「BLOOD+ 10周年ファンミーティング」レポート&キャラデザ箸井地図インタビュー(2/3 ページ)
第2部はファンから事前に寄せられた質問に藤咲監督が生回答するという一問一答形式で進行。ここでは時間の都合上、回答できなかった質問も含めて藤咲監督の見解を掲載します。
会場で紹介されたエピソードに関する質問
――17話や22話など過去編について詳しく知りたいです。
藤咲:特殊なエピソードではあるんですが、17話の「約束覚えてる?」に関しては実は僕が脚本を担当する予定ではありませんでした。もとは吉田玲子さんの脚本回だったのですが、ほかの案件も抱えていらっしゃったので急きょ僕が脚本を書くことになりました。だから初稿が決定稿になっています。ただ吉田さんには次に良いものを書いてほしいという思いから22話の「動物園」をお願いしました。あの脚本は正直、僕じゃ書けないものでした。
アシ:設定的なことでいうと、当時グーグルアースなどがなかったので「シベリア鉄道」のDVDや資料を観まくりました。ロシア映画を16倍速などで観すぎたために最終的にロシア風の鼻歌まで歌い始めてしまい、周りのスタッフには心配されましたね。
藤咲:ロシアといえば「シベリア超特急」ですが、あの水野晴郎さんから「シベリア鉄道を扱ってくださってありがとうございます」という連絡がきたそうですよ。
アシ:ありましたね。私はその話を聞いて「苦労したかいがありました」と泣いたのを覚えています。
藤咲:懐かしいね。22話については、絵コンテの肝の部分を演出の松本淳さんに直してもらっています。すごく良い絵になったので、僕自身22話は作っていて楽しかったし、すごく満足しています。
――21話についての制作エピソードを教えてください
藤咲:シフについては当初出てくる予定は全くありませんでした。しかしシュヴァリエだけで進行すると、アクションができないという問題もあり、人工翼手を考案しました。「シフ」という名前は脚本に参加していた森田繁さんが付けてくれました。派手なイメージをつけたいということでの当時Production I.Gのプロデューサーだった大松裕くんから高速移動のアイデアが出ました。このアイデアはスマッシュヒットだったなと思っています。
アシ:シフの動きのベースとなっているのは、映画にもなったパルクールという競技だったりもします。
――32話で小夜の弟・リクが死んでしまうのになぜ「ボーイ・ミーツ・ガール」というタイトルなのでしょうか
藤咲:この話はディーヴァの視点で進めたかったというのが、サブタイトルの意味です。だから実際は「ガール・ミーツ・ボーイ」なんですよね。でもそれだと音感に違和感があるので、「ボーイ・ミーツ・ガール」になりました。ただ、一方でサブタイトルを考えているときにTRFの曲が耳に飛び込んできたことも要因しているかもしれません。
アシ:聞いてましたね、TRF。
藤咲:本作のサブタイトルはほとんど僕が決めています。気に入っているのは「ファントム・オブ・ザ・スクール」かな。今思えば、ばかじゃねぇのと思うけど。
アシ:21話の「すっぱいブドウ」はどういう意味だったんですか?
藤咲:あれはキツネのイソップ童話からですね。「あのブドウはどうせすっぱいよ。誰が食べてやるものか」という意味をシフとの関係を三回転半くらいさせたのですが、誰も気付かなかったという……。あとは「摩天楼オペラ」というサブタイトルからバンド名をとったグループもいまして。今日もコメントをいただいております。
――43話でのハジの翼手化が翼だけという設定については最初から決まっていたのでしょうか
藤咲:ハジの翼手化については何も決めていませんでした。ハジ好きの女性スタッフに「ハジが翼手化するとしたらどうしたらいい?」と聞いたら「ない!」と即答されたので人間のままで、翼だけの姿にしようとなりました。
アシ:でもハジが翼手化した時用にボウズの案も作ってくれと言われたので一応Photoshopで作ってみましたよね。提出したところ「ないわ〜」ということになりましたが。
藤咲:ありましたね。でもハジは最初からイメージが固まっていたよね。翼手化しないのが彼自身の戒めであるという設定は僕が決めました。あと、この話はキャラクターがキスしまくる話でもあるんですが、物語がクライマックスになだれ込む“転換点の話”でもあるのでさまざまな「こころ」が交錯するさまを見せておきたいと思っていました。残念ながらソロモンだけはキスできませんでしたけどね。
アシ:うーん。
