ライバルだなんて思い上がりだったのか? 「ハイスコアガール」6話 ハルオがこらえた涙(1/2 ページ)
彼女が見せた、ファイナルアトミックバスター。
ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育った恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」(原作/アニメ)は、当時を経験していた人も、そうではないゲーム好きも、そしてかつて子どもだった全ての大人が、共感できる悩みをたくさん練り込んだ作品です。
今回は、ハルオが同志だと思っていた大野晶、ついに帰国、そして再会。
帰ってきたアイツ
3話でロスに引っ越した大野晶。表の姿は天才お嬢様、裏の姿はガチゲーマー。ストIIのザンギエフ使いの彼女に、ライバル心を燃やしていたゲーム狂の矢口春雄(ハルオ)。2人は小学校時代、天敵同士でありつつも、引力のように惹かれ合う関係でした。
涙の別れから時が経ち、2人は中学2年生。大野が帰ってきたといううわさを聞き、ハルオの心は沸き立ちます。
ハルオは大野と別れてから、彼女と再び戦うことを心に誓い、ゲームに真剣に打ち込んでいました。「ストII」は「ダッシュ」「ダッシュターボ」と続いて、「スーパー」に進化。そして「スーパーストリートファイターII X(以下・スパIIX)」が満を持して登場。多くのキャラに新技が追加された中、全く新必殺技が追加されなかったにもかかわらず、彼はガイルをかたくなに使い続けていました。
もともとハルオは「勝つため強いキャラを選ぶ」ストロングスタイル。彼の「負けたくない野郎に負けるわけにはいかねーんだぜ」は、格ゲーの考え方としての1つの名言です。なのに、シリーズが続いて弱体化しようがなんだろうが、ガイルを使い続けるハルオ。彼の心の中にしばしば登場する叱咤激励の声は、いつもガイル。彼の生き方そのものにシンクロしているのだもの、大野ザンギエフと向き合うなら、ガイルを選ぶ以外ありえない。
ところが彼が目の当たりにした大野のザンギエフは、対戦台で104連勝という、人間離れした状態。ハルオ自身もゲーセンで連戦連勝できるくらいうまいものの、さすがにビビってしまいます。技も増えて大分強化されたとはいえ、「スパIIX」でもザンギエフはまだダイヤグラム下位だったはず。こんな再会、武者震いせざるを得ない。
彼女の距離
ハルオが100円を投入した時、大野は彼に気付きます。そしてまさかの、試合放棄。104連勝を捨てました。さすがにこれはハルオも予想外。あんなに一緒にゲームで遊んだのに……。
実は小学校時代、ハルオと大野は何度もゲーセンで顔を会わせてはいるものの、対戦をしたのは、初対面の一回だけです。1巻の「SPECIAL-CREDIT」では「ダブルドラゴン」で一応戦っていますが、対戦ゲーム、ましてや因縁の「ストII」ではない。
お互いにとって「ストII」が特別なのは間違いない。だからこそ構えてしまう。だからこそ、大野が自分の前から去ったのを見て、ハルオは困惑してしまう。彼女が何を考えているのかなんて、今まで離れていたんだもの、分かんないよ。
ギャグでよく泣いているハルオですが、ここでは真剣に涙を流しました。くしくも、一緒にやる羽目になったのはいつも通りの「ファイナルファイト」。大野は彼が使うガイを、自キャラのハガーで、何も言わずに邪魔します。
「お……俺は今日のためにストIIダッシュからスパIIXまで修行してきたのだ……それもこれもお前とまた戦う事を夢見て積み重ねてきた……唯一同志(ライバル)と呼べるヤツが帰ってきたと……うれしかったのによ」
もともとハルオが大野に惹かれたのは、劣等生だった自分と、家庭に縛られて苦しんでいた大野が、ゲームの中では自由になれる、語り合えるというシンパシーを感じていたからでした。天敵だと感じつつも、見事すぎるプレイに強いリスペクトを抱いていました。あまり顔には出さなかったけども、彼は大野が帰ってきたと聞いて、ものすごくうれしかったはず。今までみたいにまた一緒に、ゲームの中で自由に遊べると、思っていたはず。
