「中二病」って病気なの? 治し方を精神科医に聞いてみた

くそっ鎮まれ……俺の疑問よ……!

» 2017年04月28日 08時00分 公開
[マッハ・キショ松ねとらぼ]

 日本人の多くが、思春期に発症するとされている中二病。TBSラジオの番組「伊集院光 深夜の馬鹿力」で提唱された後、ネットスラングとして広まり、「黒歴史」という恐ろしい後遺症のリスクがあることでも有名です。

 その一方で、治療方法はまったく知られておらず、ネット上には現在もなお、新たな事例の報告が相次いでいます。本当に中二病を治す方法は存在しないのか、専門家の見解を調べてみました。

advertisement
中二病

中二病に関する研究論文は存在する?

 無理してブラックコーヒーを飲むようになったり、マイナーな漫画やバンドの知識をひけらかすようになったり、はたまた「闇の力」に目覚めてしまった(つもりになった)り……中二病の症状に関する情報は大量に出回っています。しかし、それらを見るまでもなく、自身の経験から理解している人も多いのでは?

 例えば、筆者は中学生のころ尾崎豊にハマり、卒業式の日はかの名曲よろしく「今日で、この支配から卒業なんだな……」と感慨にふけり、一言も発しませんでした。同時期から、下ネタに寛容な深夜ラジオも熱心に聞くようになり、この2つがミスマッチしたせいで、普段は「自由」と「全裸」を連呼していました。周囲の大人たちは、夜の校舎で窓ガラスを壊してまわるタイプの学生よりも、将来を心配していたかもしれません。

 一般人の筆者がこれほど自他の症例に詳しいわけですから、きっと専門家はさらに詳細な知識を持っているはず。論文向け検索エンジン「CiNii」「Google Scholar」で、「中二病」を調べてみましょう!


画像 CiNii」では3件表示されるも、アニメ「中二病でも恋がしたい!」の論文など無関係なもの


画像 Google Scholar」では、なぜかガンに関する論文が引っ掛かりました

 あれ……心理学と関係のない論文ばかりで、ぜんぜん出てこないぞ?

advertisement

 国外で研究が進められている可能性を考え、英訳にあたる「eighth grade syndrome(8年生症候群)」も調べてみましたが、こちらでもさっぱり見つかりませんでした。

 英語圏ではオタクカルチャーに関連した日本由来のスラングとして広まっているらしく、論文の代わりに「手首のバンダナで邪悪な精神を封印」「風や雨、火などを操る超自然的な能力があると信じ込む」といった香ばしい話がわんさか出てきました。中二病にかかるのは、日本人だけではなかったもよう。


画像 海外には、日本で言うところの中学生を「7~9年生」と表現する国も。そのため、「中二」が「eighth grade」と訳されているようです(画像は「Urban Dictionary」より)


画像 海外の掲示板には、「中二病って現実に存在するの?」というスレッド

 知名度は高いものの研究者がおらず、症状以外の情報は皆無。中二病をめぐるそんな状況は、国際的に変わらないようです。

論文がダメなら、精神科医に取材してみよう

 論文調査では何も分かりませんでしたが、専門家は中二病をどう理解しているのでしょうか。精神科医のゆうきゆう先生に話を伺ってみました。

ゆうきゆう

画像

精神科医。

上野」「池袋」「新宿」「渋谷」「秋葉原」の「ゆうメンタルクリニック」と池袋の「ゆうスキンクリニック」の総院長で、漫画原作者としても活動。

ブログ:ゆうきゆうの心理学ステーション

――中二病に関する論文を探してみたのですが、まったく出てきませんでした。研究は行われていないのですか?

advertisement

 はい、精神医学的に「中二病」という病名が存在するわけではありません。知っている限り、学術的な研究もないはずです。

――中二病は病気じゃないんですか?

 精神医学的な病気は、「日常生活に困難を抱いているかどうか」がポイントになります。「中二病のせいで周囲から浮いて、勉強や学校活動などにおいて困難が生じている」という状況であれば問題ですが、そのような状況はほぼないため、病気にはなりえないのではないでしょうか。自分が中2のときは周囲も中2ですから、そこまで浮くことはないかと。

 大人になって思い出したときに「あああっ!」と頭を抱えてしまう点は悩ましいですが、それで社会生活が送れなくなることはないので、問題ないと思います。

――中二病が起こるメカニズムは、どのようなものなんですか?

