難病の親友を救うためギャグをかまし続ける女子高生 漫画「NKJK」がコメディなのに切ない

漫画レビュー連載「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第81回。幼馴染のためにピエロになりきる彼女は救われるのか。

» 2017年02月18日 21時00分 公開
[虚構新聞・社主UKねとらぼ]

 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 昨年読んだ作品の中から良作10本をランキングで紹介する前回の特集企画「このマンガがすごい!にランクインしなかったけどすごい2017」、たくさんご覧いただきありがとうございました。1位の「ニュクスの角灯」を始め、どれも読み応えある作品ばかりなので、ぜひご覧ください。

 さて、今回紹介するマンガは、「月刊アクション」(双葉社)から吉沢緑時先生の「NKJK」(全2巻)。難病で入院している同級生の命を救うため、女子高生の主人公が奮闘するコメディ作品です。

 難病を患った友人を救う作品がなぜコメディなのか。この逆説が本作何よりの面白さでもあり、魅力でもあります。

NKJK 吉沢緑時 「NKJK」1巻試し読みはこちら (C)吉沢緑時/双葉社

難病を患う幼馴染のため道化になる

 「私の腕の中で… 担架の上で… 真っ赤に染まっていく幼馴染を前に 私は真っ白で 何も出来ませんでした」

 西宝夏紀幼馴染・富士矢舞が倒れたのは、2人が入学した名門女子高での最初の授業でした。以来入院生活を送ることになった富士矢さんの病室を、幼稚舎以来ずっと仲の良かった西宝さんは毎日のように見舞いに訪れます。

 しかし、ある日彼女が耳にしてしまった、富士矢さんは現代の医療では快復の見込みが少ない難病を患っているという事実。西宝さんは涙に暮れる富士矢さんの母からある頼みを託されます。

 「舞を笑わせてあげて頂けないでしょうか?

 人体には免疫力を高める「NK(ナチュラルキラー)細胞」があり、NK細胞は笑いによって活性化される――。

 そこに少しでも未来への光明が見出せるならと、これまでバラエティ番組を見たことすらなかった西宝さんの「笑い」への挑戦が始まります。

NKJK 吉沢緑時 西宝さんの笑いへの挑戦が今始まる……!

 「こ…このDVDすこぶる面白いウマ〜」

 次に病室を訪れた西宝さんは馬の被り物で登場。語尾が「ウマ」になる馬キャラを演じるも、いまいちネタが伝わっていないことに気付くやいなや、さらにその上から鼻眼鏡という、被り物に被り物をかぶせるネタで挑むものの、あまりの豹変っぷりに富士矢さんからは困惑を買うばかり(そりゃそうだ)。

 舞台である病室からいったん外に出て仕切り直し。次に彼女が取り出したのは「熱々おでん」。そう、熱湯風呂に並ぶリアクション芸の王道であり古典、かつ伝家の宝刀でもある、あの熱々おでんです。

 煮えたぎるちくわぶを、富士矢さんの箸から震える唇に受け取ろうとする西宝さん。直後まさかの箸滑りでちくわぶが胸元にダイレクトに入り込むハプニングによって、口から泡を吹くほど熱がるリアクションを見せることになりますが、それが功を奏して富士矢さんの笑いをゲット。NK細胞もさぞ活性化したことでしょう。

 さて、それまで笑いの「わ」の字も知らなかった西宝さんが、どうやって短期間にしてプロ顔負けの熱々おでん芸を会得するまでに至ったのか。その秘密は彼女が常に持っているタブレットの中にありました。

 カバンから取り出すそのタブレットの中には「腹話術」「キレ芸」など、お笑いで使われるさまざまなネタと、それぞれに対して富士矢さんが示した反応をまとめたリストが。馬の被り物が受けなかったためか、「仮装」欄の横には早くも×印が付いています。

NKJK 吉沢緑時 あらゆるお笑いネタが網羅されたリスト。よくぞここまで!

