「浮気調査はおいしいから取り合いになる」「尾行は素人には100%無理」 意外と知らない“探偵のお仕事”について聞いてきた(後編)(2/2 ページ)
でも、例えば被害者が自殺等で他界している場合、親から証拠を集めてくれと依頼されて、仮に証拠をつかめても救える子がいません。
――既に亡くなっていますもんね……。
名誉を回復して、賠償金が取れたとしても、本人を救えないわけです。われわれは「今いじめられている子」を助けたい。よって、被害者が生きていれば無料、亡くなっている場合は有料という線引きをしています。
――何がキッカケでいじめ調査を始めたんですか?
新聞に紹介記事が大々的に載ったんですよ。探偵がいじめの調査をしているって事例として掲載されまして。そしたら、いじめ調査を始める探偵社が激増しました。それまでやったこともないのにやってますとか、経験豊富ですとか言い出すところも多かったですが。
うちの事例が盗まれたこともありました。あまりに無法地帯になっていたので、そのうち事故が起きるぞ……と心配していたら二次被害が起きました。校門の前で下校してくる生徒に片っ端から顔写真を見せて、「この子、いじめられているんだけど知らない?」って聞きまくるとかバカなことをしたり、いじめっ子の家に乗り込んで暴力をふるって逆に問題をこじらせる探偵社が現れたり……。
――問題解決どころか、泥沼化しているような。
そのうち、こじれた失敗案件がうちに回ってくるようになりました。で、気付いたんです。うちが新聞に掲載されたことが根本の原因だと。この風潮をどうにかしたいと思い、「第一人者の自分が無償にしてしまえば他社が追随しなくなる」と考えてそうしました。あと、社会貢献的な意味合いも込めてはいます。
――無償とはいえ、コストとか人件費はかかりますよね。
そうです。従業員には報酬を払うし、経費はうちが負担します。寄付をいただくこともありますが、持ち出しもあります。
――いじめ相談って多いんですか?
殺到してます。全国から依頼があり、多すぎて処理しきれません。
――いじめって小中高……までですよね?
それが、大学でもいじめはあります。
――あるんだ……。
ただし、無償で請ける大学生のいじめは「2年生」まで。
――なぜに2年生まで……?
20歳を越えると、「もう大人でしょ? 大人のいじめは自分で解決しなさい」って言います。「大人なら稼ぐ力あるでしょう。あなたは自分で払いなさい。そしてそのお金を未成年に還元してくださいね」ということで有料になります。
命を救ったエピソード
――人の役に立ったなーとか、後味が良かったなーってエピソードがあれば聞かせてください。
遺書を残して失踪した会社員男性がいたんです。奥さん、親族、同僚の方々が必死に探しても見つからないので相談を受けました。で、われわれは数日で居所を突き止めました。
――あっけなくないですか? 失踪ってもっとこう、雲をつかむような……途方に暮れるものなんじゃないですか。
身柄を押さえたとき、本人は自殺するつもりだったようです。ただ、直前に怖くなって、死にきれず、取りあえずコンビニに行って酒買って飲んでいたら、死ぬのがばかばかしくなってきたそうで。
でも、いまさら家族のもとには帰れないし、自分はダメ人間だ……やはり死ぬしかないのか……って逡巡(しゅんじゅん)してたんです。手帳を見せてもらったところ、「明日死のう」って書いてありました。
それから、われわれの車に乗せて話を聞きながら自宅に向かいました。無事に家族に再会して、「死ななくてよかった。見つかってよかった」と感謝されました。
――見つけていなかったら死んでいたのでは……。
たぶんそうでしょう。似た案件は日常茶飯事ですが、依頼者と対象者の両方から感謝されるのはうれしいですね。
――浮気や不倫の調査では両方から感謝されませんもんね(笑)。
修羅場ですよ。現場に乗り込んで来る奥さんとかいますからね……。われわれはリアルタイムで状況をクライアントに伝えるので、怒りに任せてタクシーでかけつけることもあるんですよ。奥さんと不倫相手が「ちょっかい出しているのはてめえか!」「なんだとクソババア!」とか罵り合うのに居合わせるのはいろいろツラい。旦那さんは隅っこでシュンとしてるし……。
――あ、聞いている私も同じ男としてつらすぎて聞いていられません(笑)。本日は貴重なお話、ありがとうございました!
中山順司(なかやま・じゅんじ)
ロードバイクをこよなく愛するオッサンブロガー。“徹底的&圧倒的なユーザー目線で情熱的に情報発信する”ことがモットー。freee株式会社勤務&経営ハッカー編集長。ブログ「サイクルガジェット」運営。
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