過熱化するチケット論争 高額転売は違法か? それは「必要悪」なのか?
ライブイベントで見られるチケットの高額転売問題は深刻。問題を整理し、チケット価格のさらなる多様化にかじを切る時期なのではないでしょうか。
共同声明の反響
朝刊を開くと、全面広告が目に飛び込んできた。ジャニーズ、サザンからPerfume、サカナクションまで豪華な名前が並ぶ意見広告だ。チケットの高額転売をやめるよう訴える共同声明で、116人のアーティスト、24のイベントが賛同し、ACPCなど音楽系4団体が取りまとめたものだ(関連記事)。
確かに、絶好調のライブイベントにとって、チケットの高額転売はハコ(会場)不足と並ぶ最大の問題だ。今や、待ち望んだチケットが発売と同時に嵐の勢いで売り切れ、たちどころに「チケットキャンプ」などの流通サイトに高額で出回るのは、見慣れすぎて麻痺した日常光景だろう。少し見ただけでも、例えばEXILE系のツアーチケットが、定価約1万3000円のところ最低1万8000円、最高21万円という高額で1万枚以上転売されている。全て売れれば転売益の総額は億単位、転売サイトが手にする手数料は数千万円か。こうした高額転売で稼ぐいわゆる「転売ヤー」は、ソフトを使って大量に購入申込をかけているとか、背景には反社会的勢力の影もちらつく、といった情報にも接する。
ちょうどライブ・エンターテイメントEXPOで同テーマの講演をしたばかりだったこともあり、筆者もTwitterにこんなことをつぶやいた。かなり反響を頂くとともに、2、3の取材も受けることになった。
実際、買う側からすれば、正規ルートで入手できなかったから高値で泣く泣く買う訳だが、その上乗せ分があれば他のイベントに行ったり、好きなアーティストをさらに応援することもできただろう。上乗せで払った分は誰かの懐を潤すだけで、アーティストにもスタッフにも一銭も入りはしないのだ。
チケットの転売は違法なのか
転売ヤーたちの歴史は古い。リアルの世界では「ダフ屋」と呼ばれ、古くから自治体の迷惑防止条例で規制されてきた。例えば東京都条例では以下のように規律される。
乗車券等の不当な売買行為(ダフヤ行為)の禁止
第2条 何人も、……入場券、観覧券その他公共の娯楽施設を利用する権利を証する物(乗車券等)を不特定の者に転売……するため、乗車券等を、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む)……において、買い、又はうろつき、人につきまとい、呼び掛け……買おうとしてはならない。
2 何人も、転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所……において、不特定の者に、売り、又はうろつき、人につきまとい、呼び掛け、……売ろうとしてはならない。
この通り、「公共の場所」での迷惑行為として転売・そのための購入・呼びかけ等の行為を禁止し、最高で6カ月以下の懲役や罰金を課している。という訳でダフ屋は処罰対象で、ネット上での転売をもくろんで売り場に並んで購入するようなケースでは、実際に摘発事例がある(最近では宝塚やジブリ美術館で逮捕例があった)。だが、購入から転売まで全てネット上で行う場合はどうか。これはつまり、インターネットが「公共の場所」と言えるかによる。
確かに「公共の場」ではあるのだろう。だが、条例が例示する場所とはだいぶ異なるし、物理的な場所を想定した迷惑行為の規制をネットにそのまま適用するのはためらいもある。だから、扱いは不透明となり、現にオンラインでの転売自体が条例違反で起訴された例は寡聞にして聞かない。
米国はニューヨーク州などでネットでの高額転売を禁止しているので、条例改正や解釈の明確化での対処も今後の課題としては挙がるだろう。では、それ以外では手はないかといえば、そうとも限らない。
そもそも、多くのチケット販売会社では購入時の規約などで高額転売やネット出品を禁止している。ジャニーズやUSJなど、転売チケットの一律無効化に乗り出した主催者もいる。
「そんなことができるのか? 購入した所有物を転売するのは自由だ」という意見もあろう。しかし、チケット販売は所有物の譲渡とは少し違う。本質的には「イベントに入場させ観覧させるという契約」なのだ。購入者は入場・観覧する債権を持ち、チケットとはその債権を証明する「証券」と考えられる。そのため、(制約はあるが)法的には譲渡を禁ずることもできる。
無論、そういった契約内容が分かりやすく表示され、ユーザーが同意していることが条件となるし、あまりに一方的な条件は有効性に疑問符がつく。この辺りはクリックオン契約の効力や消費者契約法の関連になるが、「特にチケットの高額転売などは譲渡禁止違反で無効になり得る」ことは確かだろう。