なのに対戦は拒否され、「ファイナルファイト」では邪魔者扱いされる。「同志だなんて俺の思い上がりも甚だしかったのか?」「お前と肩を並べてプレイする資格はもはや俺には……」
どうしてもハルオに感情移入させられて、2年間の喪失感が押し寄せてくるシーンです。彼が本気で泣く場面はそうそうない。
ただ、大野の気持ちが端々に込められている場面でもあります。ハルオが拒絶されていると感じた「ファイナルファイト」の2人プレイ。でも2人横に並んでクリアまでしている状況、小学校時代に大野が遊園地で、わざわざハルオと2人で遊んだときのこと、思い出してしまう。
現時点では、彼女の気持ちは明示されていません。ハルオ視点だからです。これを、一言もしゃべらない、という大野の独特なキャラ付けによってうまく演出しています。ここがなんでも正直にしゃべろうとする小春と、対照的なところです。
大野の心理は、この回の最後の指輪で、静かに明かされます。
'94年前後のゲーセン事情
'94年前後、「スーパーストリートファイターIIX」「サムライスピリッツ」「キングオブファイターズ'94」「餓狼伝説SPECIAL」「龍虎の拳2」「ヴァンパイア」「豪血寺一族」「バーチャファイター」「ワールドヒーローズ」など、怒涛(どとう)のように著名格ゲーが出まくり、ゲーセンの対戦台には人があふれかえっていた時期です。
一人プレイ台は、まず並ぶ。プレイを見ているのが楽しいというのもあるけど、基本は自分がやりたい。ハルオは1つの台で10人待ち。当時よくあった話です。トイレ行くのを我慢して並んで、プレイした経験のある人もいると思う。
対戦台の場合、できるだけ早くやりたいから、負けそうな人の台の方に回って「死ね死ねオーラ」を出す、という光景はざら。大変殺伐としていますが、その戦場感はちょっと熱かった。ハルオは「まさに男の戦場」と差別丸出しな発言をしていますが、実際通っていた9割9分くらい男だったと思う。
今でこそ当たり前のように格闘ゲームにはある超必殺技。通常の必殺技ではなく、ゲージを消費して出す強力な攻撃です。登場したのは93〜94年くらいから。「龍虎の拳」あたりから登場し、SNKの「餓狼伝説シリーズ」「KOFシリーズ」で一般化。「ストリートファイター」シリーズは「スパIIX」のスーパーコンボが初出です。
「真空波動拳(テンキーだと236236+P)」はまだ難しくないほうですが、作中にも登場するガイルの「ダブルサマーソルトキック」は「1溜め319+K」と、慣れないと意味が分からない難解さ。ましてやザンギエフの「ファイナルアトミックバスター」は「2回転+P」。1回転でもしんどいのに、通常投げより間合いの狭い状態で2回転とか、出すだけですごい。全体的にどのゲームも、今よりコマンドはきっちり入れないと出ないくらいにシビア。
ハルオが言っているように、コマンドがやたらめったら複雑化したのもこの時期。カプコン系はまだマシな方で、SNKだと「レイジングストーム(1632143+BC)」「ブラッディフラッシュ(34123616+BD)」「天覇封神斬(341236421+BC)」「ブレイクスパイラル(4123692+BC)」など、覚えるのも大変、出すのも要練習な技がいっぱいありました。「真サム」のぬいぐるみ化コマンド全部覚えようと頑張った人多いと思う。
要は「出すのが難しいこと自体がゲーム性」だったので、あえてややこしくしていたようです。それどころか「隠し技」「隠しキャラ」が潜ませられていたくらい。今回大野が豪鬼を使ってみなを驚かせたのは、まだその情報が出回ってない頃だから(しかも偶然で見つけられるような入力方法では出ない)。
ネットもない時代なので、隠し技やキャラはゲーセンノートとゲーメストが頼りの綱。不親切どころじゃないんだけど、その分からなさが宝探しみたいで、ワクワクしたんだよなあ。そうだろ、ハルオ。
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