の方が生を実感する」ということ。ここは深く掘り下げたいですね。

―― 日常は死んで終わりではない、むしろ、死んだ後の方が生を実感する、といったところですか。そういえば余談ですが、本作と前作の冒頭は似た展開ですよね。

鈴丸 人が死んで、さんずの川を渡って、閻魔(えんま)大王に裁かれる、という誰であっても変わらない様式美のようなものが地獄のイメージとしてありますよね。それを表現したくて。

―― 手抜きと思ってしまった自分を殴りたい(笑)。鈴丸れいじは「地獄恋 DEATH LIFE」でベストを尽くそうとしているんですね。11月からはKindle連載の漫画アクションでこの続きが連載されるとあります。

鈴丸 ええ。こうして地獄恋の続編を描けたのも、電子書籍で買ってくれた人の下支えがあったから。買ってくれた方には感謝しているし、いかに裏切らずに楽しいものを描けるか。報いたい!



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/14/news019.jpg ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  2. /nl/articles/2412/10/news133.jpg 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  3. /nl/articles/2412/12/news089.jpg フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. /nl/articles/2412/14/news081.jpg 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  5. /nl/articles/2412/15/news031.jpg ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  6. /nl/articles/2412/15/news002.jpg 毛糸でフリルをたくさん編んでいくと…… ため息がもれるほどかわいい“まるで天使”なアイテムに「一目惚れしてしまいました」「うちの子に作りたい!」
  7. /nl/articles/2412/14/news038.jpg 「釣れすぎ注意」 消波ブロック際に“カツオを巻いた仕掛け”を落としたら…… 驚きの結果に「これはオモロい!!」「こんなにとは」
  8. /nl/articles/2412/14/news063.jpg 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  9. /nl/articles/2412/14/news002.jpg 【今日の難読漢字】「男衾」←何と読む?
  10. /nl/articles/2412/15/news024.jpg おじいちゃん「昔はモテた」→孫は信じていなかったが…… “今では想像できない”当時の姿が140万再生「映画スターのよう」【米】
先週の総合アクセスTOP10
  1. イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
  2. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  3. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  4. 高校生のときに付き合い始めた2人→10年後…… 現在の姿に「めっちゃキュンってした」「まるで映画の世界」と1000万表示突破
  5. 大谷翔平の妻・真美子さん、ZARA「8000円ニット」を着用? 「似合ってる」「シンプルで華やか」
  6. 新幹線で「高級ウイスキー」を注文→“予想外のサイズ”に仰天 「むしろすげえ」「家に飾りたい」 投稿者に感想を聞いた
  7. 高校生時代に父と撮った写真を、29年後に再現したら……再生数1000万回超えの反響 さらに2年後の現在は、投稿者に話を聞いた
  8. 散歩中、急にテンションが下がった柴犬→足元を見てみると…… 「そんなことあります?」まさかの原因が860万表示「かわいそうだけどかわいい」
  9. コメダのテイクアウトで油断して“すさまじい量”になってしまった写真があるある 受け取ったその後はどうなったのか聞いた
  10. 「やめてくれ」 会社で使った“伝言メモ”にクレーム→“思わず二度見”の実物が200万表示 「頭に入ってこない」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」