お姉様の映画話を聞き通せたらご褒美→説明下手すぎて寝落ち 『おやすみシェヘラザード』が映画レビュー漫画なのに百合だし対決モノで目が離せない

「映画レビュー寝落ちバトル百合エロ」というカテゴライズが成立してしまう、だと……!?

» 2018年04月24日 22時53分 公開
[正しい倫理子ねとらぼ]

 大抵の乙女にとって夜が短いことは周知の事実である。趣味に打ち込むにも、友人と昼間はできないナイショ話に花を咲かせるにも、どんなに長く夜を使おうとしたって最後は睡魔にさらわれてあっという間に日の出だ。

 篠房六郎『おやすみシェヘラザード』(やわらかスピリッツ)で描かれるヒロインも、夜を楽しもうと睡魔にあらがう乙女である。

 本作の舞台は由緒ある女子校・千夜学園。一年生の二都麻鳥(にと・あさと)は、付属の女子寮に関するとあるうわさを耳にした。いわく、「13号室には魔女が住んでいて、彼女の誘惑に乗ると、あれよあれよという間に失神させられてしまう」というのだ。乙女たちは想像する。それって具体的には何をされるの? もしかして、「怖い話」ではなく「エロい話」なんじゃないの? 部屋にいるのは本当はセクシーなお姉さまで、部屋にやってきた下級生との甘い夜を望んでいるのではないのか……。

おやすみシェヘラザード 漫画 映画 レビュー やわらかスピリッツ 篠房六郎 今作のヒロインであり語り部である彼女は、一体何を考えているのか?(第四夜「君の名は。」より)

 このエロティックなうわさをそっと心に留めていた麻鳥だったが、ある晩ひょんなことから例の13号室に転がり込むことになる。まさか、この人が! あのうわさに身構えまくっていた麻鳥が出会った「魔女」の正体は、学園の二年生・箆里詩慧(へらざと・しえ)であった。絶世の美貌と無防備なランジェリー姿、やたらと整った立派な寝具、そして強引に部屋に引き止めるその姿勢。麻鳥はしえ先輩を前に思わず「大人の階段」を期待するが、彼女が麻鳥を部屋に引き込んだ理由は別の場所にあった。それが、「夜の間、映画についてお話させてほしい」という奇妙な願い事だったのである。

おやすみシェヘラザード 漫画 映画 レビュー やわらかスピリッツ 篠房六郎 本作のシェヘラザード=しえ先輩(第一夜「裏切りのサーカス」より)

 箆里詩慧=しえ・へらざと、すなわち「シェヘラザード」。しえ先輩の名前の元ネタは、「千夜一夜物語」に登場する賢い后だ。一晩を共にした女性を次々に処刑する横暴な王のもとに嫁いだ彼女は、毎晩王に物語を聞かせ、夜が明ける頃に「また明日」と打ち切ってしまったという。王は物語の続きを聞きたいあまり、シェヘラザードを殺さないまま千と一夜を過ごした。最終的に王は彼女を正妻と認めることになる。

 ではしえ先輩の映画の話も、このシェヘラザードのように魅惑的で、いいところで寸止めされてしまうのだろうか? ……そうであればどれだけ麻鳥は楽だっただろう。「最後まで私の話を聞いてくれたら秘密のご褒美をあげる」と話すしえ先輩は、とんでもなく眠たくなる声の持ち主で、おまけにとんでもなく映画の説明が下手くそだったのだ!

 しえ先輩は頑張って大好きな映画をレビューし、麻鳥はしえ先輩とのピンクな展開を期待して懸命に話を聞く。しかしどうやったって、麻鳥を待っているのは気持ちいい寝落ちのみであった。

おやすみシェヘラザード 漫画 映画 レビュー やわらかスピリッツ 篠房六郎 得意げに話すしえ先輩だが、説明はど下手くそであった(第一夜「裏切りのサーカス」より)

 掲載媒体「やわらかスピリッツ」をのぞくと今作のページにこう書かれている。「もはやカテゴライズ不可能!! 誰も見たことの無い映画レビュー寝落ちバトル百合エロ漫画スタート!!」……「映画レビュー寝落ちバトル百合エロ漫画」。盛り込みすぎている。しかしこの複雑なキャッチコピー以外に、この漫画を適切に表現できる言葉はないだろう。

 本作の魅力に関して、この記事では二点を挙げておきたい。

 まず第一に、絵の美しさだ。透明感のある絵柄で描かれる少女の麗しさは言うまでもないが、特筆すべきは光と影の描写である。

 しえ先輩と麻鳥が言葉を交わすのは基本的に夜だ。光源は枕元の両サイドに置かれた小さな明かりだけである。大きなベッドの上で向かい合って横たわる二人の顔には常に影が落ち、光は時おり髪や肌をわずかに照らす。修学旅行の夜を思い出してほしい、心地よい暗闇のなかで見る友人の表情はいつもと違って見えなかっただろうか? 自分達以外の誰もが寝静まる時間の、不思議なほどオープンな気持ちになる特別な空気を、篠房六郎は一滴残らず絵に落とし込んで見せるのだ。決してよく知っているわけではない、なのにどうしようもなく惹かれる……麻鳥が先輩に向ける視線の意味が、じわじわと肌で伝わってくる。

