「映画とは人生そのもの」 映画フリーク永井豪、漫画との関係性や“文化”としての創作を語りまくる
「映画は最も漫画に近いというか、“映像で伝える”というところが近いと思うんです」。
5月某日、7月4日23時から放送予定のムービープラス「この映画が観たい#34 〜永井豪のオールタイム・ベスト〜」の収録が都内で行われました。
タイトルにも含まれている通り、漫画家・永井豪さんが出演する同番組。自身の人生における映画の影響・付き合い方、お気に入りの映画についてたっぷりと語ってもらうという内容です。
永井さんは「(最近は忙しくて)劇場に行けるのは週に1回ぐらいしかないのが残念」と言うほどの映画好き。幼少期より映画というものに深く接し続け、「映画とは人生そのもの」でありその影響は自身の漫画作品におけるさまざまな部分に現れていると断言。
同番組内では自身の人生で最も重要な5編として、1960年代の傑作SF「未知空間の恐怖 光る眼」(1960年)、黒澤明監督の「用心棒」(1961年)、狂気に満ちたジャック・ニコルソンのビジュアルが有名なスタンリー・キューブリック監督「シャイニング」(1980年)、衝撃的なビジュアルで人間とは何かを問うデヴィッド・リンチ監督「エレファント・マン」(1980年)、最新作「怒りのデス・ロード」が大ヒットしたジョージ・ミラー監督「マッドマックス」シリーズをあげています。
収録終了後、永井さんにインタビューする機会を得ました。映画と漫画の関係性や、受け継がれていく“文化”としての創作物の在り方についてなど、興味深いお話をどうぞ。
「映画を見ないという選択肢はあり得ない」
―― 今回の収録で、「映画とは人生そのもの」というお話がありました。映画からの影響とは、永井さんの作品では具体的にどのような形で現れていますか?
永井 僕、毎日浴びるように映画を見ていて(笑)。自分で振り返ってみても何の影響でそれを描いたのか分からないようなものが多いです。多量摂取した映画を一度自分の中でごちゃごちゃにかき混ぜて、次に“自分”というフィルタを通して、そこから永井豪オリジナルの作品が生まれるんだろうなと。ですから、僕が作品を描き続ける以上は映画を見ないという選択肢はあり得ないというか。
―― 創作物には映画以外にも小説や絵画などさまざまなプラットフォームがありますが、永井さんが受け取った映画ならではの影響とは?
永井 映画は最も漫画に近いというか、“映像で伝える”ところが近いと思うんです。漫画には音響がつきませんが、“人の行動を演出する”のは共通していて。戦後、手塚治虫先生が映画の影響で漫画を描き始めて、手塚先生の影響で漫画家はみな育っていますから、だから映画と漫画は親戚みたいなものだと思うんですよね。
―― 永井さんが漫画を描かれる際、ビジュアルは実写映画風の映像でイメージされているのですか。
永井 イメージするときは実写ですね。漫画を描く前に、映画のフィルムみたいにばーっと頭の中で映像が動いていくような感覚があります。そのシーンをどう変換したら一番迫力の出る漫画表現になるかなって“翻訳”しながら描いているような具合です。漫画を描くときは作品の中にのめり込む自分と、それをクールに客観視している自分の2人が常に存在しますね。
―― 収録であげた5編はどれもバイオレンスだったり、ホラーのテイストが強い作品。やはりそういったジャンルの映画を多く見られると。
永井 いや、何でも見ますね。本当に(笑)。スポーツもの、恋愛もの……。最近感動したのは「6才のボクが、大人になるまで。」という作品。どんなジャンルでも、“面白い視点”があれば何でも見ますね。
―― “面白い視点”というのは、具体的にどのようなもの?
