人体切断や空中浮遊で「戦う」! “ヤバい人たち”が集うマジックの世界大会では何が起こっているのか?(4/4 ページ)

» 2018年11月10日 12時00分 公開
[赤いシャムネコねとらぼ]
前のページへ 1|2|3|4       

競技マジシャンの日常

――大会マジシャンは普段は何をしているんでしょう?

 出場するコンテストを決めたら、それに合わせて手順を作り練習をします。僕の場合はひと月前までに手順を決めて、あとはひたすら同じ演技を通して練習します。

 平日は会社で働いているので時間が夜しか取れませんが、その分、毎週金曜は23時から翌朝7時までスタジオ練習を入れてますね。同じコンテスタント仲間とペアを組んで、お互いの演技をチェックし合うことも多いです。

――一体どんな練習をしているんですか?

 基本的には、演技を正確に最後まで通せるか、角度的にタネが見えていないかといったチェックがベースになります。それに時折、特殊な練習を加えます。例えば観客の声援に応える練習ですね。

 「このマジシャンは誰が観客でも決まったことを機械的にやってるな」と思われると、ライブ感が生まれず萎えられてしまいます。そこで、観客が盛り上がったときに反応できるようにする練習をします。3人の観客役にバラバラな場所に座ってもらい、演技中の好きなタイミングで声援を送ってもらうんです。

 そうした観客に必ずアイコンタクトをとったりとか、アピールをしたりという練習をしています。面白いところだと、夢の中で練習している人もいますね。

――夢の中!?

 明晰夢で練習している後輩マジシャンがいました。モノを空中に浮かせるマジックを演じていたのですが、なんでもできる明晰夢の中で「実際にモノを浮かせる」感覚を習得して、それを実際の演技で再現していましたね。

――夢の中で練習するんですね……。

 夢の中だと突拍子もないアイデアが出るから、マジックを考える上では役に立つんですよ。あと役立ったのは、トラブルへの対応力をつける練習ですね。

――トラブルというと?

 普通は準備を完璧にしてから練習するんですが、友達にセッティングをこっそり崩してもらうんです。その不完全の状態のまま、何が問題なのかを知らないで演技をします。

 もちろん、糸を引きちぎるとか「完璧に演技続行不能なレベル」までは崩しません。ギリギリ頭を使えば最後まで演技ができるくらいまで、セッティングを何箇所か崩してもらって進めるんです。

 僕の場合は演技中に紙コップから水を飲むシーンがあるのですが、練習中に紙コップを持ち上げたら、なぜか100円玉が入っていて頭を抱えたことがあります。

――もしかして、マジシャン同士は仲悪いんですか?

 そんなことないです(即答)。でも交流がないマジシャンは大勢いますし、交流したい気持ちはあります。

――マジシャンって、同業者にもタネを隠しているんですか?

 人によって違います。同業者に聞かれたら何でも教える人もいれば、ショーが終わったら道具を即座に片付けてそそくさと帰る秘密主義の人もいる。

 もちろん、同業者以外には基本的に隠しますね。それはタネに限ったことではありません。競技マジシャンは、自分の演技の動画を宣伝以外では出さない人が多いんですよ。もし自分のコンテスト映像がYouTubeなどに上がったりしたら大問題です。

 大会の演技は初見の驚きの反応がポイントになりますし、ライバルにまねされるのも怖い。たまに客席から違法にとられた動画が流出することがあるのですが、大体は即座に消えますよ。

 僕の場合、YouTubeにマジックの動画があがったら通知がくるように設定しており、レアそうなものがあったら消される前に保存しています。もちろん、自分の演技が上がっていたら、すぐ削除依頼を出します。

――そういう大会の手順を普通の人が見ようと思ったら、どこに行けばいいんですか?

 大会以外では、マジックバーなどで大会出場者が働いていることはよくあります。有名なところだと、ハリウッドのマジックキャッスルに行けば見られますよ。


日本代表の演技に驚いた学生時代

――菰原さんが競技マジックを目指したきっかけを教えてください。

 マジック自体は小学校高学年くらいから趣味でやっていました。大学ではマジックサークルに所属し、年に何度かステージマジックを披露していました。

 コンテストに興味を持ったのは大学3年の頃です。大学のマジックサークルでは大抵、サークル外部の人にマジックを披露する学外発表会を開催します。この学外発表会が終わると引退する人が多いのですが、その後もステージマジックを続けたい人は、社会人サークルに所属したり、大会へ出たりするようになります。

 ある時、関東で行われている「学生マジック選手権」という大会を見に行ったら、普段のサークルでは見られないような日本全国のトップクラスの人の演技に驚いたんです。さらにラッキーだったのがその頃、FISMの日本代表を決める選考会が関東であって、日本代表の演技を見ることができたんですね。それはさらに凄かった。

 マジックの大会は見に行くだけでも面白いですが、自分でも参加してみたい。そう思って、2014年に学生マジック選手権に出場したのが最初のコンテスト経験でした。

 その時は演技の出来もひどくて、何の賞も取れなかった。それが悔しくて、以来繰り返しコンテストに出場してきました。


数々のステージに立ってきた菰原さん

――最後に、競技マジックについて伝えたいことをお願いします。

 マジシャンばかりが集まるコンテストというと、マニアックな人だけが集まっていると思いがちです。もちろんそういうマニアもいますが、本当に勝って成果を出している人たちは、そんなこと関係なしに、誰が見てもすごい。マニアも初めてマジックを見る人も、等しく驚けると保証します。だから、一度は観客として観に行ってほしいですね。

――大会はマジシャン以外でも見に行けるものなんですか?

