「GODZILLA 怪獣惑星」ネタバレレビュー 実質“まどか☆マギカ1〜3話”だった
ネタバレ注意。
「ゴジラを虚淵玄脚本でアニメ化」とのニュースが飛び込んできたとき、正直なところ、嫌な予感しかなかった。
本作の企画のスタートは2014年。ハリウッドで制作されたギャレス・エドワーズ版「GODZILLA」が世界中を席巻し、同年12月に発表された「シン・ゴジラ」の製作決定とおそらくは同時期。
ワーナー・ブラザーズが展開するモンスター・ユニバース・シリーズのヒットを受け、「FINAL WARS」以降打ち切られていたゴジラ・フランチャイズを国内向けに実写化、そしてNetflixの力を借りて海外向けにアニメ化することで、あらためて「日本のゴジラ」をアピールすることができると考えたのだろう。
アニメ化のニュースが発表されたのは2016年8月19日。7月末公開の 「シン・ゴジラ」 が週を追うごとに興行収入を倍増させ、これはただごとではない、という空気がメディアやSNSを包みはじめたまさにそのさなかだった。
思えば「シン・ゴジラ」の発表時もけんけんごうごうたるありさまだった。「今更ゴジラ?」「なんで庵野秀明?」と思ったのを覚えている。CG全盛のこの時代、しかも「ギャレゴジ」のみならず、ギレルモ・デル・トロの「パシフィック・リム」という「ハリウッドのオタクが大資本のもと本気で作ったカイジュー映画」をまざまざと見せつけられてしまったあと、果たして日本映画に何ができるのか? と。
しかし庵野秀明は予想をはるかに超える素晴らしい作品を作りあげた。初代の視点に立ち返り、まさしく今の日本人のための、特撮SF恐怖映画として「ゴジラ」をよみがえらせたのだ。しかしもちろんその成功は、結果としてアニメ版のハードルを著しく上げることになった。公開から1週間がたった本作だが、さてどうだったのか。と、その前に。
圧巻のプリクエル・小説版「GODZILLA 怪獣黙示録」
「怪獣惑星」の公開に先立ち、その前日譚となる小説『GODZILLA 怪獣黙示録』が発表されている。
小説版では地球に初めて怪獣というものが現れ、人類がいかにして彼らにあらがい、そして敗北し、地球を去ることになったか――について、世界各地の生還者をインタビューしたデータ、という体裁を取っている。
形式としては小説版の『WORLD WAR Z』であり、同時に作中冒頭・カマキラスがツインタワービルを破壊するシーンに象徴されるように「怪獣が存在した場合のif歴史=歴史の語り直し」と読めば、名作コミック『ウォッチメン』の派生ともとれる。
例えば作中の「ヘドラ」の章をとってみれば、2005年11月の中国にて生物化学兵器の暴走により数百・数千万人が避難するも死亡、とある。現実世界でも時を同じくして同年同月13日、吉林省で石油化学工場の爆発・有害物質の河川への漏えい事故が起き数万人が避難している、といった具合だ。
著者は過去、「オブザデッド・マニアックス」「勇者と探偵のゲーム」といった、確立されたジャンルへの愛を込めたパロディーを行いながらも、しかし同時にジャンルそれ自体の批評を行う作品群が評価されている大樹連司。
本作もそこかしこに過去のゴジラ・シリーズや怪獣映画のオマージュやパロディー、更には企画段階のボツネタまでもを縦横無尽に折り込みながら、人類が敗北に追い込まれていくまでの過程を緊迫感をもって描ききっている。
「怪獣惑星」でもこのような状況に至った経緯ならびに各地を襲う怪獣の存在は示唆されるものの、人類が怪獣に対し反撃ののろしをあげ始め、怪獣を克服できると思い始めたところに「やつ」が現れ、全てを破壊し、じゅうりんしていく絶望感は本作の描写のほうが色濃く、リアルで、破壊的だ。既に劇場で見たという方も、こちらはぜひ手にとってほしい。
「GODZILLA 怪獣惑星」第1部のプロット
さて。まず、本作は3部作である、ということを伝えておく必要がある。
既報の通り、第2部「GODZILLA 決戦機動増殖都市」の公開が予告されている。つまり、本作においてゴジラとの戦いに決着はつかない。そのことを踏まえたうえで、以下がネタバレを含む本作のプロットとなる。
