日本アニメの創成期を知る大ベテラン 「カールおじさん」の生みの親・ひこねのりおさんに聞くアニメ業界秘話【PR】(3/3 ページ)
宮崎駿監督と交流のあった東映動画時代
―― ひこね先生は東京藝術大学を卒業されてから、東映動画に入社されましたよね。やはり「白蛇伝」(日本最初のカラー長編アニメ)に感動されたからでしょうか?
ひこね 「白蛇伝」を見たときはすごくショックだったし、日本でもこういうことができるんだって。日本で長編アニメをやる会社がないだろうなと思っていたところに、東映がやってくれた。アニメにも可能性があるなと思って、入社しましたね。
―― 東映動画に同期で入社された方には、どんな人がおられましたか。
ひこね 同期というと小田部羊一(「アルプスの少女ハイジ」のキャラクターデザイナー。後に任天堂で活躍)君ぐらいかな。あとアニメーターじゃないけど、高畑勲(「火垂るの墓」や「かぐや姫の物語」などのアニメ監督)さんが同期ですよ。後から宮崎(駿)さんが入ってきてね。
―― 宮崎駿さんとはご交流はありました?
ひこね 宮さんは僕より4年後に入ってきた人で、僕は6年いましたから、東映では2年間しか一緒にいなかったんですね。僕が「わんわん忠臣蔵」の原画をやっていたときは、宮さんは他の作品をやっていたと思います。「ガリバーの宇宙旅行」だったかな? 最初は全員で1本を作っていたのが、ある時期から2本体制になっていたから、同じ作品をやったという記憶はないんです。ただ宮さんは組合運動やってましたから、組合事務所でよく話したりはしてました。一方的に彼がしゃべっているのを聞いている感じだったけど、とても楽しかったですね。
―― 当時の東映動画ってどんな雰囲気でしたか?
ひこね 熱気はありましたね。そもそも、当時は絵の学校を出ても就職先があまりなかったからね。学校の先生になるか、あとはお役所に入ったりとか。東映動画でも、アニメーションというものが何だか分からないで入った人も多かったですね。だから、今と全然違います。
―― その当時「こんなアニメを作りたい」といった野心はありました?
ひこね いつか自分のキャラクターを動かせる作品をやりたいとは思っていました。キャラクター作りは好きでしたしね。
―― はじめてご自身のキャラが動いた作品は何でしょうか。
ひこね カメラのCMでした。東映を出て、フリーになってからのことです。海外向けだったから、日本じゃ放送されなかったんですけど夢中になって作りましたよ。やっぱり楽しかったですね。
「ジャングル大帝」からひこねスタジオ設立まで
―― その後、東映動画から虫プロ(手塚治虫が設立したアニメ制作プロダクション)に移籍されたんですね。
ひこね そのとき東映が沈滞していて、戸惑っていたんですよね。虫プロが「鉄腕アトム」(日本最初の連続テレビアニメシリーズ)を作り出して、東映が後手後手に回っちゃったから、落ち着かない時期があって。で、たまたま友達の勝井(千賀雄氏。やはり東映動画出身)さんが虫プロで「ジャングル大帝」の作画チーフをやっていまして、見学に誘われて行ってみたら、すごく楽しそうだったんです。ちょうど、先日亡くなられた冨田勲さんの曲の流れるオープニングを作っているところで熱気があった。そのとき、誰か東映のアニメーターで来てくれる人いないかと言ってたので、じゃあ俺が行くよと。
―― 虫プロもテレビアニメの仕事を増やし始めて、人手が足りない時期だったと。
ひこね そうですね。あまり考えなしで移籍を決めてしまった。宮崎さんの本にも「ひこねさんはせっかちだ」と書かれてましたね。「ジャングル大帝」も一年しかやってないんですよ、飽きちゃったから(笑)。
―― 東映動画と虫プロって、作画の傾向が違いましたよね。当時の東映は動画枚数をけっこうかけていましたが、虫プロはなるべく節約するという方向性の違いがあって。
ひこね やっぱりテレビと劇場の違いで、制作スケジュールが関係してくるんです。ずっと(東映動画の)劇場で来て(虫プロの)テレビに切り替えるにあたって、柔軟性のある人とない人でずいぶん差があったと思いますね。
―― そして虫プロ独立後、ご自身の「ひこねスタジオ」を設立されたわけですね。
ひこね まあ成り行きでそうなっちゃったので、深く考えてなかったですね。フリーでやっていると仕事なくなっちゃう時期もありまして、幼児雑誌のイラスト描いたりしましたが、それも楽しかった。飽きっぽい性格だから、いろいろやれてよかったですね。
―― CMの発注が来たのは、会社の方がひこね先生の作品に注目されていたからですか?
