難病の親友を救うためギャグをかまし続ける女子高生 漫画「NKJK」がコメディなのに切ない
漫画レビュー連載「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第81回。幼馴染のためにピエロになりきる彼女は救われるのか。
ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
昨年読んだ作品の中から良作10本をランキングで紹介する前回の特集企画「このマンガがすごい!にランクインしなかったけどすごい2017」、たくさんご覧いただきありがとうございました。1位の「ニュクスの角灯」を始め、どれも読み応えある作品ばかりなので、ぜひご覧ください。
さて、今回紹介するマンガは、「月刊アクション」(双葉社)から吉沢緑時先生の「NKJK」(全2巻)。難病で入院している同級生の命を救うため、女子高生の主人公が奮闘するコメディ作品です。
難病を患った友人を救う作品がなぜコメディなのか。この逆説が本作何よりの面白さでもあり、魅力でもあります。
難病を患う幼馴染のため道化になる
「私の腕の中で… 担架の上で… 真っ赤に染まっていく幼馴染を前に 私は真っ白で 何も出来ませんでした」
西宝夏紀の幼馴染・富士矢舞が倒れたのは、2人が入学した名門女子高での最初の授業でした。以来入院生活を送ることになった富士矢さんの病室を、幼稚舎以来ずっと仲の良かった西宝さんは毎日のように見舞いに訪れます。
しかし、ある日彼女が耳にしてしまった、富士矢さんは現代の医療では快復の見込みが少ない難病を患っているという事実。西宝さんは涙に暮れる富士矢さんの母からある頼みを託されます。
「舞を笑わせてあげて頂けないでしょうか?」
人体には免疫力を高める「NK(ナチュラルキラー)細胞」があり、NK細胞は笑いによって活性化される――。
そこに少しでも未来への光明が見出せるならと、これまでバラエティ番組を見たことすらなかった西宝さんの「笑い」への挑戦が始まります。
「こ…このDVDすこぶる面白いウマ〜」
次に病室を訪れた西宝さんは馬の被り物で登場。語尾が「ウマ」になる馬キャラを演じるも、いまいちネタが伝わっていないことに気付くやいなや、さらにその上から鼻眼鏡という、被り物に被り物をかぶせるネタで挑むものの、あまりの豹変っぷりに富士矢さんからは困惑を買うばかり(そりゃそうだ)。
舞台である病室からいったん外に出て仕切り直し。次に彼女が取り出したのは「熱々おでん」。そう、熱湯風呂に並ぶリアクション芸の王道であり古典、かつ伝家の宝刀でもある、あの熱々おでんです。
煮えたぎるちくわぶを、富士矢さんの箸から震える唇に受け取ろうとする西宝さん。直後まさかの箸滑りでちくわぶが胸元にダイレクトに入り込むハプニングによって、口から泡を吹くほど熱がるリアクションを見せることになりますが、それが功を奏して富士矢さんの笑いをゲット。NK細胞もさぞ活性化したことでしょう。
さて、それまで笑いの「わ」の字も知らなかった西宝さんが、どうやって短期間にしてプロ顔負けの熱々おでん芸を会得するまでに至ったのか。その秘密は彼女が常に持っているタブレットの中にありました。
カバンから取り出すそのタブレットの中には「腹話術」「キレ芸」など、お笑いで使われるさまざまなネタと、それぞれに対して富士矢さんが示した反応をまとめたリストが。馬の被り物が受けなかったためか、「仮装」欄の横には早くも×印が付いています。
それにしても、笑いに関する書物や動画を閲覧し、彼女なりに解析したというこのリストは本気ですごい。大道芸ジャンルには「腹話術」以外に「猿回し」や「人間ポンプ」、落語ジャンルには「古典落語」「新作落語」「大喜利」、漫才・コント・フリートークジャンルはさらに「キャラ」と「ネタ」に細分化され、キャラカテゴリには「毒舌・暴露系MC」「勘違いナルシスト」、ネタカテゴリには「ノリツッコミ」「スベリ芸」「不謹慎・差別ネタ」など、古今東西お笑いの全てがこのリストに網羅されているのではないかと思えるほど。今数えてみたら優に100を超えていました。彼女の親友への想いの強さがここからも垣間見えます。
コメディの根底に漂い続ける、哀愁
その後西宝さんは病室を訪れるたび、落語、自虐ネタ、マジック、謎かけなどネタリストの中からチョイスして練習した爆笑ネタを次々と披露。ある時は大ウケし、またある時はどんずべり、一進一退の攻防を繰り広げます。
そんな「ひとりエンタの神様」という一面を見せながらも、本作を何より特徴づけているのは、個々のネタの出来不出来より、むしろ作品の根底に漂うペーソス(哀愁)です。
もともと大人しくて礼儀正しい西宝さんが、熱々おでんや全く似てない物まねなど本来のキャラを捨て、若手芸人のごとく体を張ってまで必死になる理由は、親友の命を救うためだということを忘れてはいけません。これがただのギャグマンガなら、ただその場で笑って終わる話ですが、その笑いが親友の生死に直結している状況だと、同じネタでも見え方が全く違う。
「ダッダーン!ボヨヨン!ボヨヨン」というおっさんホイホイネタを叫んで滑る姿でさえ、病に蝕まれる親友の命がかかっていることを思い浮かべながら読めば、その印象は大きく変わるはずです。笑いって本当に難しい。
「私がしてきたのは… ただ不謹慎なだけの… 間抜けで無駄な行為だったんじゃないか」
懸命の努力にもかかわらず、日々悪化する病状を前にした彼女の自問も深く突き刺さります。この死のにおいこそが本作の笑いをより複雑で深いものにしているのです。