半世紀に渡る怪獣との戦争の末、 異星人種・エクシフ、ビルサルドとの協力もむなしく地球を手放す結果となった人類は、5000人を収容する恒星間移民船アラトラムにより「くじら座タウ星e」への移住計画を実施。長期にわたる亜空間航行、次第に尽きていく食事と水、密閉空間のストレスに伴い乗組員たちは生気を失っていく。
これに対し、主人公・ハルオはエクシフの司教・メトフィエスを通じて船内の機密データ・アクセス権を取得。「対ゴジラ戦術案」の有効性を示すデータを公開し、高まりだした地球帰還を求める声のもと、彼らは地球に戻る。が既に2万年が経過し、環境の激変していた地球に帰還したハルオらを迎えたのはゴジラの「あの」咆哮だった。
空を覆う小型怪獣に苦戦しながらも、ハルオたちは作戦を遂行しゴジラを撃退。と思ったもつかの間、すぐさま先ほどの個体をはるかにしのぐ巨大なゴジラが再出現。やつこそが地球を滅ぼしたゴジラだった。ハルオは特攻するも、ゴジラに押しつぶされてしまう。
次に目を覚ましたハルオの前に現れたのは謎の少女。彼女は誰なのか? 明かされないまま、ここで映画は終わる。
虚淵玄の作家性
本作を単体で評価するのは難しい。ゴジラのまったく新しい造形や3DCGによるキャラクターの造形は確かにスクリーンで見る価値のあるものだ。しかし人物像の掘り下げは薄く、シナリオは通り一辺倒とかなり弱い。
述べた通り、本作の脚本は「まどかマギカ」の虚淵玄であり、いうなれば本作は「『まどかマギカ』の3話まで」だ。彼の作家性は「翠星のガルガンティア」や「鬼哭街」にも現れていた通り、既存ジャンルの融合と変革、そして後半に訪れる価値観の転換、すなわち優れたツイストにある。
ゴジラはときに核兵器と空襲のメタファーとして登場し、さらには環境破壊に怒る地球の化身、太平洋戦争の英雄たちの亡霊、原発および津波災害――など「時代の恐怖」として用いられ、またときには地球を守る怪獣プロレスラーとして「平成ゴジラ・VSシリーズ」、海外版アニメシリーズ「ザ・シリーズ」において活躍してきた。
今回の彼は樹木や化石を思わせるその表皮に見て取れる通り、地球そのものの化身として人類の前に立ちふさがる。作中のメトフィエスの言葉を借りれば、彼は「技術の発達と慢心の結果」に訪れ、その驕りを踏みつぶす審判である。ビルサルドのメカゴジラが起動しないところからも表されている通り、つまりこれは科学の進化、環境破壊に対する因果の応報であり、彼を倒すことが不可能であることが作中に明示されている。
しかし主人公のハルオは、ゴジラに地球と家族を奪われ、「ゴジラを倒し」「取り戻す」ことに取り憑かれた、「鬼哭街」の濤羅にも似たステレオタイプな復讐の鬼だ。
「シン・ゴジラ」において庵野秀明はゴジラとの歪なかたちでの共存を描き、物語を終えた。彼が作中で凍らせたのはゴジラであり、核の炎であり、人類が生み出した制御不能な破壊技術だ。「シン・ゴジラ」の見事な問題意識のあと、まさかゴジラを倒してチャンチャン、といった作品を出してくるとは思えない。
その布石ともいえるのが主人公の名前だ。ゴジラ映画においての「ハルオ」といえば、思い当たる人物は一人しかいない。 彼の果たした役割を知っている方なら、今後の展開について思い浮かぶものがあるだろう。そして本作の物語のスタート地点がある作品と酷似していることは明らかだ。また一見主人公を導く役割であるメトフィエスだが、その名の由来も不穏を煽るものだ。だが、いやしかしまた、それらもブラフで……等、考え出しても始まらない。
本作の監督の1人である瀬下氏は本作のオファーを受け、当初は一言で「無理」と述べた。今回の製作はまさに怪獣に立ち向かうようなものだろう。いかにしてこの物語に決着をつけるのか? 続編に期待する。
(将来の終わり)
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※重大なネタバレあり。
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