地雷を探して15年 マインスイーパ日本最速プレイヤーが挑む“思考のスピードを超越した戦い”(2/4 ページ)
日本人初となるマインスイーパ界の「100メートル走9秒台」
―― マインスイーパを始めたきっかけは?
母親が遊んでいるのを見たのがきっかけでした。初プレイは小学生のころで、2003〜4年くらい。
―― 入り口は、よくある感じなんですね。やっぱり、お母様はうまいんですか?
いえ、普通です。今はスパイダーソリティアにハマってるみたいです。
―― あ、本当に普通のWindowsユーザーだ……!
ですが、私はそこから現在まで、休憩期間を挟みながらも14〜15年間、マインスイーパをやっていて、中学卒業ごろまでには上級で100秒を切れるようになっていた覚えがあります。
世界ランキングに参戦したのは、上級でsub50(※)が出るようになった2013年。翌年には「日本人初のsub40達成」という目標を立てて、頑張っていました。大げさかもしれませんが、sub40は陸上競技に例えると「100メートル走9秒台」のようなもので、TAプレイヤーにとっては実力の証となる節目の記録。昔は、ネット上に「人間には不可能なタイム」とうわさされていたような記憶があります。
※ 広義では、sub○○は「○○秒未満」の意。しかし、Windowsに付属していたマインスイーパでは、タイムカウントが0ではなく1から始まるため、「実際のタイム+1秒」で表示されており、この名残からsub50は50秒未満ではなく、49秒未満(Win版で50秒未満として表示されるタイム)を意味する場合も。よわぽんさんは、後者で使用している。
当時は、私よりも上位の日本人世界ランカーがいて、その人の記録は41秒台以下だったと思います。対して、私は44秒台。このころは毎日2〜3時間プレイして「今は負けてるけど、何とかして自分が先にsub40を取るぞ!」と頑張っていました。
そして、2015年のある日、私はついに38秒台クリア……。
―― お、いけたんですか!?
いえ、「38秒台クリアまで残り2マス」というところまでいったんです。片方に地雷があることは明らかだったんですが、盤面の数字ではどちらのマスなのか特定できませんでした。
いつもはこういう運任せの状況になったら、すぐに不確定なマスをつぶします。いくら考えても分からない以上、悩むだけムダですから。でも、このときはよりにもよって最後に出てしまって。
―― 50%の確率で日本人初の大記録達成、もう50%で地雷という……。
それで悪い方を引き当てて、ドカンと。絶望しました。さすがに泣きましたよ。
幸い、翌日には気持ちを立て直すことができて「めげずにプレイを続けて、もっと良い記録出すぞ! 絶対出してやるぞ!」とプレイ再開しました。
―― アツいエピソードですね。漫画だったら、この挫折をバネに長く険しいマインスイーパの戦いが始まりそうな……。
しかし、実際には1週間もたたないうちに38.15秒が出てしまって(笑)。
―― 何なんですか、その急展開!
ガッツリ決意を固めた直後だったせいで、このときは何だかうまく喜べませんでした。
その後もコツコツ練習を続けていたら、2016年には36.52秒、35.85秒、32.59秒と日本記録を1カ月間で立て続けに更新。最後に出した記録が、現在のハイスコアです。
―― 流れが早過ぎて、これはこれで漫画みたいな話ですね。
世界トッププレイヤーの「誰にもマネできない0.0何秒を削るテクニック」
―― マインスイーパTAの世界ランキングとは、どのようなものなんですか?
正式な国際団体があるわけではないのですが、全世界のプレイヤーによるTAランキングが掲載されている「Authoritative Minesweeper」というサイトが、コミュニティーとして機能しています。有志が申請記録のチェックなどを行い、草の根的に運営されている感じですね。
チート防止のためか、本名を出す必要がありますが、プレイヤー登録自体は誰でもできます。ただ、初級、中級、上級の最速クリアタイムの合計が100秒を切らないと、世界ランキングに載せてもらえません。初級2〜5秒、中級20秒台、上級70秒台くらいの実力が必要になると思います。
―― そのレベルで、やっとエントリーですか。
現在、この世界ランキングには約1400人が掲載されていて、トップに君臨しているのはKamil Muranskiさん(ポーランド)。ギネス世界記録にも登録されている人物です。
彼の現在の記録は38.65秒。これは上級単独ではなく、初〜上級の合計最速タイムです。
―― 「上級sub40=100メートル走9秒台みたいなもの」という話がありましたが、全部合わせてsub40ですか!
KamilさんはもはやTA界のレジェンドのような存在ですね。アイテム面でも影響が大きく、彼はロジクールの「MX516」というゲーミングマウスを使っていたらしいのですが、これと系統が近い「G400」「G402S」を採用しているトッププレイヤーは少なくありません。
私も「G400」を含むゲーミングマウスを10種くらい買って、使用感を確かめたことがあります。最終的にはROCCAT社の「Kone Pure」というものに落ち着きましたが。
マインスイーパはもともと欧米圏で人気があったようなのですが、近年は中国がメキメキと頭角を現していて、世界第2位は同国のプレイヤー・Weijia Guoさん(3種合計41.75秒)。私は現在、世界ランキング3位(3種合計42.26秒)ですが、このお2人は本当にすごいと思います。
一例を挙げますと、Weijiaさんには“彼にしか使えないテクニック”があるんですよ。
―― というのは?
マインスイーパでは「左クリックでマスが開く」と認識している人が多いかもしれませんが、より正確に言うと、左ボタンを押したときではなく、離したときにマスが開きます。だから、事前に押しておいてからカーソルを動かし、任意のマスで離すようにすると「押す → 離す」という工程が「離す」だけになり、1回あたり0.0何秒の短縮になります。
―― もしかして今「脳からの電気信号で指が動くまでの時間がもったいない」みたいな話してます?
でも、ちりも積もれば山となるというやつで、上級で繰り返し使えば1秒くらいタイムが良くなる可能性があります。
―― これのどこが難しいんですか? ちょっと気を付ければ、誰でもできそうなものですが……。
TA中、手では休みなくカーソルを動かしていますし、目では別の場所を見て、次に開くマスを探しています。そうやってフル回転しているときに、長年かけて体に刷り込んできた動作を改めるというのは、とても難しいことなんだと思います。私はもう、このテクニックを自分のものにすることは諦めています。無理なことをしてまごついてしまう方が、タイムロスになりますから。
ただし、フォローのために言っておくと、Weijiaさんのような強豪はこのようなテクニックを使わなくても良い記録が出ます。本当に強い人って、基礎的な能力がズバ抜けていて「ただ単純にうまい」「ただひたすらにすごい」みたいな感じなんですよね。プレイを見ていると、私でも頭が追いつかないことがあります。
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