 現実逃避というか「自分はこうあるべき」という願望から起こっている可能性が考えられます。

――中二病に類似した心の病気や症状はないんですか?

 強いて言えば、現実ではないものを現実だと思い込んでしまう「妄想」に似ていると考えます。

 中二病になると「自分は魔王だ」「自分は勇者であり、世界を救わなければならない」といった考えを抱き、それに行動が左右されることがあります。もちろん、最初はフィクションのつもりが、いつの間にか信じてしまうこともありえますね。

中二病患者は、ある種の「能力者」なのかも……?

 先生によれば、日常生活が困難になるとまでは考えられないことから、精神医学的には病気として扱われないそうです。「中二病を苦にしている患者さんは来ますか?」と聞いたところ、「皆無です」とのことだったので、あまり深刻な事態にならないのが一般的なのかもしれません。

 ですが、治せるものなら治したいという人もいると思い、さらに質問。その結果、中二病の意外な側面を知ることができました。

――中二病の治療方法はありますか?

 現実を知ることでしょうか。そのためには日記を書くことを勧めます。

 ただ夢想世界には悪い面ばかりではなく、前向きなエネルギーにつながることもあります。現実に問題がないのなら、ぜひそのままで。

――中二病には良いところもあるんですか?

 例えば「自分は勇者である」とプラスの思考が生じて、「だからもっと勉強しないと」など前向きに行動できるなら、良いことですよね。

 私の話になるんですが、学生のとき「自分は、魔界に住む魔物たちと戦うヒーローだ」と考えていました。そして、「魔物とのトーナメント表」を作って「勉強をこれだけやったら、この敵に勝つ」と勉強の原動力にしていました。何度も勝利して優勝すると、参考書が一冊終わっているわけです。

 飽きてきたら「天使界トーナメント」「悪魔界トーナメント」とバリエーションをつけ、その積み重ねでなんとか大学に合格できました。まあ、周囲に「こんなことやってるよ!」「俺はヒーローだ!」と吹聴することはありませんでしたが、今になって考えるとけっこうアレだったかと思います。

 とはいえ、それを利用して合格はできたわけで、結果オーライではないでしょうか。みなさまも中二病を「いい方向」に向けていただければ幸いです。


画像

 中二病の力で、大学に受かる……だと……(ちなみに、先生は東大医学部出身です)。

 ネガティブなイメージを持たれがちな中二病。本当は、現実離れした空想からパワーが生み出せる「人間に秘められた不思議な能力」だったのかもしれません。ただし、アニメや漫画に登場する魔法のように良くも悪くも使えてしまうので、「能力者」の皆さんはコントロールにご注意を。

マッハ・キショ松

関連キーワード

病気 | 論文 | 中学校 | 医学 | 専門家 | 症状 | 心理学 | 中高生 | 妄想

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2503/31/news050.jpg 自宅の犬小屋に住み着いた野良猫、1年後の姿に「泣いた」と大反響 それからどうなった?現在の様子を聞いた
  2. /nl/articles/2503/31/news073.jpg 100万円の“錦鯉”を自宅の池に入れたら…… 「おかしいでしょ」3日後、まさかの事態に「鯉は難しい…」「信用が大切ですね」
  3. /nl/articles/2504/01/news111.jpg 中村江里子、20年間住み続けるパリ自宅が“ぶっ飛び”すぎていた! 4メートル高天井&来客のド肝抜くデザイン尽くしに視聴者「日本の既成概念からは遠い」
  4. /nl/articles/2504/01/news124.jpg 松屋が、松屋を……! エイプリルフールに企業公式の投稿が続々→“楽しいウソ”に「コレは笑える」「素敵なコラボ」【エイプリルフールまとめ】
  5. /nl/articles/2504/01/news118.jpg 四肢欠損のママタレ、育児動画に誹謗中傷で1カ月超の“沈黙”……4歳娘への書き込みが「最も胸に突き刺さった」
  6. /nl/articles/2504/02/news031.jpg 英国人女性と出会った男性→8年後…… まさかの姿に反響 「めちゃくちゃ垢抜け!」「爆イケに!」
  7. /nl/articles/2504/01/news102.jpg 第5子妊娠の辻希美「昨夜から中学生が6人泊まりで来てまして」 食べ盛りの子どもたちに“大量に作ったごはん”が圧巻
  8. /nl/articles/2503/31/news036.jpg ペットショップで売れ残っていた5万5000円の柴犬→お迎えして半年後…… “一目瞭然の姿”が240万表示「うるってなった」
  9. /nl/articles/2504/01/news015.jpg 散歩中、愛犬が拾った“まさかのもの”に「どうすんのコレww」 飼い主もビビった“ホンモノ”「え?」「大手柄だね」
  10. /nl/articles/2502/14/news033.jpg コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 福袋に入ってた“定価3万円”の高級魚を大事に育てたら…… 「やりやがったな」涙する結果に「すごい」「ほんと感動」
  2. 「日本人だけが感じる絶望」 職場に置かれたドーナツ → “抹茶味”かと思いきや…… “まさかの事実”に反響「怖くて泣いちゃった」「笑いました」
  3. 自宅の犬小屋に住み着いた野良猫、1年後の姿に「泣いた」と大反響 それからどうなった?現在の様子を聞いた
  4. 「全てが完璧」 無印良品の“1990円バッグ”に称賛続出 「やっぱりこれ」「文句なし」「使い勝手抜群」
  5. ペットショップで売れ残っていた5万5000円の柴犬→お迎えして半年後…… “一目瞭然の姿”が240万表示「うるってなった」
  6. “有吉弘行も大ファン”の「伝説の女装愛好家」が死去 亡くなる2日前に「志半ばにして逝きますが燃え尽きる思い」とメッセージ
  7. 普通のクリップを2つつなげるだけで…… あると助かる“便利グッズ”に大変身 「マジで!」「素晴らしいアイデア」【海外】
  8. 皇后さま、服から靴まで「ロイヤルブルー」 天皇陛下のネクタイとの“おそろいコーデ”
  9. 「大当たりでした」 ユニクロ新作“9990円アウター”が売り切れラッシュの大反響 「今までと全く違う」「大切に着たい」
  10. 「これはうれしい」 引っ越しのあいさつでもらった手土産、開封したら…… “センス抜群の中身”に「参考にしたい」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 【べらぼう】“問題のシーン”、「子供に見せられない」 身体張った27歳俳優へ「演技やばくない?」
  2. 「恩師ビックリするやろなぁ」 中学3年で付き合い始めた“同級生カップル”が10年後…… まさかの現在に反響
  3. 「本当に迷惑」 宅急便の「不在連絡票」と酷似のチラシが物議…… ヤマト運輸「配布中止申し入れ」
  4. 「うそでしょ!?」 東京ディズニーランド、“老舗”レストランの閉店を発表 「とうとう来てしまったか」「いやだああああ」と悲しみの声
  5. 雑草ボーボーの運動場に“180羽のニワトリ”を放ったら…… 次の日、まさかの光景に「感動しました」「すごい食欲」
  6. 40歳・女性YouTuber「18年間、脇毛を処理していない」→“処理しない理由”語る 「脇のみならず……」
  7. コメダ珈琲店で朝、ミックスサンドとコーヒーを頼んだら…… “とんでもない事態”に爆笑「恐るべし」「コントみたい」
  8. 息子の小学校卒業で腕を組んだ34歳母→中学校で反抗期を迎えて…… 6年後の姿に反響 「本当に素敵!」「お母さん、変わってない!?」
  9. Koki,、豪邸すぎる“木村家の一室”がウソみたいな広さ! 共演者も間違えてしまうほどの空間にスタジオビックリ「コレ自宅!?」「ちょっと見せて」
  10. 使わない靴下をザクザク切って組み合わせると…… 目からウロコの再利用法が2500万再生「とてもクリエイティブ」【海外】