よって、主催者は高額転売などが確認できた段階でチケットを無効化し、入場を禁ずることもできそうに見えるし、実際、ナンバー管理や顔認証などを徹底してこれを大規模実行する主催者は増えている。
さらには、「無効化され、入場を禁じられるかもしれないチケット」を、そう知らせずネットで誰かに販売すれば購入者への詐欺罪や、主催者への業務妨害罪の可能性もある。かなりアグレッシブだが、今後はこうした事案での刑事告訴もあり得るだろう。
チケット価格の多様化と正規再流通の仕組み
筆者も、悪質な事例では強硬策もやむを得ないと思う。そのくらい、まん延する高額転売の問題は深刻だ。ただ、取締りだけでは、恐らくまだ事態の根本解決にはならない。
第一に、予定が変わって、イベントに行けなくなることは誰にでもある。その場合に不要チケットの転売を認めないのはあんまりだろう。そこで、少なくとも定額かそれ以下でのチケットのリセールは認めるべきで、そうしたサービスが未整備なのがチケット転売サイトの反論材料にもなっている。この点、チケットぴあなどは定額リセールサービスを導入しているが、より広く便利に拡充していくべきだろう。
第二に、共同声明も述べる通り、抜本対策としてのチケット価格の多様化・柔軟化である。もともと、チケット高額転売には、「高額で転売できそうな価格で発売するから買い占められるのであり、最初から社会ニーズと合致した価格で売っていれば転売ヤーが暗躍できる余地がない」という指摘がある。
これは言い替えれば、「もっと高く売りだせ」というわけで、本当にそれがファンの総意かは疑問もあるが、しかし筆者はある程度賛成だ。言うまでもなく、主催者側は誰よりも値決めには心を砕いている。ビジネスとしてはできるだけ高く売って関係者に還元したいが、ファン層が幅広く購入できる価格帯に留める必要もある。値決めは言うほど簡単ではないのだ。
加えて、特に音楽系を中心に、「座席は平等・価格は一律」へのこだわりも根強い。ファンは平等だし、良い席争奪戦とか止めて会場全体が同じ感動を共有して一体になろう! という思いだろう。だから席は抽選、アーティストたちは「3階のみんなの顔もよく見えるよ!」と叫ぶ。
……分かる。そして全スタッフが、全てのファンに最高の体験を届けようと全力を挙げていることを筆者は疑わない。
だが、それでも席による差はやはりある。キヨシローなんてわざわざやって来て、「後ろの奴らはかわいそう♪」と歌ってたぐらいだ。そして「後ろの奴ら」は、そんな正直で毒があって優しいキヨシローを愛したのだ。
もう、チケット価格のさらなる多様化に踏み切る時期だ。現に価格一律化の下で「良席を手に入れる仕組み」は際限なく複雑化しつつあるし、それが時には高額転売の正当化に使われてもいる。
ならばもっと単純化して、払えるファンには10万円の正規チケットを買ってもらい、公演の収支を潤してもらえばどうか。それで収支にゆとりが出るなら、その代わり後列は安くしてリピーターに優しくし、最後列には格安の学生チケットを出す。オペラでもブロードウェイでも、他ジャンルでは既に導入していることだ。
チケット価格の多様化、さらにはオークション販売の導入。それらを取り入れ、不幸にして行けなくなったファンには正規再流通の仕組みを充実させる。それでも悪質な買占めと高額転売をはかる業者は必ず残るので、法改正も含めて刑事罰で臨む。
海外のファン達が買いやすく来やすいライブイベントのためにも、もうかじを切るべき時期に来ているように思うが、どうか。
福井健策(ふくい・けんさく)
弁護士(日本・ニューヨーク州)骨董通り法律事務所代表パートナー 日本大学芸術学部客員教授
1965年生まれ。神奈川県出身。東京大学、コロンビア大学ロースクール卒。著作権法や芸術・文化に関わる法律・法制度に明るく、二次創作や、TPPが著作権そしてコンテンツビジネスに与える影響についてもいち早く論じて来た。著書に『著作権の世紀――変わる「情報の独占制度」』(集英社新書)、『「ネットの自由」vs.著作権』(光文社)、『誰が「知」を独占するのかーデジタルアーカイブ戦争』(集英社新書)、『18歳の著作権入門』(ちくまプリマー新書)などがある。Twitterでも「@fukuikensaku」で発信中。
関連記事
- 「チケット高額転売」へ反対する大規模な共同声明 音楽業界4団体、アーティスト116組、イベント24団体が発表
