「LA-MULANA(ラ・ムラーナ)」というゲームのこと、1人のゲームライターの人生のこと「LA-MULANA 2」レビュー(2/3 ページ)

» 2018年08月17日 11時00分 公開
[池谷勇人ねとらぼ]

「ダンジョンが17個あってそれが全部中でつながってるゼルダ」という地獄

 さて、僕のルエミーザ博士はどうなったかというと、ゲーム開始から10日ほどたってもまだ遺跡の中をさまよっていた。なんとなく当時のTwitterを掘り返してみたら、このころだけすっぽり2週間ほど空白になっていて、そういえば当時はまさに精神的不調の絶頂期で、最低限の仕事以外は、起きている時間の大半を「LA-MULANA」に費やしていたのを思い出した。

 プレイ時間は既に数十時間にまで達していたが、ゲームはまだまだ中盤といったところだった。しかし遊んでいるうちに、なぜこのゲームが「やべえ」といわれていたのか、(特にMSX好きなわけでもない)僕にもだんだん分かってきた。

 巨大な1つの遺跡であるラ・ムラーナの内部は、「導きの門」「巨人霊廟」「太陽神殿」など、最終エリアも含めると全部で17のフィールド(+α)に分かれていて、1つ1つのボリュームは大体「ゼルダの伝説」のダンジョン1個分に相当する。未プレイの人にも伝わるように説明すると、取りあえず「ダンジョンが17個あるゼルダ」だと思っていただきたい。


LA-MULANA 攻略本より、「導きの門」のマップ。こんな感じのフィールドが全部で17ある(攻略本については後述)

 しかも「LA-MULANA」の場合、「1つのダンジョンをクリアしたら次のダンジョンへ」という作りになっていない

 どういうことかというと、例えば「導きの門」を探索していると、まだボスも倒していないのに、隣接する「巨人霊廟」とか「空の水源」とかにも行けてしまう。で、いったん「導きの門」の攻略は後回しにして別のフィールドをウロウロしていると、全く関係のない離れたフィールドで「導きの門」のヒントや攻略アイテムがポロッと見つかったりする。ゼルダで例えるなら、「最初からほぼ全部のダンジョンが開放されていて、それぞれが内部で密接につながり合っており、全てを同時に行き来しながらでないと謎が解けないゼルダ」だと思ってほしい。殺す気か。


LA-MULANA 同じく攻略本より。遺跡内にはあちこちにヒントが書かれた石碑が置いてあるのだが……

 こう書くとむちゃくちゃ難しいように聞こえるが実際むちゃくちゃ難しい。謎解き自体もヒントがないとまず解けず、しかもかなり前に見たヒントが後になって「これのことか!」と急に結びついたり、ゲーム終盤で手に入れたアイテムが、序盤で見かけた仕掛けにスポッとハマったりする。途中からはメモ帳を常時開いておいて、見かけた謎やヒントは全部書き留めながら遊ぶようにしていた(ゲーム内でもメモ機能はあるが、1つ謎を解くたびに5つくらい新しい謎が出てくるので圧倒的に枠が足りない)。

 ちなみに開発者自身が作った「公式ガイドブック(基礎知識編・完全攻略編)」もあるのだが、「当時の攻略本っぽさ」を追求しすぎたせいで、肝心なところはページが破れていたり、テキストも「どうすればここへ行けるのだろうか?」などとぼかして書いてあったりしてまるで役にたたない(完全攻略編はそこそこ役に立つ)。ただ、画面写真をわざわざ全部ブラウン管に映してそれを撮影していたり、紙ならではの“透け”を再現するために、わざわざ裏のページをスキャンして背景にうっすら重ねていたりと、確かに「当時の攻略本っぽさ」へのこだわりはものすごく、これは文句なしにすばらしいのでぜひ読んでみてほしい。


LA-MULANA 公式が配布している攻略本(基礎知識編)。いかにも「当時の攻略本っぽい感じ」だが、紙の折れ目やホチキスのとじ跡などは全部自分で描いているとのこと

LA-MULANA 画面写真はわざわざ全部一度ブラウン管に映してから撮影している

LA-MULANA このマップのツギハギ感!

ゲームに込められた、圧倒的な熱量と純粋さ

 謎解きの難しさばかり例に挙げてしまったが、単純にアクションゲームとしてもゲロを吐くレベルで難しい。即死トラップはそこらじゅうに仕掛けられているし、穴に落ちれば必ずといっていいほど下には針の山が待っている。ボス戦では10回や20回のリトライは当たり前で……あらためて思い返してみたらただのひどいゲームのような気もしてきたが、実際ひどいゲームなのは間違いない(一応、この難しさに“ちゃんと意図がある”ことは、インタビューや講演などで度々語られている)。


LA-MULANA ボス戦では「取りあえず1回は死ぬ」のが当たり前

 ただ、それで嫌になってしまうかといえばそんなことはなくて、むしろ死ねば死ぬほど「ちくしょう絶対クリアしてやる!」という思いは強くなっていった。同時に、開発者がこのゲームに込めた熱量というか、本気さ、純粋さのようなものに魅せられ、気付けば寝食も忘れて没頭している自分がいた。そこには日本の商業ゲームからいつの間にか失われていたもの、僕が求めていたものが確かにあった。

 今でこそスマホゲーのおかげで売上絶好調だったり(これも最近ではまた事情が変わってきているけど)、「モンスターハンター:ワールド」「ペルソナ5」「NieR:Automata」のように世界で評価される国産タイトルが次々出てきたりしているが、このころの国内ゲーム業界は本当にどん詰まり感しかなくて、それは同時にゲームライターとして業界の片隅で糊口をしのいでいた自分にとっても死活問題だった。

 そんな時に出会ったのが「LA-MULANA」だった。こんなものをたった3人で、しかも10年も前から(ほぼ無報酬で)作っていて、しかもそれが世界で評価され、多くのファンから愛されている。「Minecraft」が世界で大ヒットを飛ばす一方で、日本にもこんな世界があったのか――と衝撃を受けた。


LA-MULANA 今はもう存在しない、3人によるサイト「GR3 PROJECT」

 それからさらに数日たって、ついに僕は「LA-MULANA」をクリアした。ゲームをクリアして、これほどの開放感と達成感を味わったのはどれくらいぶりだろう。派手に崩壊していく遺跡(お約束!)を見ながら、そんなことをふと考えていた。


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