ニュース
» 2017年12月17日 18時00分 公開

70歳の妻が「妊娠しました」 マンガ『セブンティウイザン』には出オチで終わらない“出産のリアル”がある

「虚構新聞・社主UKのウソだと思って読んでみろ!」第87回。70歳で妊娠という奇抜設定が妊活・子育ての普遍性を教えてくれる作品。

[虚構新聞・社主UK,ねとらぼ]

 ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。

 最近、「出オチマンガ」が多い気がしませんか? 「そんなはずあるか」というような奇抜な設定のおかげで、最初はインパクトが強くて面白いけど、それに慣れてしまうとワンパターンになってしまって読む気が落ちる――そんな作品です。

 この種の出オチマンガが増える背景には、マンガアプリの普及にともなって書籍化される作品が膨れ上がったため、毎日目まぐるしく変わるようになった書店のラインアップの中で少しでも目立とうと、「とにかくインパクト!」「とにかくセンセーショナル!」といった話題性を重視する出版社の思惑がありそうです。

 とはいえ、インパクトだろうとセンセーションだろうと、ちゃんと筋が通った面白い内容であれば、あくまで作品に触れるきっかけにすぎないので大いに結構なのですが、実際には1巻でネタを出し尽くしてしまい「読み切りで十分だったのでは」と思ってしまうマンガが多いのも実情です。マンガを描くって難しいですね。

 さて、今回はそんな奇抜な設定で始まりながら、力尽きることなく着々と作品世界を積み上げている実力派の作品をご紹介します。新潮社のマンガサイト「くらげバンチ」にて連載中、タイム涼介先生の『セブンティウイザン 〜70歳の初産〜』(〜3巻、以下続刊)です。

セブンティウイザン レビュー 漫画 くらげパンチ タイム涼介 『セブンティウイザン 〜70歳の初産〜』(連載ページはこちら

“齢七十の妻が妊娠”以外はごく一般的な妊活・子育て

 江月朝一、65歳。出世を望まず、同僚とも疎遠がちで、自らの人生を「何もない、つまらないものだった」と振り返りながら、定年退職を迎えたその日、帰宅した彼は妻の夕子から衝撃の告白を受けます。

 「妊娠しました

セブンティウイザン レビュー 漫画 くらげパンチ タイム涼介 「妊娠しました」。戸惑う朝一

 5歳上の妻から告げられた「妊娠3カ月」という言葉にうろたえる朝一。「お… 俺の子か?」「高齢出産ってのは高齢者が出産することじゃないんだぞ」「35才から高齢出産なんだぞ」「お前は70才だ それこそ高齢者出産だ」など、狼狽(ろうばい)するあまり割とひどいことを言い続ける朝一ですが、夕子の産む決意はまったく揺るぐことはありません。

 本作は齢七十にしてまさかの子どもを授かった夫婦の奮闘を描く育児マンガ。まさに「そんなはずあるか」な設定で始まる、出オチをうかがわせる作品でありながら、しかし11月発売の最新3巻まで失速することなく、非常に読ませる内容になっています。

 本作が単なる一発ネタにならず、読み手を引き付ける理由は非常にシンプル。それはひとえに「出産・育児マンガとして極めて普通だから」に尽きます。実に奇をてらわない。「70歳の女性が子を身ごもる」という点を除けば(これこそが肝なので除いたらダメだけど)、本当に普通の子育てマンガと変わりません。

 社主は身ごもったことがないので、今回紹介するにあたり、どの程度内容が正しいのか知り合いの女性に尋ねてみたところ「とてもよく描けている」とのことでした。例えば、赤ちゃんが母親の胎内でしゃっくりをするという事実も今回初めて知りましたが、そういう細かいところまで念入りに描いています。

 また、70歳の初産という、本当ならマスコミが大喜びして飛びつきそうな事件にもかかわらず、子育てにまつわるさまざまな出来事が、朝一・夕子夫婦と、数少ないけれども頼りになる理解者たちだけの慎まやかな日常の中だけに収まっているところも、余計にそう感じさせる一因でしょう。