おやすみシェヘラザード 漫画 映画 レビュー やわらかスピリッツ 篠房六郎 肌に落ちる光と影が美しい(第一夜「裏切りのサーカス」より)

 第二に、しえ先輩による映画レビューの圧倒的な下手くそさである。

 レビュー漫画と言えば、短いページでも作品の魅力やインパクトのあるシーンを伝える内容が普通だ。しかし、『おやすみシェヘラザード』は違う。めちゃくちゃな順序で行き当たりばったりに語られるしえ先輩の説明では、映画のどこがどういいのかはいまいち分からない。「しえ先輩はその映画が好き」ということしか伝わってこないのだ。

おやすみシェヘラザード 漫画 映画 レビュー やわらかスピリッツ 篠房六郎 彼女は「本気」でやっているのである(第ニ夜「ファンタスティックMr.FOX」より)

 第一夜「裏切りのサーカス」では何も知らない麻鳥相手に俳優の名前と役名を並べ立てて混乱に陥れ、第二夜「ファンタスティックMr.FOX」では思い出し笑いで話が止まり、第三夜「呪怨」では見なければ分からない幽霊の登場シーンを必死に口で解説しようとする。映像の楽しみを言葉にする難しさとそれ以上にほとばしる愛がコミカルに表現され、読者はしえ先輩の不可解な話についつい引き込まれてしまうのである。

おやすみシェヘラザード 漫画 映画 レビュー やわらかスピリッツ 篠房六郎 誰もが知る「君の名は。」の説明も、「伏線だから」を連発して「あ、この人下手だ」とすぐにわかる

 現在『おやすみシェヘラザード』は四話まで無料公開中だ。千一夜を日にちに直すと約三年弱、ちょうど高校課程と同じぐらいの期間になる。しえ先輩は麻鳥に映画の魅力を伝えられるのか? 麻鳥はしえ先輩と大人の階段を登れるのか? 乙女の青春をかけた静かな攻防戦から、どうしたって目が離せない!

正しい倫理子


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/01/news003.jpg パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  2. /nl/articles/2412/01/news031.jpg 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  3. /nl/articles/2412/03/news082.jpg 「ほ、本人……?」 日本に“寒い国”から飛行機到着→降りてきた“超人気者”に「そんなことあるw?」「衝撃の移動手段」の声
  4. /nl/articles/2412/03/news111.jpg 才賀紀左衛門、娘とのディズニーシー訪問に“見知らぬ女性の影” 同伴シーンに「家族を大切にしてくれない人とは仲良くできない」
  5. /nl/articles/2412/02/news009.jpg 【今日の難読漢字】「誰何」←何と読む?
  6. /nl/articles/2412/05/news006.jpg 「今やらないと春に大後悔します」 凶悪な雑草“チガヤ”の大繁殖を阻止する、知らないと困る対策法に注目が集まる
  7. /nl/articles/2412/03/news148.jpg 武豊騎手が2024年に「武豊駅に来た」→実は35年前「歴史に残る」“意外な繋がり”が…… 街を訪問し懐古
  8. /nl/articles/2412/03/news092.jpg 大谷翔平、“有名日本人シェフ”とのショット 上目遣いの愛犬デコピンも…… 「びっくりした!!」「嬉しすぎる」
  9. /nl/articles/2412/03/news055.jpg ハローマックのガチャに挑戦! →“とんでもない偏り”に同情の声 「かわいそう」「人の心とかないんか」
  10. /nl/articles/2412/03/news034.jpg 古着屋で“インパクト大”なブランケットをリメイクすると…… 劇的な仕上がりに386万再生「これはいいね、欲しい!」【海外】
先週の総合アクセスTOP10
  1. パパに抱っこされている娘→11年後…… 同じ場所&ポーズで撮影した“現在の姿”が「泣ける」「すてき」と反響
  2. 「何があった」 絵師が“大学4年間の成長過程”公開→たどり着いた“まさかの境地”に「ぶっ飛ばしてて草」
  3. 「中学生で妊娠」した“14歳の母”、「相手は逃げ腰」妊娠発覚からの経緯を赤裸々告白 母親の“意外な反応”も明かす
  4. 勇者一行が壊滅、1人残った僧侶の選択は……? 「ドラクエでのピンチ」描くイラストに共感「生還できると脳汁」
  5. 「笑い止まらん」 海外産アプリで表示された“まさかの日本語”に不意打ち受ける人続出 「何があったんだw」
  6. パパが好きすぎる元保護子猫、畑仕事中もくっついて離れない姿が「可愛すぎる」と反響 2年以上がたった現在は……飼い主に話を聞いた
  7. アグネス・チャン、米国の自宅が“度を超えた面積”すぎた……ゴルフ場内に立地&門から徒歩5分の豪邸にスタッフ困惑「入っていいのかな」
  8. 「理解できない」 大谷翔平と真美子さんの“スキンシップ”に海外驚き 「文化は100%違う」「伝説だわ」
  9. 「車が憎い」 “科捜研”出演俳優、交通事故で死去 兄が悲痛のコメント「忘れないでください」
  10. PCで「Windowsキー+左右矢印キー」を押すと? アッと驚く隠れた便利機能に「スゲー便利」「知らなかった」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」