 基本、誰でも観に行けます。参加費も安いものは5000円くらいからですし、世界最大のFISMでも8万円。1週間、世界トップクラスのマジシャンを見放題です。ショーとしてもコストパフォーマンスが最高にいいので、マジシャン以外の人にもおすすめです。

 次のFISMは2021年、カナダのケベックであります。僕も今からケベックを目指して練習をしています。みなさんとケベックでお会いできることを楽しみにしています。

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2411/21/news027.jpg 大きくなったらかっこいいシェパードになると思っていたら…… 予想を上回るビフォーアフターに大反響!→さらに1年半後の今は? 飼い主に聞いた
  2. /nl/articles/2411/20/news049.jpg 高校生の時に出会った2人→つらい闘病生活を経て、10年後…… 山あり谷ありを乗り越えた“現在の姿”が話題
  3. /nl/articles/2411/20/news222.jpg ディズニーシーのお菓子が「異様に美味しい」→実は……“驚愕の事実”に9.6万いいね 「納得した」「これはガチ」
  4. /nl/articles/2411/20/news027.jpg 「こんなことが出来るのか」ハードオフの中古電子辞書Linux化 → “阿部寛のホームページ”にアクセス その表示速度は……「電子辞書にLinuxはロマンある」
  5. /nl/articles/2411/20/news054.jpg 「防音室を買ったVTuberの末路」 本格的な防音室を導入したら居住空間がとんでもないことになった新人VTuberにその後を聞いた
  6. /nl/articles/2411/20/news050.jpg プロが教える「PCをオフにする時はシャットダウンとスリープ、どっちがいいの?」 理想の選択肢は意外にも…… 「有益な情報ありがとう」「感動しました
  7. /nl/articles/2411/21/news083.jpg 間寛平、33年間乗り続ける“希少な国産愛車”を披露 大の車好きで「スカイラインGT-R R34」も所有
  8. /nl/articles/2411/21/news085.jpg 「もしかしてネタバレ?」 “timeleszオーディション”候補者がテレビ局を退社 ディズニーの“船長”としても話題
  9. /nl/articles/2411/18/news107.jpg 走行中の車から同じ速さで後方へ飛び降りると? 体を張った実験に反響「問題文が現実世界で実行」【海外】
  10. /nl/articles/2411/21/news018.jpg グルーミングが出来ない生まれたての子猫、とんでもない体勢になり…… 想像以上のへたくそっぷりに「どこにも届いてないww」「反則級」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
  2. ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
  3. 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
  4. まるで星空……!! ダイソーの糸を組み合わせ、ひたすら編む→完成したウットリするほど美しい模様に「キュンキュンきます」「夜雪にも見える」
  5. 妻が“13歳下&身長137センチ”で「警察から職質」 年齢差&身長差がすごい夫婦、苦悩を明かす
  6. 人生初の彼女は58歳で「両親より年上」 “33歳差カップル”が強烈なインパクトで話題 “古風を極めた”新居も公開
  7. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  8. 互いの「素顔を知ったのは交際1ケ月後」 “聖飢魔IIの熱狂的ファン夫婦”の妻の悩み→「総額396万円分の……」
  9. ユニクロが教える“これからの季節に持っておきたい”1枚に「これ、3枚色違いで買いました!」「今年も色違い買い足します!」と反響
  10. 中央道から「宇宙戦艦ヤマト」が見える! 驚きの写真がSNSで注目集める 「結構でかい」「どう見てもヤマト」 撮影者の心境を聞いた
先月の総合アクセスTOP10
  1. 50年前に撮った祖母の写真を、孫の写真と並べてみたら…… 面影が重なる美ぼうが「やばい」と640万再生 大バズリした投稿者に話を聞いた
  2. 「食中毒出すつもりか」 人気ラーメン店の代表が“スシローコラボ”に激怒 “チャーシュー生焼け疑惑”で苦言 運営元に話を聞いた
  3. フォロワー20万人超の32歳インフルエンサー、逝去数日前に配信番組“急きょ終了” 共演者は「今何も話せないという状態」「苦しい」
  4. 「顔が違う??」 伊藤英明、見た目が激変した近影に「どうした眉毛」「誰かとおもた…眉毛って大事」とネット仰天
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 星型に切った冷えピタを水に漬けたら…… 思ったのと違う“なにこれな物体”に「最初っから最後まで思い通りにならない満足感」「全部グダグダ」
  7. 「泣いても泣いても涙が」 北斗晶、“家族の死”を報告 「別れの日がこんなに急に来るなんて」
  8. ジャングルと化した廃墟を、14日間ひたすら草刈りした結果…… 現した“本当の姿”に「すごすぎてビックリ」「素晴らしい」
  9. 母親は俳優で「朝ドラのヒロイン」 “24歳の息子”がアイドルとして活躍中 「強い遺伝子を受け継いだ……」と注目集める
  10. 「幻の個体」と言われ、1匹1万円で購入した観賞魚が半年後…… 笑っちゃうほどの変化に反響→現在どうなったか飼い主に聞いた