ひこね そこの社長が友達だったりとかね、藝大時代のコネですよ。でも「みんなのうた」を最初にやったのは、高校の友達が縁だったかな。学校時代は話したことなかったんだけど、あるパーティーで出会ったら「お前何やってるの」「アニメーターやってる」という話になって、じゃあ「みんなのうた」をやってよと。その友達が「みんなのうた」のプロデューサーだったんです。
―― すごい偶然ですね! それで短編やCMを手がけているうちに、自分の行くべき道はここだと固まっていったと。
ひこね 行くべき道かどうかはいまだに分からない。人との出会いにしても自分は運がよかったからここまでやってこれたわけで。いい加減さがウリなんです。
タヌキとブタに名前がついたワケ
―― 今まで手がけたキャラクターの中で、一番うまくできたと思えるものは?
ひこね うまくできたかは分からないですけど、一番好きなのはカールおじさん。あれは自然にできたから、愛着がありますね。自分が出ているというか。
―― 「きのこの山 たけのこの里」のタヌキやブタは、どういうイメージで作られたんでしょう?
ひこね あんまり考えないで描いたわけです。机の上で考え過ぎると、理屈っぽいキャラクターになっちゃうので。別に本物のタヌキを見て研究しようとか、ブタだったらこんな動きをするだろうとかは考えないで、自分の中にあるタヌキとブタをそのまま描いたんですね。
―― 他のキャラクターたちも、ご自分の中にあるイメージから自然に作っていくんですか?
ひこね それが多いですね。ただ、聞いたこともない動物なんかだと図鑑に当たって、どういうものかは見ておきます。でもペンギンやタコとか知ってるものは、もうイメージだけですね。タコの本物を見てもオロオロしちゃうだけですから。
―― 31年前のCMでは、なぜブタとかタヌキが抜擢(ばってき)されたんですか?
ひこね この世界には、ブタとタヌキが合ってると思ったからでしょうね。でも結局、ブタはクビになりましたよ(笑)。清潔感がないってことで、猿になったんですね。
―― 一度は消えたブタが31年ぶりに復活したのは、どう思われますか?
ひこね うれしいですよね。
―― 31年前はタヌキがドジをして終わってましたが、新作では対等ですね。
ひこね 2人とも間抜けなんだけど、タヌキのほうがブタよりも少し間抜けなのね。ちなみにこの2人には、最初は名前がなかったんです。その後にイノシシを出したんだけど、そのときにイノシシの子だから「うり坊」って名前をつけて、じゃあブタは「ぶた坊」でタヌキは「たぬ坊」だろうと。
アニメの楽しさは「虚構の世界で遊べる」こと
―― 今後、こういうことに挑戦したいという抱負はありますか?
ひこね もう十数年前から、年寄り仲間のチームで自分たちで課題を出して、お金にならない作品作りをやってます。例えば、「まず穴があってそれから何をやるか」というお題で、みんなそれぞれ考えてくるんです。共通の穴はこういう穴だと決めておいて、最初の人が穴で始まり穴で終わる作品を作る。次の人もまた穴から始まるみたいな感じです。
―― アニメでしりとりをするという。
ひこね そうですね。参加している10人がみんなスタイルが違うんですよ、CGの人もいるし。さっき言った龍角散の古川タクさんも一員ですね。
―― それはぜひとも拝見したいですね。
ひこね 2年に1本ぐらいのペースでやっていて、今6本目をやってるんです。賞も取ったんですが、作品を発表する場がなかなかない。地方のイベントなどでは公開してるんですよ。
―― 今回の「きのこの山 たけのこの里」CMのようにWebで公開されたらうれしいですよね。
ひこね まだWeb関係のことはよく分からないですが、ネットでキャラクター展開をできるチャンスができたら楽しいなと思いますね。例えば明治さんでアニメーションのコンクールをやるとかね、素人さんも参加して。今は昔と違って、1人でもアニメを作れるし、発表したい人がいっぱいいると思うんです。明治さんは「鉄腕アトム」のスポンサーになって、マーブルチョコに「アトム」のシールを入れたこともある開拓者ですから。
―― 明治さんが企画を立ち上げたら盛り上がりそうですよね。
ひこね 例えば「マーブルチョコ」という課題を出したら、CGを使ったアニメとか、実際にマーブルチョコをコマ撮りで動かしてやる作品とか、色んな形で作品が出てくるんじゃないかな。今の学生さんって小難しいアートアニメは多いんですが、エンターテイメントで楽しくやる作品ってあんまりないので、そっちのほうを開拓して行けたらいいなと。
―― 最後にひこねさんにとってアニメとは何でしょうか?
ひこね やっぱり「虚構の世界で遊べる」ということですね。面白いものでも怖いものでも、見たことがない虚構の世界ができるのが実写にはない良さです。その人なりのイメージで作品ができるのが一番楽しいですね。
キャンペーン情報
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提供:株式会社明治
アイティメディア営業企画/制作:ねとらぼ編集部/掲載内容有効期限:2016年7月3日
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