「eスポーツで稼げることが分かれば人がついてくる」 プロゲーマー兼スクエニ社員が語る“兼業プロゲーマー”の実情(3/3 ページ)

» 2018年11月04日 11時00分 公開
[ねとらぼ]
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―― スポンサーから「専業になって」という話はきたりしますか?

ネモ: ないですね。自分が所属しているTEAM LIQUIDって大手のeスポーツチームなので結果については厳しいですけど、焦って結果を出せるものでもないですからね。

 ただ、ちょっと反省しないといけないなって思うことがあるんです。今年TEAM LIQUIDに移籍したときに、年間6回しか海外に行かないという話をしてたんですけど、今年最初の大会で5位に入ったことで「今年はたくさん大会にでて結果を残して、ポイントでカプコンカップに出たい」と思っちゃったんですよね。そしたら年間13回海外行く予定になって、有給が足りないから“金曜日の夜に飛行機に乗って、月曜の朝に帰ってきてそのまま出社”というのが3週間連続したことがあって、もう意味が分からんと(笑)。練習もしてないから結果も出ずにホテルでへこんでて、しかも次の日は仕事だし……兼業プロのモデルケースになりたかったはずなのに、そんな感じだと兼業プロになりたいとは思わないですよね。

※カプコンカップ:年末に開催される「ストリートファイター」シリーズの公式世界大会。当日予選もあるが、基本的には世界各地の大会で好成績を残したプレイヤーが出場できるため、多くの大会に出場したほうがカプコンカップ出場の可能性は高まる。優勝賞金は数千万円にも

―― 兼業プロのモデルケース、ですか。

ネモ: 兼業プロになれる人ってまだまだいると思うんですよ。「ストリートファイターIV」シリーズでも仕事しながらトップを争うプレイヤーはいましたし、そういうプレイヤーは今も眠っている。日本人って「儲けちゃいけない」という風潮がありますけど、それを変えたいんです。プロゲーマーだけでなく、「好きなことを副業にして稼ぎが増えました」という話はいろんな業界に伝えた方がいいと、自分では思ってます。

―― では、他のプレイヤーから「専業プロになったら?」と言われたりしませんか?

ネモ: ときどからは前に言われましたね。専業になれば「ストリートファイターV」だけでなく、いろんなゲームで活躍できると思われてるみたいで。ときどは「お前が専業プロになれば、いろんなゲームで結果を残せるはずだから」と。

―― 今はいろんなゲームで高額賞金の大会がありますし、ギルティギアシリーズを始め多くのゲームで実績を残してきたネモさんなら、それもできそうに思えます。

ネモ: でも、例えばギルティギアだって過去は強かったですけど最新作をやってみたら全然強くなかったですから。以前新作が出たときも週5で一日3〜4時間練習してましたけど、同じ社会人ゲーマーで同じキャラクターを使ってるナゲ選手が自分の倍ぐらいギルティギアシリーズをやり込んでたんですよ。最初の大会で戦ったときは勝てましたけど、「こんだけやり込まれてしまうなら将来的に絶対勝てなくなる」と感じて辞めたんです。本当はストリートファイターと両立したかったんですけどね。タイトルを絞らないと勝てないなって判断しました。

―― ナゲさんのプレイをみるとすさまじいやり込みを感じますよね。現にEVO JAPANでは優勝していますし。

ネモ: あの人、昔からいるプレイヤーですけどもともとはそんなに強くなかったはずなんですよ。他のゲームで対戦したときも「あんまりうまくないな」と思ってたのに、今は「どうやったらあれからそんなに強くなれるの?」というぐらい強い。自分も兼業プロでやっているので、ナゲさんはすごいプレイヤーだと普通に尊敬しちゃいますね。

―― 他プレイヤーの話でいうと、マゴさんとのやりとりも面白いですよね。Twitter上でお互い煽り合っていて、昨年末の10本先取マッチで10-0になったときのことを思い出したりします。

