なぜ台湾人はハム太郎ソングでとっとこ走り回ったのか アニソンDJ界の流行「ハム太郎コール」、ルーツを探る(3/3 ページ)
「俺もー!」にメリゴーランド アニソン好きが築いたクラブカルチャー
興味深いことに、アニソンDJイベントで「ハム太郎とっとこ歌」が流れてフロアが「コールする」もしくは「ぐるぐる回る」ことは、今回の流行の前からちっぺさんは何度も見かけていたという。
実はこの「俺もー!」も回る行為も、昔からアイドルのライブ現場で培われてきたオタ芸が発祥。「俺もー!」はアイドルのライブやMCにおけるコールの大定番なのだが、アニソンDJ界でも曲中に「愛してる」や「好き」といった歌詞が含まれると、「俺も〜!」と叫ぶのが通例となっている。
例えば「カードキャプターさくら」の主題歌「Catch You Catch Me」のサビの終わり「こ・い・し・て・る♪」の直後に「俺も〜!」、「るろうに剣心」の主題歌「1/2」のサビで「愛してる〜(俺も!)愛してる〜(俺も!)愛してる(俺も〜!)」といった具合。ハム太郎でも「大好きなのはひまわりのたね」の「大好き」に呼応する形でコールしていたのだ。なんだか係り結びの法則みたいである。
ぐるぐる回るのも、「メリゴーランド」という定番オタ芸が存在する。「地球が回る」とか「目が回る」といった回転を意味する歌詞が流れたとき、複数人で輪を組んで回り出すものだ。例えば「スクールランブル」の主題歌「スクランブル」や「機巧少女は傷つかない」の主題歌「回レ!雪月花」などなど。
ハム太郎には2番で終始「とっとこまわるよハム太郎」「まわるとうれしいハム太郎」と回転する歌詞が登場する。特にメリゴーランドを意識せずに「とっとこ走る」イメージでみんな走っているだけの可能性も大きいが、メタル音楽のライブでサークルモッシュが発生するように、アニソンDJでぐるぐる回る行為はなんら珍しくないのだ。
ちっぺさんによると、ハム太郎でメリゴーランドが発生する様子はアニソンDJの活動を始めて間もない2007年頃から札幌でも見る機会があったという。「俺も〜!」やMIXはよりレア度は高くなるが、やはり現場で見かけたことはあった。
今回のハム太郎コールの流行は、曲を流したDJ、客の楽しむ姿勢、たまたま動画を撮影したすぱりださん、それを急速に拡散させるSNSの力、台湾のアニソン人気と、あらゆる要素が絡み合って生まれた。しかしその前に、この10年20年でアニソンDJイベントの現場においてDJと客が築き上げてきた土壌があったことは忘れてはならない。台湾で幸せそうにとっとこ走るあの光景は、ただの偶然ではなく、アニソンDJというクラブカルチャーのバトンをつないできたアニソン好きがいるからこそなのだ。
ひょっとするとハム太郎コールのブームは年が明けて収束していくかもしれないし、すでに「もう飽きた」と白けている人だっているだろう。それでもアニソンで熱狂する時空間は、DJと客がいる限り今後も続く。そして再びハム太郎コールのような狂気の瞬間が生まれ、またネットを「何だこれは」「楽しそう」と騒然とさせるかもしれない。
(黒木貴啓)
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