藤咲:でもね、ソロモンはそういうことをやっちゃいけないと思うんですよね〜まぁ彼は報われないからソロモンなんだって僕は言っているんですが。ただ構成が二転三転したこともあってバランスが悪いところは反省材料です。今ならいろいろできるのになと思います。
アシ:当時は勢いが大事でしたよね。今だと書けないせりふもたくさんあるでしょうし。
藤咲:そうじゃないとオペラなんて使えないもんね。
――47話の「すべての血を超えて」について、小夜はソロモンのその後を知っているのでしょうか
藤咲:ハジと小夜、ソロモンが3人でジェイムズに立ち向かう場面で「これが早く見たかった」という意見が多くありました。でも3人がそろっちゃうと「勝っちゃうな、終わっちゃうこの話」というのがあって。ソロモンってシュヴァリエの中で一番人間らしいんです。医者になったのに大きな力の前では無力であるということに直面した彼にアンシェルが「私の元へ来ないか」と誘いに来る、あのシーンですよ。
アシ:はい。
藤咲:彼は世界を平和にしたいと一番思っていた男だと思います。大きな力をもって平和にしたいと。でも小夜に会ってしまうんですよね、そこで彼の中で初めて道が見えたと。ここからが彼の不幸の始まりで、茨の道の入り口だったんだと思います。最終的にはアンシェルの腕の中で結晶化していきましたが、もちろん小夜はそのことを知りません。ハジは同じシュヴァリエとして自分もこうなるであろうと同情しつつ、その結末を知っています。顔までは結晶化したソロモンですが、その後のことは僕も知りません。アンシェルの「馬鹿者が」というせりふが全てだと思います。
――50話「ナンクルナイサ」で小夜がハジにキスをした意味を教えてください
藤咲:僕が脚本で描いたのは、小夜が導き出した答えを小夜から言ってほしかったからです。200年近くも変わらない関係でそばにいて、未来を奪ってもなおついてきてくれるハジを「いとおしく」思ったんでしょう。哀れみもあったかもしれませんが、やっぱりいとおしかったんではないかなと思います。ついでですが、ハジのせりふ「ナンクルナイサ」、もともとは脚本にはありませんでした。カイが使っていた魔法の言葉でもとは50話でカイが数回言っていたせりふではあったんですが、あえて削ってハジに使っています。
――物語の最後に小夜が沖縄で眠りにつくということは最初から決まっていたのでしょうか
藤咲:決めていました。沖縄編の構成が見えてきたときに小夜は沖縄に戻るべきだと決めました。そしてその時小夜の傍にいるのは、恐らくカイであろうと考えていました。
――オープニングとエンディングに関する演出について詳しく教えてください
藤咲:これは完全に担当の演出家に任せています。例えば3クール目のUVERworldさんが歌うColors of the Heartに関しては後に「PSYCHO-PASS サイコパス」の監督を務めた塩谷直義くんの演出が爆発しています。塩谷くんは本作が演出デビュー作だったので「好きにやってみれば」ということでまるっとお任せしました。そしたらビー玉とか色んな演出が出てきたので、良いなと感じました。ほかにもさまざまなアニメーターの力に支えられています。
――長い制作期間のなかで、プランが大きく変わったキャラクターはいますか?
藤咲:研究員Aこと、アーチャーですかね。今日来てくれたアシスタントのお気に入りで、彼女のテンションを保つためだけに生かしておいたようなキャラクターです。
アシ:「このキャラクターは素晴らしいですよ」と言い続けたら皆さんが使い続けてくださったっていうことですよ。
藤咲:でも声が遊佐浩二さんだとは気づいていなかったんだよね。
アシ:すみません、昨日気づきました。顔が好きで顔が好きで、顔しか見てなかったんですね。でも皆さんも、自分の好きなキャラクターがいるなと思ったら声を大にして言い続けると死ぬはずだったかもしれないキャラクターが最終話で、名前付きでせりふ付きで出ます!
藤咲:僕の作品そういうの多いね。
制作について振り返った藤咲監督は「女性スタッフの方々に助けていただいたことが多かった」と語り、「こんなのハジじゃない!」「どうして私にハジが回ってこないの!」とキャラクターに対するこだわりを持ったスタッフがいたからこそ成立したアニメだったのかもしれないと第2部を締めました。
と、ここで藤咲監督からのサプライズプレゼントが登場! 小夜とハジをあしらった赤薔薇ケーキと、ディーヴァとソロモンをあしらった青薔薇ケーキがファンのみなさんに振る舞われました。
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