Steamで「Hentai」ゲームと呼ばれる作品が急増中 「Hentai」ゲームの実態と、その裏に隠れた問題とは
ただ質が悪いだけじゃない。
Steamは、世界最大のPCゲームプラットフォームであり、今やメジャー、インディー問わず、開発者にとって欠かせない市場になっている。規模の小さな開発チームの作品でさえも、世界中のゲーマーに遊んでもらえる可能性がある。以前から自由なプラットフォームであることが知られていたが、2017年7月に開始されたSteam Directによって、個人開発者が自身の作品をSteamでリリースしやすくなったことにより、その傾向は強まっている(関連記事)。
窓口が広くなったことによって、これまでにないユニークなアイデアを持った開発者が参入する可能性も高まった。この制度がさらに面白いゲームをプレイする機会を生むことにつながり、市場全体に良い影響を与えていくような流れになることが、Steamを運営するValve社の理想ではないだろうか。しかし一方で、Steam Direct導入後より低品質なゲームが増え続け(関連記事)、過激な描写を含むゲームが問題になるなど、見過ごせない課題を抱えているのも事実である。その最たる例が、「Hentai」ゲームである。
最近、Steamにて「Hentai」という名前を持つタイトルが多くリリースされているのをご存じだろうか。「Hentai Girl」「Hentai Memory」「Hentai Temple」など、いずれも強烈な響き を持つタイトルである。その多くが、ヌード要素を含むカジュアルゲームで、大抵はシンプルなパズルゲームだ。このように本稿におけるHentaiは、一般的な「変態」の意味ではなく、前述した特徴を持つゲームの要素であることを留意してほしい。
実は、このHentaiゲームは、ただリリースされているだけでなく、とにかく“大量に”リリースされており、トレンドともいえるほどSteamにあふれてきている。もちろん、ヌードコンテンツを含むゲームはこれまでにもリリースされていたのだが、今回言及するHentaiゲームは、これまでのセクシャルなゲームとは性質がやや異なる。
まず、Hentaiゲームが増えた背景には、2018年5月にリリースされた「Hentai Puzzle」というヌードカジュアルパズルのヒットにあると思われる。Steamレビューは2500件を超えており、ユーザーレビューも「非常に好評」となっている。この「Hentai Puzzle」がヒットして以降、同様のゲームが急増している。成功を収めたゲームの後を追うように、Hentaiゲームが量産されているわけだ。
Hentaiゲームの特徴は、ポルノコンテンツを有していることを除いても、いくつかある。まず1つ目が実績だ。実績とは、ゲーム中で特定の条件を達成した際に解除されるもので、コンソールでも浸透したやりこみゲーマー向けのシステムだ。例えば「PUBG」であれば37個、「モンスターハンター: ワールド」では50個用意されている。 しかし、上述した「Hentai Puzzle」には、約3000個もの実績が存在するのだ。さらに、その全てが30分もあれば全て解除できるという。同様に他のHentaiゲームでも大量に実績が用意されており、この手のジャンル作品の特徴の1つだといえる。2つ目の特徴は、価格にある。「Hentai Puzzle」は100円、「Hentai Memory」は99円、2018年9月1日に発売されたばかりの「World Hentai」でさえも100円であり、いずれも低価格なのだ。 中身は極めて薄い、多少エッチなパズルゲーム。それでいて安価で手に入り、短時間で大量の実績を解除できる。さらには、ちょっぴりエッチなトレーディングカードも入手でき、利益を得ることも可能。開発者にとってもユーザーにとっても、小遣い稼ぎにはうってつけであるというわけだ。
最古参「Hentai ゲーム」 開発者が語るうまみ
筆者が調査をしてみたところ、2017年9月24日にも、インディーデベロッパーのPinkySwearが、「Hentai」というゲームをリリースしていることが分かった。厳密にカテゴライズすれば、さらに昔にルーツがあるかもしれないが、少なくとも本稿の「Hentaiゲーム」の文脈でいうと、Steamにおける最古の「Hentai ゲーム」は「Hentai」である。実はこの「Hentai」にも252個の実績が用意されている。そして、PinkySwearはその後、「Big Dick」などのヌード要素を含むゲームをリリースしている。1つの潮流を作り出したメーカーであるともいえる。しかしなぜ「Hentai」に目をつけたのか、その背景などが気になるところ。そこで、Steam最古の「Hentai ゲーム」を生み出した、PinkySwearに「Hentai」と名付けた理由やデリケートな開発事情について伺うことにした。
筆者がPinkySwearに、Hentaiというキーワードを選んだ理由について尋ねてみたところ、「うまく言えないけど良い響きだったから」との回答をもらった。言語化はしづらいが、なんとなくキャッチーなミームとしてHentaiという言葉を気に入ったようだ。「キノコを集めるのが好きな女の子にHentaiと名前を付けたんだ」とも語っているように、セクシャルな意味があることは十分理解しているようだ 。開発コストについては、無料配布されたアセットのみを使用したと回答。人件費などは多少かかっているだろうが、かぎりなく低コストであることがうかがえる。「Hentai」の売り上げ本数については、複数のパブリッシャーと関わっているため、正確な数は分からないものの、約3万本をこれまでに売り上げているという。開発規模によって、ヒット本数の基準は違うと思われるが 、伺った開発環境からすると、3万本というのは十分な数字といえるのではないだろうか。
PinkySwearはSteam最古のHentaiゲームを生み出した開発者である。ただ、最近の傾向を追うためには、さらに意見を聞きたいところ。そこで筆者は、最新のHentaiゲームの開発者にもインタビューをおこなった。