賛同アーティストには嵐、Perfume、サザンなど著名なグループの名がずらり。 - マキシマム ザ ホルモンの斬新な「チケット転売対策」 ファンの愛が試されると話題に
これはダフ屋も白旗をあげそう。 - バンド「ヤバT」の転売チケットへの注意喚起が斬新 「1万円クオリティのワンマンできひんからやめて!」
大阪の3ピースバンド「ヤバイTシャツ屋さん」が、自虐とユーモアたっぷりのチケット転売注意喚起をツイート。 - ジブリ美術館、入場券の転売対策 夏休みシーズンで記名式チケットの先行抽選販売を実施
購入希望者の多い夏休みシーズンに、公平な販売機会を提供したいとのこと。 - サークルチケット転売やめて――コミケ運営が警告 要請に応じなければ永久追放処分も
オークションでは2万〜3万円ほどで取引きされています。 - フィギュアスケート大会に「EMTG電子チケット」導入 不正転売へ対策
電子チケットアプリを使った入場法。 - ラブライブ!の「μ’s」ファイナルライブの転売チケットが高騰中 オークションサイトで20万円以上の入札も
公式では「本人確認を行う」としています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
母「昔は何十人もの男性の誘いを断った」→娘は疑っていたが…… 当時の“モテ必至の姿”が1170万再生「なんてこった!」【海外】
-
【ハードオフ】たった“1650円”のジャンク品を持ち帰ったら…… “まさかの結末”に仰天 「中古店は宝の山」
-
セリアのイス脚カバーの“じゃない”使い方に「天才ですか!?」 斬新な活用法に「めっちゃ可愛い」「探してくる!」
-
中2長女“書店で好きなだけ本を買う権”を行使した結果…… “驚愕のレシート”が1300万表示「大物になるぞ!!」「これやってみよう」
-
「やばいやばい」 ブックオフに990円で売っていた“まさかの掘り出し物”に大興奮 「ラッキーすぎる」
-
“スカイラインの墓場”に潜入したら、目を疑う光景が…… ヤバすぎる実態に衝撃走る「ここまでやる人はいない」「凄いな」
-
「腹がいたいwww」 一家で体調不良→78歳おじいちゃんの“お年玉”に爆笑 「これは本当に気持ちがこもってる」
-
100均の毛糸5色を“シェブロン編み”していくと…… うっとり美しい防寒グッズ完成に「分かりやすくてスイスイ編めた」「色のセンスも素敵!」
-
道に落ちていそうな黒い石ころ→磨いたら…… まさかの“正体”が158万再生「超すごい」「砂利に似ているのに」【海外】
-
夫婦でプラダンの二重窓をDIYしたら…… 予想以上の断熱効果に驚き「す、す、すっごい! 一番分かり易くて、可愛いくて、何より簡単そう」
- ryuchellさん姉、母が亡くなったと報告 2024年春に病気発覚 「ママの向かった場所には世界一会いたかった人がいる」
- ハードオフに1650円で売られていた“まさかの掘り出し物”→修理すると…… 見事な復活劇に「相場が上がってしまうw」
- 巨大深海魚のぶっとい毒針に刺され5時間後、体がとんでもないことに……衝撃の経過報告に大反響 2024年に読まれた生き物記事トップ5
- 北海道の用水路で“巨大な外来魚”を捕獲→さばいてみると…… 中から出てきた“ヤバすぎる物体”に大興奮「ずっと釘付け」
- 【ハードオフ】2750円のジャンク品を持ち帰ったら…… まさかの展開に驚がく「これがジャンクの醍醐味のひとつ」
- 「脳がバグる」 ←昼間の夫婦の姿 夜の夫婦の姿→ あまりの激変ぶりと騙される姿に「三度見くらいした……」「まさか」
- 幼稚園の「名札」を社会人が大量購入→その理由は……斜め上のキュートな活用術に大反響 2024年に読まれた面白記事トップ5
- 米津玄師、紅白で“205万円衣装”着用? 星野源“1270万円ネックレス”も話題…… 「凄いお値段」「びっくりした」
- 【今日の難読漢字】「手水」←何と読む?
- サバの腹に「アニサキス発見ライト」を当てたら……? 衝撃の結果に「ゾワっとした」「泣きそう」と悲鳴 その後の展開を聞いた
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
- 東京美容外科、“不適切投稿”した院長の「解任」を発表 「組織体制の強化に努めてまいる所存」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- イモトアヤコ、購入した“圧倒的人気車”が思わぬ勘違いを招く スーパーで「後ろから警備員さんが」
- 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」