ディズニープリンセスは主役なのに脇役男性よりせりふ少ない 米言語学者のディズニー映画研究が話題に

主役でも、男性脇役よりせりふが少ないプリンセスは、回りから外見を褒められてばかり?

» 2016年02月06日 12時15分 公開
[Glycineねとらぼ]

 「リトル・マーメイド」「アラジン」「ポカホンタス」などディズニーの「お姫さま映画」では、プリンセスは外見を褒められるばかりで、主役なのにせりふは男性キャラの3分の1、という興味深い研究結果がアメリカ言語学会で発表されました。

リトル・マーメイドアラジン 画像はAmazonより

カルメン・フォート教授 カルメン・フォート教授(画像は本人提供)。ご多忙の中、親切に取材に応じていただき、貴重な研究資料を提供くださったことに感謝します

 これは、カリフォルニア州ピッツァー大学の言語学教授カルメン・フォートさんと、ノースカロライナ州立大学大学院教育助手カレン・エイゼンハウアーさんの共同研究「ディズニープリンセス映画におけるジェンダー化された賛辞の量的分析」で明らかにされたもの。

 世界中の子供たちのジェンダーアイデンティティーの形成に影響を及ぼすディズニー映画の本質に迫る発見だと欧米のメディアでも報道され、反響を呼んでいます。

 ねとらぼ編集部では、フォート教授にコンタクトを取り、研究の意図などを聞きました。


―― なぜ、ディズニー映画のキャラの会話を研究対象にしようと着想されたのですか?

フォート ディズニープリンセスに関する分析では、ロールモデルの善悪を取り上げたものなどがあるのですが、どの方法も科学的分析とはいえないように感じました。だから、言語学の科学を用い、新たな視点を与えることができるか検証したいと思ったのです。

―― 今回発表された研究では、どのような方法を用いましたか?

フォート 今回の研究では、まず、公式のディズニープリンセス映画を対象とし、それぞれの作品を時系列で「クラシック」「ルネサンス」「ニューエイジ」の3つに分類しました。

作品をクラシック、ルネサンス、ニューエイジの3つの時系列で分類 作品をクラシック、ルネサンス、ニューエイジの3つの時系列で分類

 その後、各作品に登場するキャラを脚本から男女別にカウントし、一行でもせりふがある、あるいは劇中歌の一節でも歌っているキャラをカウント(バックコーラス除く)することで、性別ごとの発言比率を算出しました。また合わせて、賛辞(お世辞)などのように、その発言がどんな性質のものなのかにも着目しました。

Character Counts for Disney Princess Films ほとんどの作品で、男性キャラの数が女性キャラを大きく上回っているのが一目で分かります

―― 研究の結果から、どのような構造を見いだせましたか?

フォート 「シンデレラ」を除くディズニープリンセス映画では、男性キャラが圧倒的に作品を支配していました。クラシック時代では、女性キャラは男性キャラと同等もしくはそれ以上のせりふがありますが、ルネサンス時代では、男性キャラのせりふが全女性キャラの少なくとも2倍以上。例えば「アラジン」では、男性キャラのせりふが上映時間の90%を占めています。

 ニューエイジ時代になると再び拮抗(きっこう)してきますが、「プリンセスと魔法のキス」「アナと雪の女王」では、やはり男性キャラの方がおしゃべりです。「塔の上のラプンツェル」は同程度、「メリダとおそろしの森」でやっと女性キャラのせりふが男性キャラのそれを上回ります。

Renaissance Era:Male vs. Female Speech 90年代のディズニー映画の男性キャラのせりふは、確かに圧倒的

―― 研究の目的と、今後の展望を教えてください。

フォート 極めて人気の高い映画作品から、少年少女がどんなメッセージを受け取っているのかを示し、これらの作品にジェンダー表現の不均衡があることを警告することです。現在は、賛辞以外の性質を持つ言説、例えば「命令」や「侮辱」の機能分析や、対象をピクサー映画に拡大しながら研究を進めているところです。

Results: Appearance vs. Skill 女性キャラに向けられる賛辞は、最近までは能力より外見、対して男性キャラは30年来スキルが褒めたたえられている

Results: Men vs. Women 男女で比較すると明らか。時代は移り変わっても、女は外見へのお世辞で生きる存在?

―― 日本のアニメ映画にも同様の研究を期待したいところですが、日本のアニメ映画でお気に入りの作品などはありますか?

フォート 宮崎(駿)! 特に「千と千尋の神隠し」。彼の一連の作品は、アメリカのアニメよりもずっと複雑で興味深いです。

 脇役キャラに非標準的な方言をしゃべらせて笑いものにするアメリカ映画とは違い、宮崎作品での悪役は、ほとんどがモンスターで、いかなるグループの人々も見下したりしていないように感じます。日本のアニメ映画におけるジェンダーを観察することにも大変魅力を感じていますので、ゼミ生とともに、日本のアニメの研究に挑戦するかもしれません。きっと相当な違いがあるでしょうね。

 全体的に善悪の概念は、アメリカ人によってあまりにも単純化されていると思います。「火垂るの墓」のような映画は、アメリカ人には絶対にウケないでしょうね。


 日米のアニメ映画におけるジェンダー意識の比較研究が実現されれば、興味深い現実が見えてくるのではないでしょうか。

記事中の資料画像はフォート教授提供の「A Quantitative Analysis of Gendered Compliments in Disney Princess Films」より


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