マゴ:国内格闘ゲーマーの中でもトップクラスの人気を持つ愛され系プレイヤー。EVO2017優勝者となったときど氏が勝因を聞かれた際、「I have Mago」と答えたシーンはあまりにも有名(関連記事)。2017年末にはネモ氏との10本先取マッチが行われ、10対0でネモ氏が圧勝していた

ネモ: 10先のことは一生言い続けますよ! 墓まで持っていきます(笑)。去年のカプコンカップに向けてマゴ本人と練習してたんですよ。おかげで僕は当日予選から勝ち上がって優勝候補のPUNKを倒して3位になりましたし、事前に対策相手になったプレイヤーで対策は知り尽くしてるはずなのに「10-0で負けるってお前すげえな」っていう(笑)。

―― (すごい楽しそう……)でも、直近のリーグ戦ではマゴさんに3-0のストレート負けでしたよね?


ネモ 国内トッププレイヤーが集結するリーグ戦「TOPANGA LEAGUE」のオンライン予選Aブロックでマゴ氏とネモ氏が激突。ネモ氏は3−0のストレート負けとなり、マゴ氏が年末の雪辱を果たすこととなった(画像はTOPANGA LEAGUE公式サイトより/赤丸のみ編集部にて追加)

ネモ: ……まぁあれは「G」(今年の夏にリリースされた新キャラクター)使ってたんで……。あの後Twitterでマゴからめっちゃ煽られましたけど、あいつはオンライン予選で落ちてますからね。「なんで予選落ちするやつにこんな煽られてんだ、ぜってえ許せねえな」と(笑)。まぁ、仲がいいからこそ成立してるんですけど。



社会人として、プロゲーマーとしての今後

―― 会社員として出世したいという欲はあるんですか?

ネモ: キャリアアップは狙っていきたいですね。社会人としての将来はまだそこまで考えてないですけど、いつか引退したときに「元プロゲーマーでスクウェア・エニックスの社員」という肩書って強力な武器になるはずです。

―― ということは引退後は普通に現在の職場で会社員をするんでしょうか。

ネモ: まだ分からないですね。今はスクウェア・エニックスの社員でもありますけど、プロゲーマーの活動をする個人事業主でもある。だから将来的には元プロゲーマーの肩書をつかって仕事を取っていくという方法もあると思います。

―― ではeスポーツ界の将来について伺います。年々大会の賞金は上がっていますし、プロゲーマーライセンスの発行も話題になりました。最近ではeスポーツがテレビで取り上げられる機会も増えましたが、そういったeスポーツ業界の動きはどう思いますか?

ネモ: まぁいい流れじゃないかなとは思ってますけどね。規模が大きくなれば人はついてきますし。

 でも、今ってeスポーツバブルだと思うんですよ。企業側が金額感を分かってなくて「このプロゲーマーにこんなにお金払うの?」と思っちゃうこともあるんですけど、今後はきっと適正化されていくと思います。今の状況が続くわけじゃないので、「プロゲーマーとして生きていくための気構え」はしっかりしといたほうがいいですよね。

―― 将来的にはプロゲーマーが淘汰される未来もあり得るのでしょうか。

ネモ: そうなる可能性はあると思います。もちろん、そうならないようにはしますけどね。

―― では、プロゲーマーとして今後の目標はありますか?

ネモ: さっきも話にでましたが、プロゲーマーとしてのビジネスモデルを作ること、それと若い世代をスター選手に育てていきたいです。今は同じチームメイトの竹内ジョンという若手選手を育てているんですが、将来的にはまた彼を目指すような選手が出てくればいいです。

竹内ジョン:ネモ氏と同じTEAM LIQUIDに所属するプレイヤー。現在20歳。「ストリートファイターV」の若手世代を代表するプレイヤーの一人

 これからもっと下の世代につなげていくためにも、若いプレイヤーに輝いてほしいんです。

(了)

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