 それにしても、笑いに関する書物や動画を閲覧し、彼女なりに解析したというこのリストは本気ですごい。大道芸ジャンルには「腹話術」以外に「猿回し」や「人間ポンプ」、落語ジャンルには「古典落語」「新作落語」「大喜利」、漫才・コント・フリートークジャンルはさらに「キャラ」と「ネタ」に細分化され、キャラカテゴリには「毒舌・暴露系MC」「勘違いナルシスト」、ネタカテゴリには「ノリツッコミ」「スベリ芸」「不謹慎・差別ネタ」など、古今東西お笑いの全てがこのリストに網羅されているのではないかと思えるほど。今数えてみたら優に100を超えていました。彼女の親友への想いの強さがここからも垣間見えます

コメディの根底に漂い続ける、哀愁

 その後西宝さんは病室を訪れるたび、落語、自虐ネタ、マジック、謎かけなどネタリストの中からチョイスして練習した爆笑ネタを次々と披露。ある時は大ウケし、またある時はどんずべり、一進一退の攻防を繰り広げます。

 そんな「ひとりエンタの神様」という一面を見せながらも、本作を何より特徴づけているのは、個々のネタの出来不出来より、むしろ作品の根底に漂うペーソス(哀愁)です。

 もともと大人しくて礼儀正しい西宝さんが、熱々おでんや全く似てない物まねなど本来のキャラを捨て、若手芸人のごとく体を張ってまで必死になる理由は、親友の命を救うためだということを忘れてはいけません。これがただのギャグマンガなら、ただその場で笑って終わる話ですが、その笑いが親友の生死に直結している状況だと、同じネタでも見え方が全く違う。

 「ダッダーン!ボヨヨン!ボヨヨン」というおっさんホイホイネタを叫んで滑る姿でさえ、病に蝕まれる親友の命がかかっていることを思い浮かべながら読めば、その印象は大きく変わるはずです。笑いって本当に難しい。

 「私がしてきたのは… ただ不謹慎なだけの… 間抜けで無駄な行為だったんじゃないか

 懸命の努力にもかかわらず、日々悪化する病状を前にした彼女の自問も深く突き刺さります。この死のにおいこそが本作の笑いをより複雑で深いものにしているのです。

NKJK 吉沢緑時 「NKJK」2巻

 本作最終巻となる2巻の表紙には、1巻と全く同じレイアウトながら、前巻では西宝さんの隣にいた富士矢さんの姿がありません。これが何を示唆しているのか、ぜひ実際に読んでその結末を確かめてみてください。

 最後に「間抜けで無駄な行為だったんじゃないか」という苦悩に対して、西宝さんの笑いの師匠であり自らも難病を患う少女・榎本凛の言葉を引きながら、今日はこれにて筆を置きたいと思います。

