伝説の漫画「MMR マガジンミステリー調査班」はこうして作られていた タナカ・イケダ・トマル隊員が語る「MMR」制作の裏側(前編)(2/3 ページ)
福岡のミステリーサークルは、実は青森だった!
―― 「MMR」のスタートは、90年代のUFOブームが背景にあったわけですよね。
タナカ そうですね、当時は矢追純一さんのUFO番組が人気でして。それでキバヤシがUFO特集の読み切りをやったところ、読者の反響がものすごく良かったので、シリーズものにする企画が通って。読み切りのときのメンバーはいったん抜けて、編集会議で募集をかけたとき、私も興味ありましたので参加させてくださいと立候補しました。それで(キバヤシ、ナワヤ、タナカの)3人で始まることになったんです。
―― 読み切りの時点で、読者の反響は圧倒的だったんですか。
タナカ 私の入社前のことですけど、電話が鳴りっぱなしだったそうです。「うちの地元にUFO見に来てください」という手紙も来て、確かな手応えがあったと。それでUFOや超常現象を中心に始まったんですが、連載で毎週やるにはネタ的に厳しいということで、年3〜4回のシリーズものに決まりました。
―― もともとタナカさんはオカルト的なものがお好きだったんですか?
タナカ ええ、大学は考古学を専攻していましたので。専門書を探していると、よく隣にちょっとトンデモな本が置いてあるんですよね(笑)、それも一緒に買うと。「古代に核戦争があった」とか「飛行機みたいな遺物があった」とか言うので、ええっ? と思って。実際、今でも意味不明な、オカルト的なものが発掘されていますよ。
―― 「MMR」といえばノストラダムスが人気キャラですが、漫画では第3話でタナカさんが最初に持ち込んだことになってましたね。
タナカ ファミレスで打ち合わせをしてたんですけど、毎回ネタに困ったんですよね。次どうしようかという中で、ちょうど五島勉(※)のブームがありましたので、じゃあノストラダムスを取り上げてみようかと。それで実際に資料を集めて、自分たちで解釈してみて漫画を作ったところ、初めて人気投票の1位を取りまして。これは行けるぞということで、それからはノストラダムス推しになったんですね。
―― みなさん編集者として漫画を担当されてましたが、その合間をぬって各地に取材に行かれたんですよね。
タナカ いちばん最初に行ったのは福岡県のミステリーサークルですね、漫画では青森ということにしてあるんですけど。朝会社に行ったら、スポーツ新聞を持った編集長がやってきて。ミステリーサークルが現れたぞ、今から行けということで、そのまま飛行機で行きましたね。あのときは日帰り出張で、予約もしてなかったので、便を手配するのも大変でした。
―― 週刊漫画誌の編集者さんが、ニュースを聞いて飛んでいったという。
タナカ 現地に着いたのが夕方ぐらいで、報道陣がたくさんいましたね。ちょうど他のメディアの方が取材を終えたところだったので、ちょこちょこ中に入っていって、稲の倒れ方がこんなふうになっている、とか真面目に取材をしながら。
―― 漫画では読者が手紙で教えてくれて、現地でミステリーサークルを調べていたら農家の人に追い出されたことになってましたね。
タナカ 現地の人が怒ったとかはなくて、あれは脚色ですね。その後にキャトルミューティレーションにもつなげたかったので、福岡という場所は出さなかったんです。
―― キャトルミューティレーションの写真は、実際に撮ってきたものなんですか?
タナカ あれは違いますね、写真をお借りしてきたんです。あれは見たらギョッとしましたね。あくまで「事実を元にしたフィクション」なんです。
写真を入れると本物っぽくなる
―― 「MMR」では学者や識者にも取材をしていましたが、いまネットで名前を検索しても見つからないんですよね。あの学者さんたちは実在されたんですか?
イケダ 話によって実際に取材した場合もありますが、少ないですね。どちらかと言うと、モデルとなる人がいらっしゃったと。ある分野を調べていくうちに、それに関する記事や論文、本とかを見つける。でも、本当の学者さんは真面目なことしか言ってないので、最後にちょっと付け加えたり、それを拡大解釈したら、という感じで膨らませるという。なんとなくモデルの方は決めて、キャラクターを作っている場合が多いですね。
―― 最初は量子論やマトモなことを言ってたのに、いきなり「幽子」とか言い出して、この人クビにならないかと心配になりました。
イケダ そういったときにいろんな問題が出てくるので、実名はボカしておく場合もありましたね。
―― 「MMR」は、実は基礎となるロジックがしっかり固められてますよね。地球温暖化にしても量子論にしても途中までは正しくて、そこから斜め上に飛躍するという。
イケダ 論文を読みこんだり、インターネットがなかったころはパソコン通信を使ったり、資料室に行って探したりして、なるべく学者さんが言ってる論理はお借りしてましたね。それで、読んだ感じは本物っぽくなる。実際に取材してOKだった方は、そのまま名前や写真を載せてます。多いのは霊能力者の方ですね、宜保愛子さん(2巻に登場)とか、占星術師の鏡リュウジさん(6巻)とか。
タナカ そういう写真は活版にすると見にくいんですが、結構やってましたね。ピンぼけな感じが、また怖いという。
―― キバヤシさんご本人の写真も出てましたね。前田和慧さん(霊感があるという尼僧。第5巻に登場)の写真も黒目が怖くて、トラウマになりました……。
トマル あの写真は僕が撮ったんです。あの辺りから、僕も入ってまして。
タナカ 風水ブームのころに風水取り上げたことあるけど、バラエティ色が強くなっちゃって。
イケダ 怪しさよりもそっちに行っちゃって、ちょっと違う感じだったかもしれないですね。
―― 心霊特集のおかげで、宜保愛子さんの姿が「MMR」に残ったのも貴重ですね。
イケダ 後々キバヤシさんが、宜保愛子さんが一番本物っぽかったとよく言ってましたね。あの人は本物じゃないかと。他の人が全部怪しいってわけじゃありませんが、一番その雰囲気はありました。「MMR」ではないですけど、除霊能力があるという寺の住職さんにも取材しましたね。
タナカ あれは「週刊少年マガジン」のグラビア企画にしようとしてたんですよ、12ページぶち抜きで。それで取材に行ったのですが、編集長はクッキリと霊が写っている写真を期待していたらしく、何だこれはと怒られて、12ページが3ページに減らされちゃった。ビジュアル的に映えなかったんですね。
―― それでも写真の使い方が上手かったですよね。文章を読んで、本当かな? と思ったタイミングで写真が出てきて、本当なんだ! と。
タナカ そうですね、狙ってやってました。
―― ナワヤさんがスナックの階段から落ちて入院したとき(第3巻)も、スナックの看板や階段の写真が載ってましたよね。あの事故は本当に起こったんですか?
タナカ 本当に、酔っ払って落ちてますね。
イケダ あの事故、大変だったんですよ。ちょうど私が「MMR」に入る直前ぐらいで、頭蓋骨にヒビ入っちゃったと言ってましたね。あれは中野にあるお店です。私もナワヤさんに連れて行ってもらったとき「ここで落っこちちゃったんだよな」とか言ってたから。
―― よくそれをネタに盛り込みましたね。
トマル そこはキバヤシさんの貪欲さなんですよ。
イケダ そこに本物が入ってるじゃないですか。なんとなく、全体も本物っぽくなるのが上手いんですよね。
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