「乗り心地悪いなぁ」「なくさんといてな」 “乗り心地の悪さ”が心地いい、神戸須磨浦山上遊園「カーレーター」が愛される理由
タモリさんも愛したレア乗り物。
乗り心地の悪さゆえに人気を博しているという逆説的な乗り物が、兵庫県神戸市にある「須磨浦山上遊園」に存在しています。その名は「カーレーター」。その乗り心地を確かめに、カメラ片手に現地取材してきました。
須磨浦山上遊園の最寄り駅は、山陽電気鉄道本線「須磨浦公園駅」。須磨海浜公園というよく似た名前の駅があるので訪問の際は間違えないようご注意を。
駅を出た後は、乗り場からロープウェイに乗って目的地へ。ロープウェイを使わず、30分ほど山道を歩いて行くことも可能です。山から見下ろす須磨浦の眺めを楽しめるので、トレッキングが好きな人はぜひチャレンジしてみてください。
ロープウェイを降り、グオングオンとメカメカしい音がする建物の中へ入ると、カーレーター登場! 網カゴのような柵が設けられた2人掛けの椅子が、ベルトコンベアーに流されるままズンズンと斜面をあがっていきます。なんだか、子どものころに買ってもらった電気仕掛けのオモチャを思い出しました。
このカーレーターが開通したのは1966年(昭和41年)3月。ロープウェイを設置できなかった全長91メートル勾配25度の斜面を容易に往復するため設置されました。以来50年以上、安全のための幾度とないメンテナンスを経て、今日まで稼働し続けています。
かつては滋賀県でも稼働していましたが、現在はなくなってしまったとのこと。このため、須磨浦山上遊園は“今もカーレーターが現存している貴重な施設”として、これまで「ブラタモリ」をはじめ多数のメディアが取材に訪れているそうです。そうして全国へと情報が発信された結果、中には遠くの都道府県からわざわざ乗りにくるお客さんも。
それほど多くの人を引きつけてやまないカーレーター、果たしていかほどの乗り心地なのでしょうか。乗り込むや否や、ガタンゴトンと音を立ててカーレーターはベルトコンベアーの坂道をあがっていきます。うお、確かにこれはけっこう揺れる。そばにある持ち手をしっかり持っておかなければ、舌を噛んでしまうかもしれません。
人によってはこれを「乗り心地が悪い」と感じるかもしれません。確かに動きはじめこそ、稼働しているローラーによっていきおいよく身体を揺さぶられ、「まるでベルトコンベアーで出荷される荷物のような気分」「このままグラグラし続けたら乗り物酔いするんじゃないか?」と不安になってしまいますが、それ以降坂を登りきるまでは揺れがやや弱まり、なんだか人を傷つける意志のない、たとえれば不器用なお母さんが我が子を必死にあやしているかのような「やさしい乗り心地の悪さ」を感じさせられたのです。そういった意味では、この乗り心地の悪さにはむしろポジティブな印象さえ持ちました。
管理者の森さんによれば、お客さんからはしばしば冗談まじりに「乗り心地悪いなぁ」と言われる一方、「おもしろい乗り物やね」「なくさんといてな」という声も同じぐらい受け取るとのこと。カーレーターのメンテナンスは決して楽なものではなく、2011年のベルトコンベア交換時にはヘリコプター輸送による大規模な工事まで行われました。しかしそれでも、このカーレーターの乗り心地をいつまでも多くのお客に楽しんでもらいたいと言います。「この山に50数年、代々管理者に受け継がれながら今もあり続ける、それ自体がすごいことです。親からその子、そしてその孫までカーレーターに乗って楽しんでくれればうれしいです」とも、森さんは語ってくれました。
四季折々の風景とのんびりした空気を満喫できる、ここ須磨浦山上遊園。そんな中でカーレーターは間違いなくウリのひとつであり、足を運ぶための目的となり得る魅力を持っています。
ほかにも園内には、スペースインベーダーをプレイできるゲームセンターや360度のパノラマ風景を楽しめる回転展望喫茶店など、カーレーターに負けず劣らずの魅力が多数。さらに、全長268メートルの観光リフトは途中で旧摂津国・旧播磨国を表す国境線を越えることができる、郷土史ファンにとっては隠れた歴史スポットとなっています。来園の際はカーレーターだけではなく、こうした楽しみも体験しておきたいですね。
(エンジン)
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