矢口君は私の事なんて全然見てない 「ハイスコアガール」5話 少女のから回る恋心(1/2 ページ)

ハルオは小春にいっぱい謝らないといけないよ!

» 2018年08月11日 01時00分 公開
[たまごまごねとらぼ]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

ハイスコアガール (C)Rensuke Oshikiri/SQUARE ENIX

 ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育った恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」(原作アニメは、当時を経験していた人も、そうではないゲーム好きも、そしてかつて子どもだった全ての大人が、共感できる悩みをたくさん練り込んだ作品です。

 今回は、中学でハルオと出会った少女・小春が恋に気付いていく、甘酸っぱい物語。


ハイスコアガール


プレイするのをうしろから見てたいから

 中学2年生になったゲームバカの矢口春雄(ハルオ)。全身全霊を注いで遊ぶハルオに出会って、ぼんやりと心ひかれるようになった日高小春。たまたま2人は正月に町で出会います。ゲームショップで、大好きなゲームについて語りはじめるハルオ。小春はそれを見て思う「またペラペラしゃべってる……」。ハルオは小春に「モータルコンバット」の素晴らしさを教えるべく、小春を引き連れてゲーセンに向かいます。


ハイスコアガール 小春はとっても真面目な子なのでゲーセンに来たことがない様子(2巻P58)

 「モータルコンバット」は1992年にミッドウェイゲームズが開発した作品で、アメリカ産。当時残虐ゲームの極みとして話題になった作品です。実写格闘ゲーム(4からは3DCGです)で、倒した後「究極神拳」を出すと「フェイタリティ!」の音声と共に、倒した相手を虐殺可能。親に怒られそうなゲームの筆頭でした。

 当時既に「サムライスピリッツ」が出ていて、試合の後に死ぬという描写や概念はあったものの、あえてわざわざコマンド入力して殺す、というグロテスクさは、子供の「悪いことしたい」心をくすぐりました。一応SFC版は残虐描写規制が入っています。MD版はアーケード版そのまま。アーケード版は立ってプレイする専用筐体でした。

 ハルオがひかれているのはヘンテコさの方でしょう。小春いわく「なんだかスゴイシュールな世界」。ハルオはそこに良さを感じ、プレイする度に脳みそがシビれ、何度でも楽しんでいる。これって、遊びの才能だ。

 ゲームは斜に構えて一歩引いて見ちゃうと、どれもこれも急につまらなくなります。なんでこんなことやってるの、無駄じゃないの、この世界観おかしくないか、などなど。それこそ究極神拳なんて、はたからみたら不要な行為でしかない。

 でも、シビれるんだから仕方ない。大変な思いをして、悩んで、練習して、怒ったり泣いたりして、その末に感じられるドキドキが、ゲームにはある。その快感と感動に理屈なんてないのは、ゲームに向き合いワクワクしたことのある人なら、みんな感じているもの。


ハイスコアガール やってるのうしろから見てたい。その言葉の意味に気付けよ、ハルオ(2巻P96)

 小春は現時点では、積極的に自分からプレイすることはありません。ゲームを楽しそうにプレイしているハルオを、うしろから見てたいと言います。要は「一緒にいる時間がほしい」「ゲームをプレイしている君を見たい」の意味合いが強い。彼女の興味はゲームには向いていません。ハルオが見ている世界を、小春はまだ、知らない。

 にしても男女2人でゲーセンって、よっぽどお互いゲーム好きで理解しあえてないと、しんどくなる気がする。ゲーマーはプレイ中、ゲームに恋してるのだもの。それこそ、真剣に向き合うことで心通じあったハルオと大野くらいのような関係でなければ……。


小春の恋の芽生え


ハイスコアガール 比較的男前なハルオにしては最悪な言動のシーン(2巻P69)

 クリスマスで、(半ば強引とはいえ)ハルオとプレゼント交換した小春。その時の手袋を「サムライスピリッツ」こすり連打のために利用してボロボロにしているハルオ。

 最近は追加入力やセミオート連打のシステムが主流なので、「連打すると強くなる」格闘ゲームはあまりありません。しかし90年台は、連打すればするほど、レバーを回せば回すほどダメージが大きくなる技がたくさんありました。相当なスピードで連打しないといけないものも。

 そこで使われたのが、爪で左右にボタンをこすり、連打状態にするというもの。ほかに主流だったピアノ連打(中指と人差し指で交互にたたく)よりも(多分)早い。問題は激しすぎるので指とボタンへのダメージが大きいこと。ボタンが削れている筐体は結構ありました。

 ハルオが使用していた不知火幻庵は、通常投げのあと連打をするとめちゃくちゃに相手の体力を減らせるという、知る人ぞ知る技の使い手。そもそもこのゲーム大斬り一発で体力ごっそりもってくので、ひきょうではない。ただ、膝・膝・膝・投げからの連打とか、正直イラッとする。しかも強い。