永井 「監督が描きたいもの、見せたいものは何なのか?」を感じながら見るということですかね。監督の持つ作品に対する思い入れとかいろいろ、「映画はこうあるべきだ」という考えとか。そういうものをできるだけキャッチしようと思っています。
―― ちなみに、映画は月何本ぐらいご覧になるのですか。
永井 (最近は忙しくて)劇場に行けるのは週に1回ぐらいしかないのが残念なんですが、もっと時間が取れたら毎日でも行きたいです。高校生の夏休みのとき、月40本ぐらい見たことあります(笑)。
“文化”が積み重なっていくから創作は進化する
―― 「エヴァンゲリオン」シリーズの研究者のあいだでは、永井さんの「デビルマン」が大きな影響を与えたといわれています。永井さんご自身はそれをどう感じられていますか。
永井 僕はそうとは思わなかったんですけれども……。でも、「エヴァンゲリオンのあのスタイルは大体デビルマンです」と庵野秀明監督ご本人に直接言われました。「あ、そうなんだ、その影響だったんだー」みたいな(笑)。
―― 永井さん自身、映画から多くの影響を受けたとお伺いしました。ご自身の漫画作品が、予想していない形で影響を与えていくことについてどうお考えですか。
永井 そういう、“文化”のようなものは積み重ねですから。みんないろんな影響を受けていろんな作品を生んで、次の世代がそれらの影響を受けて、そうやって積み重ねていくから創作とは進化するし、面白いものがどんどんできるし。
手塚先生がデビューしたころは「メトロポリス」のようなドイツ表現主義の映画であるとか、いろんなものの影響を受けながら描いていっただろうし、そんな手塚先生の影響をまた僕らが受けたりとか。“文化”とはその都度、いろんな作品の影響を受けて広がっていきますから、常にお互いが刺激しあってやっていくしかないんじゃないかなと思います。
「これはパクられたなあ」とか思うことは山ほどありますけど、それはそれでまあしょうがない(笑)。
―― 「パクられたなあ」はよくあることなのですか。
永井 そうですね、「やられちゃったなあ」と。“昨今のロボットもの”でも随分取られちゃってるなあと思うんだけど。まあしょうがないか(笑)。
前にアメリカへ行ったときに現地の弁護士が訪ねてきて、「スター・ウォーズのダース・ベイダーはあなたの作品のパクりですよ、裁判起こしませんか」みたいなこと言ってきたんですよね。僕はパクりだと思っていないので何のパクりか尋ねてみると、「バイオレンスジャックのスラムキングをモデルにしてます」と。
「証言してくれる現場スタッフはたくさんいるから行ける!」なんて付け加えられたけど、でも裁判に勝てるかどうかも分からないし、何しろスター・ウォーズシリーズは僕も好きなのでそんなことはしたくないし、スラムキングの影響を受けたとしても結果として違うものになっているからいいじゃないか、みたいに思って。そんな感じでご遠慮したんですけど、弁護士としてはなんとか巻き込んでやりたかったんでしょうね(笑)。
―― “文化”とは、過去の作品を取り入れて進化していくということ?
永井 そういうことだと思いますね。ハリウッドのスタジオを見学すると、特撮やアニメーションをやっているスタッフは日本のアニメ作品のものをそこらじゅうに貼ってたりとか。みんな影響を受けてるんだというのがよく分かりますね。
番組名 「この映画が観たい#34 〜永井豪のオールタイム・ベスト〜」
ムービープラスでは、インタビューで名前もあがった庵野秀明監督による最新作「シン・ゴジラ」の公開記念特別企画として、「特集:怪獣VSロボット」と題し5作品を放送。放送日時は7月30日17時からと、31日11時30分から。
同特集の目玉となる作品は、ギレルモ・デル・トロ監督による深い特撮愛を感じられる「パシフィック・リム」。8月には杉田智和さん、林原めぐみさんほか豪華キャストによる吹き替え版も放送予定。エルボーロケットとロケットパンチなど、ちょっとしたせりふの違いを楽しむのもおすすめ。他にも“特撮の神様”ことレイ・ハリーハウゼン監督による特撮長編デビュー作「原子怪獣現わる」や「パシフィック・リム」に多大な影響を与えたといわれている「ロボ・ジョックス」など、マニアもうなるラインアップの特集です。
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