今回話をうかがうことに成功したのは、「WORLD HENTAI」。2018年9月1日にリリースされたばかりのHentaiゲーム「WORLD HENTAI」は、日本語にも対応しているヌードパズルゲームである。SEKTOR GAMESはロシアの開発チームで、2018年4月には「WAY HOME」というアクションアドベンチャーゲームをリリースしている。先ほどと同様に、Hentaiというキーワードについて尋ねたところ、ロシアではHentaiという言葉はポルノアニメのことを指すらしく、そうした作品として位置付けるためにHentaiという言葉を使用したという回答をもらった。開発コストについては教えてもらえなかったが、「WORLD HENTAI」は発売から4日間で750本を売り上げたという。こちらの売り上げについても、個人開発であることと、簡素なゲームであるということを考えると、好調といえる数字であるように思える。
ただ質が悪いだけじゃない
さて、ここまではHentaiゲームが注目されているという流行と、その理由について開発者のインタビューを交えて紹介してきた。その他のタイトルの多くについてもユーザーレビューの件数などから察するに、ある程度は売れているのだろうという印象を持つのではないか。これだけならば、単なる低品質のゲームが氾濫しているというだけにすぎないのだが、この問題にはさらに根深い部分がある。根深い部分とは、いずれの作品も「著作権のある画像を無断使用しているのではないか」とユーザーレビューなどで指摘されている点だ。この件についても取材をおこなっている。
筆者は、「Hentai Dojo」のSteamコミュニティーにて開発チームに対し、画像の無断使用を指摘しており、この問題を熟知するフィンランドのゲーマー(以下、A氏)に話をうかがった。 A氏は「Hentai Dojo」と「Hentai Temple」の開発チームである、RewindAppが著作権のある画像を無断で使用していると語り、画像を描いた作者の名前や作品の関連性など非常に具体的な情報を次々に明かしてくれた。結果として、その画像の作者、つまり盗用された作者のほとんどが日本人であった。その後、実際にゲーム中のスクリーンショットとそれら作品を見比べてみると、同じものであると判断できた。いずれも作品の顔の部分をトリミングし、胴体部分をゲームに利用していることから、それが二次創作物であることを悟らせないように加工しているとも感じ取れた。 A氏は「これはごく一部なんだ」と強調し、Hentaiゲームのブームの火付け役である「Hentai Puzzle」も画像を無断で使用していると述べた。A氏いわく、これまでに「Hentai Puzzle」の開発チームへ画像の無断使用を指摘したところ、指摘をした部分のみ削除し、加工して再度リリースしてきたのだという。
その後、A氏から提供された情報が事実であるかどうかを確認するため、筆者は実際に画像の作者へ連絡を取った。それぞれの作者に「Hentai Dojo」、ならびに「Hentai Temple」のスクリーンショットを確認してもらった上で、「開発チームへ画像の使用許可を出したことがあるか」ということを尋ねた。すると、返事を頂くことができた作者全員から、間違いなく自身のイラストであるということ、そして使用許可を出していないという回答を頂いた。つまり、少なくとも、確認できた作品はRewindAppによって無断で使用されていたことはほぼ間違いない。このことから、A氏の語る内容は非常に信ぴょう性が高いといえるだろう。
世界最大のPCゲームプラットフォームにおいて、このような悪質な行為が横行していることに不安を感じる人もいるのではないか。もちろん、Hentaiゲーム全てが画像を盗用しているわけではないが 、A氏はこれまでにもHentaiゲームによって作品を無断使用された作者と連絡をとってきたのだという。つまり、今回のタイトルは氷山の一角でしかないと考えられる。この問題について、悪質な行為を行っている開発者に問題があることは言うまでもないが、あまりにも容易に問題のあるゲームがリリースされており、Steam側の現在のシステムについて疑問を抱えざるを得ない。
このような事態が発生した原因の1つ は、冒頭でもふれたSteam Directが根深く関連しているとみられる。というのも、一連のHentaiゲームは、ほとんどがこの制度が導入された後にリリースされているのだ。Steam Directでは、登録費100ドルの振込と書類の提出だけで、基本的にどんなゲームのリリースも容認される仕組みである。表現方法について開発者に委ねられているとはいえ、著作権の侵害となると話は別。またSteam Directによる開放は、低品質ゲームの量産だけでなく、こうした違法性が高い無秩序なゲーム販売を許している側面もある。
今回のように著作権に違反した開発者が存在することは深刻な問題ではあるが、Steam Directは本来、ユニークなアイデアを持った新たな開発者が参入しやすくなる有意義な制度のはずだ。実際にValveはこれまでにも対策を行っており、例えば9月6日には、トロールと呼ばれる悪質な開発者の対策として、「徹底した評価から始まる審査」を用意しているとSteam blogにて表明した。疑いあるゲームに対する審査だけでなく、過去に開発者がどのような振る舞いをしたか、ということを審査対象となっているようで、トロールと認められた開発者のゲームは永久に配信禁止にするという。著作権侵害に抵触しながら小遣い稼ぎを試みる「Hentai」ゲームも、もちろんValveの取締の対象になっているはずだ。今回のようなケースをどれだけ未然に防げるかは定かでないが、これまで以上に厳しい対策を行っている姿勢には期待できる。著作権侵害という深刻な問題を含め、悪質な行為が今後、Valveの取り組みによって、果たして正されていくのか注目していきたい。
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