 ハルオは、小学校時代初めて大野とストIIで対戦したとき、待ちガイルに投げハメという最悪なスタイルで戦っていました。その根性が変わっていないんでしょう。

 大野はその時、ハルオをぶん殴っていました。小春はそういうゲーマーではありません。ただひたすらに、ハルオのプレイが陰険で、自分の手袋を台無しにしていることに腹を立てています。そりゃそうだ。でも、ここで怒り切れないのが、小春という子。

 「マイペースすぎる性格は前から分かってたのよね」「お年玉セールやってたゲームショップで……私をゲームセンターに連れてったばかりに何も買えてなかったよね……」「なんか悪い事しちゃったかしら」

 いい子すぎるのか、ダメンズにひかれる性質なのか、恋は盲目なのか。

 小学校時代の大野とハルオの関係に比べて、小春はかなり明確に恋愛を意識しています。特にアニメ版では、かなりはっきりと恋をしている様子が強調されているようです。

 あれだけ腹を立てていたのに、自分の店の前でゲームをしているハルオを見つけてしまって、気になって仕方ない。彼がプレイするゲームの音を聞き、どんなプレイをしているのか想像してしまう。寒いのに熱中している彼の姿にうらやましさを感じてしまう。


ハイスコアガール 今作屈指の、かわいい小春のシーンの1つ(2巻P75)

 もしかしたら自分のことを待っていてくれるのではないか、いやそれは思い上がり、と葛藤してしまう小春の姿。ああこれは、恋だね。絶対そんなことないから、と分かっていてもIFを考えてしまう中学生少女の純情。結局ハルオがそんなこと微塵も考えていないほどゲームに熱中しているからこそ、ひかれてしまうんでしょう。


ハイスコアガール 今作屈指の、かわいい小春のシーンの1つ、その2(2巻P88)

 バレンタインで、「義理」とは言いつつもしっかりハルオへのチョコを準備している小春。しかも彼女の人生の、初チョコです。彼女は自分自身と向き合うことができる子。自分がハルオに対して、望む距離感を持つにはどうすればいいのかを考え、行動し続けます。


矢口君は私の事なんて全然見てない

 ハルオが風邪をひいて学校を休んだ、バレンタインデー。小春は彼にチョコを届けに家を訪れます。部屋にあがった彼女にPCエンジンのゲームを勧めるハルオ、勧められるがままにプレイすることになった小春。彼女がプレイしたのは、「功夫(クンフー)」でした。


ハイスコアガール この光景は、かつて見たあの時の(2巻P98) (c)Konami Digital Entertainment

 まさにそれは、大野が小学校時代に彼の家を訪れ、夢中になって遊んでいたゲーム。シチュエーションもまんま同じです。ハルオは強く感じます。「……久しぶりに対戦してえなぁ……大野と……」

 大野と、というのは全く変わらない。だから小春も、気付いてしまった。

 「今日一緒にいてわかった……矢口君は私の事なんて全然見てないって事……」「それでもこの気持は曲げたくない……」

 恋のため、小春は大きく自分を変えていきます。健気って、こういうことを言うんだと思うなあ。


       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2412/20/news096.jpg 新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
  2. /nl/articles/2412/20/news034.jpg 「博物館行きでもおかしくない」 ハードオフ店舗に入荷した“33万円商品”に思わず仰天 「これは凄い!!」
  3. /nl/articles/2412/18/news015.jpg 家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
  4. /nl/articles/2412/20/news050.jpg 「マジかーーー!」 新札の番号が「000001」だった…… レア千円を入手した人が幸運すぎると話題 「555555」の人も現る「御利益ありそう」「これは相当幸運」
  5. /nl/articles/2412/20/news148.jpg 浅田真央、男性と“デート” 驚きの場所に「気づいた人いるかな?」
  6. /nl/articles/2412/20/news016.jpg 身内にも頼れず苦労ばかりの“金髪ギャルカップル”→10年後…… まさかまさかの“現在”に「素敵」「美男美女でみとれた」
  7. /nl/articles/2412/18/news144.jpg 海岸で大量に拾った“石ころ”→磨いたら…… 目を疑う大変貌に「すごい発見!」「石って本当にすてき」【カナダ】
  8. /nl/articles/2412/18/news047.jpg トイレットペーパーの芯を毛糸でぐるっと埋めていくと…… 冬に大活躍しそうなアイテムが完成「編んでるのかと思いきや」【海外】
  9. /nl/articles/2412/15/news077.jpg 生後1カ月の保護子猫、後頭部を見るとあのアルファベットが……→9カ月の現在にびっくり 「プレミアム猫」「本当にPですね」
  10. /nl/articles/2412/19/news190.jpg 辻希美、17歳長女・希空に「ダサすぎるって」とツッコんだ格好 
先週の総合アクセスTOP10
  1. ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
  2. ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
  3. フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
  4. 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
  5. 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
  6. 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
  7. 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
  8. ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
  9. 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
  10. セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
  2. 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
  3. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  4. アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
  5. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  6. 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
  7. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  8. 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
  9. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  10. 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」