「百合」と「SF」、好きなものが両方入っていたら2倍うれしい 『裏世界ピクニック』宮澤伊織に百合を聞く(3/3 ページ)
百合とSFは相性がいい?
――「百合」としての『裏世界ピクニック』から入りましたが、SFとしての面白さも語っていただきたいです。
いとう: ホラーについては造詣が深いわけではないのでなんともいえないのですが、「裏世界」をめぐって言語SFや認知の問題に変化していく面白さがありますよね。Aという人物が認識しているものと、Bという人物が認識しているものが、同じものではない面白さ。テッド・チャンの『あなたの人生の物語』やサミュエル・R・ディレイニーの『バベル17』を思い浮かべました。
宮澤: 最初の担当さんに「もっとSF要素を入れましょう」とアドバイスをもらって、盛り込むことにしたSFネタが認知や言語だったように思います。
いとう: 認知がバグるのって、めちゃくちゃ怖いですよね。「今自分が見えているもの」がグチャグチャになっていくのは、かなり根源的な恐怖だと思うんです。そういったSF設定からくる怖さが、「裏世界」の世界観とも、読者の読み口とも絡んでくるのが面白い。
宮澤: 昔から、システム上本来想定されていない異様なことが起きているという、バグった状況が好きなんです。例えば「スーパーマリオブラザーズ」の裏技で“マイナス1面”に行けたり、「ぼくのなつやすみ」で“8月32日”に進んでいったり……。そういう不気味な状況が好きなことが、『裏世界』にも反映されている感じがします。
――『裏世界』の反響を見ると、百合とSFというのは相性がいいのではないかと思います。
いとう: うーん……百合とSFが特に親和性が高いのかと考えると、正直答えが出なかったんです。もちろん海外にはジェンダーSFの傑作がいくつもありますし、『モナリザ・オーヴァドライブ』も百合ですし、国内にも『ハーモニー』『紫色のクオリア』のような名作がありますが、BLものや男女恋愛ものとして読めるSFもたくさんありますから。「百合とSFが相性がいい」というよりも、「百合とSFが一緒だったらうれしい」というお気持ち……。
宮澤: あっ、そうですね。好きなものと好きなものが一緒になっていると、2倍うれしい!!!!
いとう: 「百合SF」という名前がついたのは、私の覚えている限り大阪大学SF研究会が2016年に「百合SF」と銘打った同人誌を出した影響も大きいような気がします。その同人誌では「これからは百合SFの時代が来ます」と宣言しているんですよね。それは結果として正しくて、今は百合の1ジャンル、SFの1ジャンルとして1領域を形成できている。
宮澤: これはきっとBLも同じだと思うのですが、親和性を聞かれたら特にないんですよね。強いて言うなら、SFとホラーは相性が悪いです。ホラーは「わからないから怖い」ものなのに対し、SFは「わからなさを解明する」ものなので。
いとう: 今後は裏世界の謎が解明されていくんでしょうか? SF好きとしてはそうなってほしい。
宮澤: わからないものをわからないものとして描くのはめちゃくちゃ難しいですし、「わからないもの」として作り上げたものを解明していくのも難しいな……と実感しています。『裏世界』は、ギリギリの接点に百合をぶちこむことで、バランスを保てているといいなと思っています。
【宮澤さん&いとうさんの百合トークが大爆発する後編はこちらから】
(C)Eita Mizuno / SQUARE ENIX (C)Iori Miyazawa / Hayakawa Publishing Corporation
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