 そういう意味では、出産や子育てを経験した人が読めば、当たり前のことしか描いていない作品なのかもしれません。しかし、その当たり前に「70歳の初産」というたった1つのフィクションをスパイスのように加えたことが、本作を当たり前でない作品へと昇華させました。

脳梗塞じゃないよ、つわりだよ! 「高齢者+妊娠」の異常性と普遍性

 「当たり前でない」とはどういうことか。

 例えば、つわりが来てうずくまった夕子を見て、朝一が「全然納得いかない… 脳梗塞ならしっくりくるのに…」と疑う不謹慎な感想や、「マタニティマークの字が老眼で読めない」という小ネタなど妙な説得力を持つユーモラスなシーン。

 またその一方で、出産間近の夕子がお腹の中の子どもに向けて「私は他のお母さんよりあなたのそばにいる時間がとても短いと思う」という遺言にも似たようなビデオメッセージを残すシリアスなシーン。どちらも「高齢者+妊娠」という組み合わせならではのイベントと言えるでしょう。

セブンティウイザン レビュー 漫画 くらげパンチ タイム涼介 高齢者の出産ならではのユーモラスなシーンも見どころ

 そのような見方をすれば、本作は「70歳の女性が出産を決断するとどうなるか」を現実的かつ丁寧に考えた、映画「シン・ゴジラ」のようなシミュレーションとしての側面も持っています。それは自然分娩を希望する夕子に対して、母体の体力を懸念した病院側が帝王切開を勧め、結局それを受け入れざるを得なかったことからも明らか。ドラマ的には、どう考えても自然分娩の方が盛り上がるにもかかわらず、です。

 さて、本作の物語はこの1年間の連載で妊娠発覚から出産を経て、既に子育て編まで突入していますが、特に近刊ではある奇妙な感覚に襲われることが増えてきました。2人が普通の若夫婦に見えてしまい、ふいに差し込まれる「高齢者あるある」でようやくはっと現実に呼び戻される、という感覚です。「亀の甲より年の功」と言いますが、試行錯誤しながら子育てに奮闘する様子は若い夫婦と何ら変わることはありません

セブンティウイザン レビュー 漫画 くらげパンチ タイム涼介 子育ての尊さに年齢は関係ないのだな、と

 とは言え、子育て編突入後も「赤ん坊を起こすまいと朝一がそーっと歩こうとするも、どうしても膝関節がパキパキ鳴ってしまう」「おむつ用ごみ袋をもらいに役所に行ったら、『大人用にも使えます』と言われる」などといった現実に即したさりげないユーモアは依然として魅力的。「70歳がまさかの妊娠!」というシュールな出オチ設定でありながら、実は「子育てに年齢など関係ない」という普遍性が見えてくる逆説感をぜひ味わってみてほしいです。