本作最終巻となる2巻の表紙には、1巻と全く同じレイアウトながら、前巻では西宝さんの隣にいた富士矢さんの姿がありません。これが何を示唆しているのか、ぜひ実際に読んでその結末を確かめてみてください。
最後に「間抜けで無駄な行為だったんじゃないか」という苦悩に対して、西宝さんの笑いの師匠であり自らも難病を患う少女・榎本凛の言葉を引きながら、今日はこれにて筆を置きたいと思います。
「いわゆる『健常者』は図らずも病人を腫れ物扱いするもんなんや つい距離を置いて… よそよそしく接してしまう…」
「それが普通や… 仕方ない…」
「ただ… そんな中… 周りにどう思われようがアホな真似ばかりしてくれる身近な存在…」
「それがどれっだけうれしいか…」
関連記事
- 私が今日死ぬからみんな優しくするの? 少年少女に突きつけられる「五時間目の戦争」の(非)現実
毎週金曜、五時間目。もしも「戦争へ行け」と言われたら……。 - 片想いの女の子が16年前からタイムスリップしてきた 失恋の古傷を深くえぐる「青春のアフター」
漫画紹介連載「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」の第79回。自分を振ると同時に目の前から消えてしまった女の子が、そのままの姿で16年後にまたやってきたら、あなたはどうする? - 好きになった相手がロボットだったら――? 決して年をとらないロボットと少女の百合マンガ「となりのロボット」が切ない
今年は百合が熱い……! そんな中、今いちばん紹介したい百合マンガが「となりのロボット」です。 - 何もかも終わっちゃった世界にふたりぼっち 異色の“終末”日常マンガ「少女終末旅行」
静かで落ち着いた終末世界。「世界崩壊」や「廃墟」といったキーワードに反応した人はぜひ! - オチが見える? いいえ、真骨頂はその先です 個性派・中野でいちが描く、強くてはかない「十月桜」は2度咲く
ネタバレ厳禁! 第41回は、小説のような美しいセリフ回しと、デフォルメの効いた独自の絵柄で、人間の闇と美しさを描いた「十月桜」を紹介します。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
-
ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
-
夫「250円のシャインマスカット買った!」 → 妻が気づいた“まさかの真実”に顔面蒼白 「あるあるすぎる」「マジ分かる」
-
ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
-
妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
-
人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
-
「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
-
「情報操作されてる」「ぜーんぶ嘘!!」 175R・SHOGO、元妻・今井絵理子ら巡る週刊誌報道を一蹴 “子ども捨てた”の指摘に「皆さん騙されてます」
-
160万円のレンズ購入→一瞬で元取れた! グラビアアイドル兼カメラマンの芸術的な写真に反響「高いレンズってすごいんだな……」「いい買い物」
-
「予約しました」 サッポロ一番の袋に見せかけた“笑っちゃいそうなグッズ”が話題 「サッポロ一番味噌ラーメン好きがバレちゃう」
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」
- イモト、突然「今日まさかの納車です」と“圧倒的人気車”を購入 こだわりのオプションも披露し光岡自動車からの乗り換えを明かす
- 「この動画お蔵かも」 親子デートの辻希美、“食事中のマナー”に集中砲火で猛省……16歳長女が説教「自分がやられたらどう思うか」
- 老けて見える25歳男性を評判の理容師がカットしたら…… 別人級の変身と若返りが3700万再生「ベストオブベストの変貌」「めちゃハンサム」【米】
- 「ガチでレア品」 祖父が所持するSuica、ペンギンの向きをよく見ると……? 懐かしくて貴重な1枚に「すげえええ」「鉄道好きなら超欲しい」と興奮の声
- 「デコピンの写真ください」→ドジャースが無言の“神対応” 「真美子さんに抱っこされてる」「かわいすぎ」
- 「天才」 グレーとホワイトの毛糸をひたすら編んでいくと…… でっかいあのキャラクター完成に「すごい」「編み図をシェアして」【海外】
- 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
- 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
- フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
- 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
- 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
- ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
- 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
- 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた