プロ棋士もハマった恋愛番組「バチェラー・ジャパン」とはなんだったのか 広瀬八段×久保裕丈、異色の特別対談(2/2 ページ)
広瀬「羽生さんは、持ち時間の長い勝負ではずっと相手を観察している」
ところで広瀬さんのご結婚のきっかけはどんな感じだったんですか。
きっかけはあれですね。ありがちな、将棋好きが集まる飲み会があったんですね。
そのときは奥さんのほうからいかれたんですか。
最初は何もなかったんですが、それから何度か会う機会があり、最終的には私からということになりますかね。
おお〜〜。
若手棋士が集まる将棋ファンとの集いに参加したんですね。帰り際にすれ違って「ああどうも」くらいだったんですが、次の次の日くらいに「おとといいらっしゃってましたね」と連絡があって。
はいはいはい。
――すごい具体的な話になってきましたね。
やめようやめよう(笑)。でも最初で最後ですよ、こんなにグイグイいったのは。今まで来られることはあっても、そうすると一定距離を保っちゃうのが自分の悪いところで。
積極的になれたのは何がきっかけだったんですか?
結婚願望が急激に上がったというのがあります。1人暮らしを5年くらいやったんですが、30歳も近いし、ちょうど周りの結婚ラッシュもあって……。
そこはこう、「すごい好みだったんで」とか言わないと!
すごい話しやすい雰囲気だったからとかね(笑)。どうして今聞いたかと言うと、最近実際に相談を受ける機会があって、「好きな人ができてもあんまり積極的にいけない」「好きな人の前だと全然自分が出せなくていつも喋れなくて終わっちゃう」とかよくあるんですよ。僕は「まず脱力しましょう。うまくいくはずがないという前提から入るとそんなガチガチになることはないよ」と言うんですけど。広瀬さんはどうだったのかなと。
私も自分に期待していなくて、「まぁダメだろうな」と思いながら連絡したら……というまさに脱力ですね。
私も「どうせ無理だろうなぁ。お友達になれればいいな」という感じで、まさに脱力でした。
本を読まずして自然と実践されていたんですね。よかった(笑)。
――証明されましたね。結婚の話でいうと本では「メリットってなに?」という質問に久保さんも「俺が知りたいよ」と答えていました。
結婚のメリット……あまり考えたことなかったですね。とはいえ、今まで1人で気楽にやってきたのが、今は妻がいるので腑抜けた将棋は指せないなと気が引き締まりますね。まぁ結婚して成績落ちてるんですけど……。
そんなことないよ!
本の「違和感を覚えたら引き返した方がいい(※)」が気になったんですが、ビジネスはともかく恋愛でそうなるのはどんなときですか。
※「質問39:彼女に冷めてしまったときの正しい対応は?」に対し、ビジネスの視点で言えば完全に別れるべきと回答していた
恋愛だと元カノ、元々カノとかも含めて大体結婚したいなと思って付き合っていて、違和感を覚えたことはなかったですね。その前とかどうだったっけな(小声)。
――CAと遊ばれていた時代ですね……(※)。
※詳細は「その恋はビジネス的にアウト」をご覧ください
非常に若かりし頃です(笑)。それでいうとお付き合いの直前までいったところで「実は恋人が海外にいて別れるから付き合って」と告白されたケースでは引き返しましたね。ちょっと待てと、むしろその恋人がかわいそうだし。恋愛時の違和感は直感的なものですね。
――将棋でも直感的な違和感はありますか。
よくありますね。棋士の場合は、指した指を離した瞬間に「あれっ?」と思うことがあります。もちろん「待った」はできないんですけど、ふと離してみたら気が付いちゃうんですね。
勝負中、盤面以外の外部情報を考慮することってあります?
たまにあります。例えば視線。こっちが劣勢でちょっと追い上げているとき、相手の目線が向いている局面とあえて逆の方に指すとか。常識的な手といわゆる勝負手は織り交ぜたりしますね。将棋は劣勢になると相手がミスをしない限り負けてしまうゲームなので、ギャンブル的な要素はどうしても必要です。
――普通に進めたら負けちゃうところで勝負手をやると。
ちなみに羽生さんは、持ち時間の長い勝負ではずっと相手を観察しているんです。飲み物なに頼んだのかなとか、こっちが眼鏡を外したら自分も外したり。明らかに相手に合わせているのが分かります。タイトル戦ではずっと行動を共にするので相手が何をしているのか何となく分かるようになってきます。恋愛じゃないですけど。
――深浦恋愛流(※)という言葉もありますしね。広瀬さんは以前、得意戦法(※)を封印して別の戦法を採用しましたよね。久保さんにも伺いたいのですが、新しいことをやると決断するとき何を重視していますか。
自分のときは公開対局で得意戦法を使ったらボロ負けしたんですね。
誰にですか。
羽生さんです。
(笑)。
それでいっそスタイルを変えてみようと決めました。今までもいろいろな先輩方が方針転換したのを見てきたので、自分もそういう時期に差し掛かったんだなと。
――一時的には今まで培われてきた経験が使えなくなりますよね。
新しい戦法はやっぱり本番である程度やらないと自分の身にならないんですね。だからうまくいかないときもありましたが、高い授業料だと思ってやってました。
自分の飯の種を丸々変えるのはとんでもなく大変ですよね。僕の場合、新しいことに挑戦する基準は面白そうかどうか。あとは今の自分がやっていることとの距離感を考えます。これが遠いほど、また内容がシビアなほどやりきったときに得られるものが大きい。「面白そうで距離感があって大変そう」――これが新しいことをやるときの決め手かもしれないです。
バチェラーはまさにそういう挑戦だったんですね。
広瀬「久保さんの考え方は将棋指しみたいですね」
――いよいよ決断の話に入ってきていますね。そこで疑問なのが、例えばAとBの選択肢があって、片方を選んだときに後悔することはありますか。
それはやっぱりあると思いますよ。でも後悔しても仕方がないので、選択後の最善策をひたすら考えるしかない。また判断を誤ったと感じるなら、それはなぜなのか。自分の中で今後どんなチェックポイントを設ければいいのかを突き詰めますね。
将棋も同じで、対局中はどんなに悪い手を指しても終わるまでは後悔しないようにとよく言われます。引きずって対局中にプラスになることはないですからね。対局後の感想戦では対戦相手と振り返って敗着を考えるんですが、その作業は勝敗問わず一生懸命取り組むようにしています。今後、同じ局面が現れることはほぼないとはいえ、自分で指した手のロジックを検証するのは大切です。
恋愛でも全く同じ相手に二度出会うことは絶対ないじゃないですか。でもどうして判断を誤ったのかという根っこの部分については実は一緒だったりする。飲みすぎただの、性欲に負けただの(笑)。そこを抽象化できれば次に生かせます。
われわれ将棋指しにとって敗着を見つめることは習慣というか、仕事においては苦にならないですが、恋愛やプライベートで嫌なことを振り返るのはつらいものです。
それでも判断を誤った自分の愚かさを見つめないといけないんですよね。
――つらい気持ちとの向き合いかたについてはどうですか。すぐに解消するのか、あるいは時間に任せるのか。
へこんだときはまず客観視しますね。へこんでいる自分を認めた上で、なぜそうなっているのか解きほぐしていく。その過程で意外と落ち着いてくるんです。『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー)に、外部からの刺激に対してどう反応するかは自分自身に残された最後の権利というのがあって、「怒る」「悲しむ」といった感情も結局は自身が決断した結果なんです。だから原因を探ることは大切です。
久保さんの考え方は将棋指しみたいですね。終わって「はい、負けた。さよなら」となる人は絶対強くならない。一度立ち止まって自分を客観視できる久保さんは間違いなく将棋に向いてますよ。
ありがとうございます(笑)。
――最後に聞きたいのですが、一度決断したことを支えるもの、意志の持続については何が重要だと考えていますか。
ビジネスだと「ステークホルダー」っていいますけど、周りにいる方たちにどれだけちゃんとお返しができるのかは考えますね。何かを決断したときに自分だけで完結することはあまりないと思うんです。僕はサボり癖もあるので自分一人のことだともう全然ダメですね……。バチェラーもスタッフさんを含めて周りの方が多数いたから最後まで投げ出さずにできました。
子どもの頃から多くの人にお世話になっているのでその恩返しに近いですね。プロになりたての頃は「自分だけのことではない」と理屈では分かっていても真剣には受け止めていないというか、どんどん攻めてそれが途切れたら負けましたと。今は結婚もして、いよいよそうはいかなくなったので、自分の決断を支えるためには結婚というのも1つの好手なのかもしれません(笑)。
なるほど……大変参考になりました(笑)。
書籍情報
35歳独身/イケメン/東大院卒/そして億万長者!!!
2017年、最も注目されたネット番組「バチェラー・ジャパン」で
世界中の女性をくぎづけにした「初代バチェラー」が
ビジネス的な8つの思考で、恋愛を指南します。
著:久保裕丈、イラスト:わかる 小学館
『その恋はビジネス的にアウト』
ISBN:978-4-09-388563-8
定価:本体950円(税別)
四六判 並製
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