本屋=楽な仕事だと思ってませんか? 寝言はこの「ガイコツ書店員本田さん」を読んでから言え!!!:虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!第67回
本屋という仕事についてあなたはどれくらい知っていますか?
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
最近テレビドラマと言えば「真田丸」くらいしか見ていなかった社主ですが、今期放送中の「重版出来!」(TBS系)は、すごくおもしろいです。 松田奈緒子先生による同題マンガのドラマ化で、マンガ雑誌編集者の仕事やマンガ家との関係など、我々があまり知らない「マンガができるまで」を描いた良作なので、まだ見たことのない方は原作ともどもぜひご覧ください。
「重版出来!」を見るにつけ、「おもしろいマンガを作るのって大変なんだな……」と、マンガ好きとしてしみじみ、出版社とマンガ家さんには足を向けて寝られぬ気持ちになるのですが、それに加えて最近、さらに足を向けて寝られない方面が増えました。それは本屋さんです。
そんな気持ちになったのは、今回紹介する本田先生の実録マンガ「ガイコツ書店員本田さん」(〜1巻、以下続刊/KADOKAWA)を読んだから。「月刊コミックジーン」がpixivで展開する「ジーンピクシブ」にて連載中の本作、自画像はガイコツ、書店員でもある作者・本田さんがコミック売り場のリアルを描いておられます。マンガ家と読者をつなぐ「ラスト1マイル」の現場を知るにつけ、「もうこれはL字で寝るか、立って寝るしかないな」と。
「銀●」のR18同人誌(触手もの)を探して
さて、そんなコミック売り場を舞台に展開する本作のリアルエピソードの中で、特に興味深いのは外国人客とのやりとり。
「くしくもジャパニーズ・マンガは名産品として世界にその信頼性を轟かせ(後略)」「なのでこのご時世 漫画売り場は人種のサラダボウルと言えなくもない」のだそうで、第1話にも早速娘に頼まれたジャパニーズ・マンガを探しにやってきた西洋系イケメンおじさまが登場します。
お目当ての作品が表示されたスマホを手に、どれほどの書店を尋ね回ったのか、疲れた表情のイケメンおじさま。その果てにたどり着いた本田さんに見せた画像は「銀●」のR18同人誌(触手もの)!
触手がからんだ表紙画像をにこやかに掲げるこの紳士に、一般の書店に「薄い本」は置いていないこと、おじさまの娘に18禁作品はアウトであること等々、まず日本の出版事情からご説明して差し上げないとならない(しかも英語で)という、この「難易度:ナイトメア」な状況は察するに余りあります。「ていうか娘おまえええ」という、本田さんの心の叫びもさもありなん。
この後もコミック売り場には、国籍や人種を超えてBLコーナーで堂々と「攻め/受け」について語り合うヤオイガールズ、棚一列まるまる全巻買いしていくアジア系爆買い団体客など、ワールドワイドなお客様が次々押し寄せます。そしてこれら面白くも心温まる(?)エピソードの中にも、彼らをひきつけてやまないジャパニーズ・マンガの強い影響力を感じずにはいられません。
「漫画迷子」との戦い
社主は書店員でないですが、読んでいて「これはきついな……」と共感せずにいられなかったのは、マンガは読みたいけれど何を読んでいいのか分からない「漫画迷子」なお客さん。社主もこの連載がきっかけでマンガ好きであることが知られた結果、「今おすすめのマンガって何ですか?」と聞かれることがあるのですが、この質問に答えるのは本当に難しい。
そもそも「格闘好き」「恋愛好き」「ギャグ好き」「日常系好き」など、相手の好みや傾向が分からないことには、何をおすすめしていいのやら皆目見当が付きません。で、そんな手探りから何とか知恵を絞り出し、好きなマンガをいくつか紹介した後日「この前の××、どうだった?」と尋ねて、「んー、まあまあ」と返ってきたときのあの無力感……!
本田さんは、そんな漫画迷子たち、しかも外国人の漫画迷子たちと日々戦っているのだから、本当にすごいとしか言いようがありません。相手と雑談しながら少しずつヒントを得て、その嗜好を絞っていくのは基本ですが、特に感心したのは、好みのジャンルだけでなく、「漢字にふりがなが振ってあるかどうか」もひとつの目安になっているということ。いくらマンガ好きとは言え、外国人にとってふりがな無しの漢字を読むのはやはり難しいようで、こういう何気ないところに普段から外国人の接客をしているリアルな経験がすっと表れてくるのが本作のおもしろさでもあります。
書店員という仕事への愛
外国人の無茶振り、毎日押し寄せる新刊の準備と補充と残業、出版社営業とのつばぜり合い、笑顔絶やせぬ接客など、本作のエピソードをこうして活字で羅列してしまうと、書店員という職業はただひたすらにきつい仕事でしかないように見えます。
しかしそんな修羅場でさえ楽しく読めてしまうのは、書店員という仕事への愛が筆致の奥からにじみ出ているからです。こういう書店員さん一人一人の血ヘドの上に、社主の日々のマンガ生活が成り立っているわけでもあり、その点においては本当に感謝せずにはいられません。作品世界の神であるマンガ家さんは言うまでもなく、その才能を商品として落とし込む編集さん、そしてそれを我々の手元まで届けてくれる書店員さんにもそれぞれ敬礼しつつ、今日はこれにて筆を置きます。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
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