 今回も最後までお読みくださりありがとうございました。

(C)タイム涼介/くらげバンチ


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10

  1. /nl/articles/2208/15/news091.jpg 坂口杏里さん、「離婚は成立」と投稿 金銭貸し借り巡るDMさらし「これで終わり」「家族対1ってあまりに酷すぎる」とぶちまけ
  2. /nl/articles/2208/14/news053.jpg HIKAKINさん、イベント中に不審者に絡まれマイク奪われる 視聴者から「ガチの放送事故」「無事でよかった」の声
  3. /nl/articles/2208/11/news041.jpg この写真の中に“ドラえもん”が紛れています 難易度の高さに「ギブです」「ドラえもんは僕の心の中に」と諦める人続出
  4. /nl/articles/2208/14/news015.jpg 愛犬に「僕の子猫がいないんです」と呼ばれた飼い主 必死に探すワンコの姿に優しさと愛情があふれている
  5. /nl/articles/2208/14/news011.jpg マックのハンバーガーを食べる娘に「今日のお昼ごはん何?」と聞かれ…… 青ざめる父の1コマに「うちも言う」と反響続々
  6. /nl/articles/2208/15/news030.jpg 犬「頭なめさせて!」父「なめないで!(汗)」 ゴールデンレトリバーと父の攻防がどっちも必死で笑っちゃう!
  7. /nl/articles/2208/14/news028.jpg 3年ぶりの夏コミだー! 台風を吹き飛ばすコスプレ旋風、100回目の開催を彩るコスプレイヤーさんを全力レポート
  8. /nl/articles/2208/13/news074.jpg AIが描いた「台風が直撃したコミケ」の画像が大惨事 床はじゃぶじゃぶ、散らばる本……
  9. /nl/articles/2208/14/news014.jpg 拾ったときはシャム猫柄だったのに→「気付いたら全身黒くなっていた」 保護猫のビフォーアフターに「どっちも好き!」の声
  10. /nl/articles/2208/14/news016.jpg 「笑えるくらいかわいい」「反則技」「耐えられない」 柴犬の“お耳ピョコン”が850万回再生突破、国内外で大反響!

先週の総合アクセスTOP10

  1. 競技中とのギャップ! 高梨沙羅、キャミソール私服でみせた大胆“美背中”に反響 「背中ガッポリ」「魅惑の黒トップス」
  2. かわいい妹すぎ! 北川景子、義姉・影木栄貴の結婚で“お姉ちゃん愛”が爆発する 「姉がどこか遠くへ行ってしまう」
  3. 泣いていた赤ちゃんが笑い声に、様子を見に行くと柴犬が…… 優しくあやす姿に「最高の育児パートナー」の声
  4. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  5. 「若い君にはこの絵の作者の考えなんて分からない」→「それ俺の絵」 ギャラリーで知らないおじさんから謎の説教を受けた作者に話を聞いた
  6. 木下優樹菜、元夫・フジモン&娘たちとディズニーシーを満喫 長女の10歳バースデーを祝福
  7. 黒柴の子犬が成長したら…… 頭だけ赤色に変化した驚きのビフォーアフターに「こんなことあるんですね」「レアでかわいい」の声
  8. 子「ごめん、もう仕事できない」→母「はぁい了解っっ」 退職を明るく認めた家族のLINEが優しい
  9. スタバの新作が王蟲っぽくてファンザワつく 「怖すぎる」「キショいから買いたくなった」
  10. カナダ留学中の光浦靖子、おしゃれヘアのソロショットに反響 「お元気そうでなにより」「別人のよう」

先月の総合アクセスTOP10

  1. 安倍元首相、銃で撃たれて意識不明か 事件時のものとみられる映像投稿される
  2. 野口五郎、20歳迎えた娘と誕生日デート 家族同然の西城秀樹さん長女も加わり「楽しい時間でした!」
  3. 「大阪王将」店舗にナメクジやゴキブリが発生? 元従業員の“告発”が衝撃与える 大阪王将「事実関係を調査中」
  4. この画像の中に「さかな」が隠れています 猫に見つからないように必死! 分かるとスッキリする隠し絵クイズに挑戦しよう 【お昼寝編】
  5. ダルビッシュ有&聖子、ドレスアップした夫婦ショットに反響 「ハリウッド俳優やん」「輝いてます」
  6. 「auの信頼度爆上がり」通信障害でも社長の“有能さ”に驚く声多数 一方で「まだ圏外だぞ…」など報告続く
  7. スシロー、“ビール半額”で今度は「ジョッキが小さい」との報告? 運営元「内容量に差異はない」と否定
  8. スシロー「何杯飲んでもビール半額」開始前にPOP掲示 → 注文したら全額請求 投稿者「態度に納得いかなかった」 運営元が謝罪
  9. TKO木下、海外旅行先で総額270万円のスリ被害に エルメスの財布奪われた“瞬間映像”も公開「くっそ〜……」
  10. パパが好きすぎて、畑仕事中も離れない元保護子猫 お外にドキドキしながら背中に乗って応援する姿があいらしい