「アンナチュラル」とは何だったのか? 最終話で描かれたもの、シリーズ全体を振り返る(2/2 ページ)

» 2018年03月23日 19時00分 公開
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総括

 最終話を見終えてあらためて思うのは、「このシリーズは『探偵と犯人のドラマ』ではない」ということ。だからこそ最終話の展開がさらに光ったのではないでしょうか。



 もし最終話に“最悪の犯人”を持ってこようとすると、犯人のドラマを重厚に書き込まなければいけません。そうなると起こりやすいのは、最終話やそれまでの展開で犯人の生い立ちや思想を描くことに時間を割いて、シリーズメンバーの思想対決になること。尺も半分半分になったりして、「この作品って、犯人が主人公だったっけ?」と思ってしまうことも。

 最終回前にSNSでファンが「黒幕はもしかしてシリーズキャラの○○なんじゃないか」と盛り上がっていたのも、このドラマのセオリーに影響されてのことでしょう。「全編を通しての強力なキャラ」や「味方の裏切り」といった“特権”を最終回の敵に与えている構造のドラマが多いので、視聴者はそのパターンを想定してしまう。

 金魚事件の犯人はあまり背景を描き込まれないので、探偵v.s.犯人という枠組みで見てしまうと「最終回の敵にしてはふさわしくない」と思い、黒幕を期待してしまうんですね。ただ、個人的には「行動原理に一切の曇りがないUDIメンバーの誰を黒幕にしてもこれまでの物語とテーマ的な整合性がとれないから、そんな展開はありえないだろ」と思っていましたが……。

 さて、本作は最終話の犯人に対し、「不幸な生い立ちに興味はないし、動機だってどうでもいい」と切り捨てています。金魚の事件は完全なる猟奇殺人だし、犯人はテンプレ的な悪で同情の余地もない。画面にも全然出てこない(笑)。意味深な動きをしていた記者の宍戸も分かりやすくクソ野郎でした。彼らはあくまでも装置にすぎない。「最大の敵」は、「最大の犯人」ではなく「最大の不条理」。1話の「無敵です」「敵は誰だ」「不条理な死」――というやりとりを最後まで貫いて1つのテーマに向き合った、1本の美しい長編でした。

 「アンナチュラル」はミステリ的な仕立てであり、ミステリを期待する視聴者の楽しみを満たしながらも、これまでミステリでは焦点が当たりにくかったことにきちんと向き合った作品でした。つまり、事件の謎を解くことの先にある「生き残った人たちの物語」。それを一通りではないパターンで描きつつ、10話を通してシリーズメンバー――特に六郎くんと中堂さんの成長をも描いてみせました。



 もう金曜日に「アンナチュラル」の新エピソードが見られないことが信じられない! 2018年はまだ3カ月しかたっていませんが、すごいものに出会ってしまいました。これを超える作品があと9カ月で出てくるんだろうか……?

 今すぐ2期もドラマスペシャルも劇場版も見たい! でも、法医学的な謎の作り方や、作品を通したテーマについて、これ以上足す必要がないくらい今シリーズで文句なく描かれてしまいました。「不条理な死と戦う」に対して、1期を超えたスタンスを見せることができるのか……非常にハードルが高いですよね。

 ファンの気持ち全開で言うなら、テーマとか一切なくても、UDIメンバーの楽しい掛け合いが見たい! 5分ドラマでもいい! 夏の島を旅する東海林とミコトとか、事件のない回とかでもいいです。もっと2時間ドラマ的なものでもいい。

 ですが、野木さんが本作でやろうとしていたのは恐らく「単なるミステリドラマを作ること」ではない。「アンナチュラル」というドラマを通して向き合っていた強い課題意識がある。野木さんの中で新しい問いとその答えを見つけないと、本当の意味での続編はないのでは。でも、野木さんほどの優れた作り手であれば、きっと見つけてわれわれに見せてくれると思います。

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