 「いわゆる『健常者』は図らずも病人を腫れ物扱いするもんなんや つい距離を置いて… よそよそしく接してしまう…」

 「それが普通や… 仕方ない…」

 「ただ… そんな中… 周りにどう思われようがアホな真似ばかりしてくれる身近な存在…」

 「それがどれっだけうれしいか…」

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2407/24/news014.jpg 庭で見つけた“変なイモムシ”を8カ月育てたら…… とんでもない生物の誕生に「神秘的」「思った以上に可愛い」
  2. /nl/articles/2407/25/news017.jpg 「これが生えたら庭終了」 プロも降参する“何をやっても全部ムダな最恐雑草”の正体が400万再生「ほんとこれ厄介」「土ごと変えないと不可能」
  3. /nl/articles/2407/26/news151.jpg イトーヨーカドー春日部店が閉店へ 「クレヨンしんちゃん」に登場するスーパーのモデル 「残念」「寂しい」惜しむ声
  4. /nl/articles/2407/25/news012.jpg 夜、山中の側溝をのぞいてみたら…… 思わず声がもれる“あらぬ生物”の姿に「ヤバいw」「生で見てみたい」
  5. /nl/articles/2407/25/news007.jpg 水槽の中で卵を発見→慎重に見守って1カ月後…… 小さな命の誕生に飼い主も視聴者もメロメロ「まじで可愛すぎるほんとに可愛い」
  6. /nl/articles/2407/25/news138.jpg 「お父さんはママのオタクだった」 母親が「元・おニャン子」のタレント、アイドルとオタクが“つながっちゃいけない理由”を問いかける
  7. /nl/articles/2407/25/news050.jpg 「立体的に円柱を描きなさい」 中1の“斜め上の解答”に「この発想は天才」「先生の優しさも感じます」
  8. /nl/articles/2401/26/news015.jpg スーパーで買ったレモンの種が1年後…… まさかの結果が635万再生「さっそくやってみます」「すごーい!」「手品みたい」
  9. /nl/articles/2407/26/news119.jpg 工藤静香、15歳の愛犬が天国へ 感謝の言葉つづるも……「泣いてばかり」「心が追いつかない」と悲痛な思い
  10. /nl/articles/2407/26/news008.jpg 外国人が来日して“3年後”…… マクドナルドの“オーダーの変化”に「胃袋が日本人のそれなんよw」とツッコミ
先週の総合アクセスTOP10
  1. プロが本気で“アンパンマンの塗り絵”をしたら…… 衝撃の仕上がりが360万再生「凄すぎて笑うしかないww」「チーズが、、、」
  2. 6年間外につながれっぱなしだったワンコ、保護準備をするため帰ろうとすると…… 思いが伝わるラストに涙が止まらない
  3. 「お釣りで新紙幣来た!!!!!と思ったら……」 “まさかの正体”に「吹き出してしまった」「逆に……」
  4. 赤いカブトムシを7年間、厳選交配し続けたら…… 爆誕した“ウルトラレッド”の姿に「フェラーリみたい」「カッコ良すぎる」
  5. ダイソーで買った330円の「石」を磨いたら……? 吸い込まれそうな美しさが40万回表示の人気 「夏休みの自由研究にもいいのでは?」
  6. 「これ最初に考えた人、まじ天才」 ダイソーグッズの“じゃない”使い方が「目から鱗すぎ」と反響
  7. もう笑うしかない Windowsのブルースクリーン多発でオフィス中“真っ青”になった海外の光景がもはや楽しそう
  8. アジサイを挿し木から育て、4年後…… 息を飲む圧巻の花付きに「何回見ても素晴らしい」「こんな風に育ててみたい!」
  9. スズメの首は、実は……? 「心臓止まりそうでした」「これは……びっくり!」“真実の姿”に驚愕の声
  10. 【今日の計算】「8×8÷8÷8」を計算せよ
先月の総合アクセスTOP10
  1. 18÷0=? 小3の算数プリントが不可解な出題で物議「割れませんよね?」「“答えなし”では?」
  2. 日本人ならなぜかスラスラ読めてしまう字が“300万再生超え” 「輪ゴム」みたいなのに「カメラが引いたら一気に分かる」と感動の声
  3. 「最初から最後まで全ての瞬間がアウト」 Mrs. GREEN APPLE、コカ・コーラとのタイアップ曲に物議 「誰かこれを止める人いなかったのか」
  4. 「値段を三度見くらいした」 ハードオフに38万5000円で売っていた“予想外の商品”に思わず目を疑う
  5. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  6. かわいすぎる卓球女子の最新ショットが730万回表示の大反響 「だれや……この透明感あふれる卓球天使は」「AIじゃん」
  7. 「これはさすがに……」 キャッシュレス推進“ピクトグラム”コンクールに疑問の声相次ぐ…… 主催者の見解は
  8. 天皇皇后両陛下の英国訪問、カミラ王妃の“日本製バッグ”に注目 皇后陛下が贈ったもの
  9. 「この家おかしい」と投稿された“家の図面”が111万表示 本当ならばおそろしい“状態”に「パッと見だと気付けない」「なにこれ……」
  10. 和菓子屋の店主、バイトに難題“はさみ菊”を切らせてみたら…… 282万表示を集めた衝撃のセンスに「すごすぎんか」「天才!?」